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 ためらいがちにドアをノックする音に目を覚ました。
 そうっとドアノブが下がり、軋むこともなくドアが開いていく。
 するりと細長い影。
 「構わないか?」
 静かに問われ、来い、と答えた。
 ふわりと笑ったリカルドが手にしていたものが見えた―――カメラ。
 
 「練習台を撮りに来たのか?」
 「ああ」
 「熱心だな」
 「オレが見えているままに切り出せるか、気になったんだ」
 音も立てずに歩み寄ってくる親友の声に、低く笑う。
 
 抱き寄せたままのシャンクスの身体は、ぴくりとも動かない。
 そりゃそうだ。7回も吐精すれば、体力も相当使い果たしているだろう。
 「電気点けたら起きるか?」
 「平気だろ。窓側のサイドランプ点けようか」
 こちら側にあるパネルで、ゆっくりと光量を増していく。
 
 二人で見下ろす、満足げな表情で眠るシャンクスを。
 「…満腹の猫みたいだ」
 ふわりと相当甘い笑顔でリカルドが笑った。
 「いいエサだったからな」
 言えば、ますますリカルドが笑みを深めた。
 「愛し合ったんだろ?」
 声に低く笑って答える。
 「オレの最愛だから、な」
 リカルドが、ひらりと手を振った。
 
 「オマエどうする、ベン?」
 「はン?」
 「入っとくか?」
 「写真にか?」
 残されるモノを思う。
 「……遠慮しておく」
 「オオケィ、ああ、けど。腕解くなよ」
 リカルドが言った。
 頷く。
 ぱしゃん、と。イエローのストロボライト。
 オートフォーカスじゃないのか、と。改めて驚く。
 
 「いいカオしてるな、」
 優しいリカルドの声がして。
 また、ぱしゃん、と。ストロボライトが閃光を焚いた。
 「ソソラレルだろ」
 言えば、リカルドが笑って、また一枚、今度はアングルを変えて撮っていた。
 「まいったなぁ、かなり本気で好きになってる」
 静かなリカルドの声に低く笑う。
 す、と眉根が一瞬寄っていたシャンクスが、その声を聞いたのか、すぐに表情を和らげていた。
 「だから、迫られても無理だな」
 さらりと落とされた本音。
 …相変わらず、オマエの闇も濃いな、リカルド。
 
 「シャンクスが、オーケイと言うのならさ、」
 立ち位置を変えながら、リカルドがフィルムに情景を焼きこませながら言う。
 「オレはトモダチになってみたいな」
 「…ふン?」
 さらりと落ちた赤い髪を掻き上げてやる。
 またフラッシュが色を濃くするばかりの空間を切り裂く。
 目に映る、艶を取り戻したコイビトの寝顔。
 肩までかけさせていたリネンをそうっと下ろす。
 
 「このヒト、結構セックスでの繋がりの強さを信じてるだろ」
 「インパクトは約束されているからな。この容れモノだし」
 「だったらオレは。ソレなしでも繋がっていてやれる最初のダチになろうと思う」
 切り取られる映像。
 想いを移し込む"作品"。
 「悔しがるだろうな。オマエを"美味そうだ"って目でずっと言っていやがったから」
 そう言えば、リカルドが低く笑った。
 閃光。
 
 「やっちまうと、見えなくなるものだってあるだろ、」
 やらないと見えないままのものがあるのと同じに、と。リカルドが続けていた。
 そうだな、と同意の声を漏らす。
 もぞ、とシャンクスが寝返りを打ち。
 カオをこちら側に向けて、うつ伏せになっていた。
 引き下ろしたリネンから覗く肩甲骨のラインが煽情的だ。
 アーティザンによるマスターピース。
 
 「オマエが分け合う、って言うのなら、ベン」
 ぱしゃ、と。静かな音が響く。
 「オレはオマエがやれないものを、このヒトにやろう」
 さらりとシャンクスの背中を撫で下ろす。
 「シャンクス、聴こえるか?夢現でもいい、覚えとけ」
 囁いて、覗き込む。穏やかな顔で眠っているコイビトを。
 リカルドがまた切り取っていく、シャンクスの知らない一瞬を。
 「オマエが愛するような感情は持てないけどな、変わらないモノなら、差し出すよ」
 友愛。兄弟愛(ブラザフッド)とは違う、穏やかで暖かな感情。
 
 「なぁ、ベン」
 「ん?」
 静かな声。
 「キスしちまってもいいかな、」
 「ドウゾ」
 「アリガトウ、」
 カメラを脇に退かしたリカルドが。
 眠ったままのシャンクスの横顔に、そうっと唇をプレスした。
 「アンタが求めるモノじゃなくて悪いな」
 静かに落とされる囁き。
 
 シャンクスが、ふわ、と柔らかな笑みを浮かべていた。天使のように純粋な喜びを湛えた表情。
 少し唇が動いていた。
 「…なんだって?」
 リカルドが訊いてきて、繰り返す。
 「"すき?"ってさ」
 リカルドが笑って、さらりとシャンクスの肩を、そうっと優しく撫でた。
 「スキだよ、」
 落とされた静かな声に笑みが浮かぶ。
 なんて"三角関係"だ。
 リカルドが拳を突き出してき。ごつ、とそれに当てて笑った。
 解っている、オマエの感情の在り方を。リカルド。
 
 「アンタは堕ちてなんかいない、」
 リカルドの声がまた落ちる。
 「疵が癒えたら、飛んでみな」
 きっと飛べる。
 甘く唆すようにそういい残し。
 リカルドは来た時と同じように部屋を後にしていった。
 
 ふわふわと微笑んだままのシャンクスの頬に口付けを落とす。
 「言ったろ、あンた、ワガママでいいって」
 頬に指を滑らせる。
 しゃら、と鎖が音を立て。く、とシャンクスの手指がリネンをゆるく握った。
 唇をそうっと指先で撫でる。
 「あンたを繋いだりしないから。安心して寄りかかって来い」
 柔らかく火照った唇を、シャンクスが綻ばせた。
 「宿木ぐらいには、なってやれるから」
 赤い髪に口付ける。
 「あンたを愛してるよ、シャンクス」
 並の恋人のように、は。オレにはとても無理だが。
 
 
 夕日が沈みきってから、ベッドを抜け出し、風呂を溜めた。
 眠り込んだままのシャンクスを揺らして起こし。そうっと暖かな湯に浸した。
 ゆら、と柔らかな翠が見詰めてくるまま、きれいに身体洗ってやり。
 ふわりとバウンスする真っ白いタオルに包んで、バスルームから連れ出した。
 「き、もち…いー」
 とろんとした声のシャンクスに口付けて、リネンの乱れていない場所に腰掛けさせた。
 抱きしめる。
 「そろそろ起きろよ、シャンクス」
 笑って髪に口付ける。
 
 くう、と回された腕に、勝手に笑みが零れた。
 「―――ん、」
 抱きしめたまま、シャンクスが目覚めるのを待つ。
 とろりと蕩けた声はショウガナイ。
 他人の目にコレを晒すのは、少し癪だが "イイ顔"をしていることは、確かだしな。
 「―――ベック、」
 とろんと蜜のような声に、ん?、と返す。
 「ウレシイ、」
 
 
 
 
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