サウスの方で、わりと大きいチェインストアの本屋に寄って。
ベストセラーよりは、専門書だとか癖のある品揃えなココは。資料を追加しにベンが偶に寄ってるところで。
フラットに明るい店内に入ったときに、オマエはどこの棚にいるの、と聞いたなら。
建築とインテリアだと返された。
「じゃあキャッシャーのトコで適当に?」
「キャッシャーにいなけりゃ、雑誌のセクションにいる」
「わかった」
ひら、と手を振った。笑顔つき。
もう、「仕事」のカオに戻ったからコイビトは放っておく。
じゃあ、こっちは。アートとダンスとフォト。まわる棚はそんなもんだろ。
「邪魔しないよ」
そう言えば。
「アリガトウ、」
とリカルドに返された。
「まずは別エベレストの探そう」
「だな」
ダンスのセクションに行って。
カンパニの公演のDVDを何枚かピックアップ、ついでにバレエ雑誌でインタビューを見つけて。
「ヒント、ダチが言うに"海賊"が絶品、おれもそれに同感」
ずらっと並んだDVDの前でちょっと複雑なカオをしていたりカルドに言えば。
「ふぅん?」
これは見た、と雑誌を1冊。ラックに戻していた。
「モダンも躍ればいいのにネ、それはフリーにならないとダメかな、」
「さあ?」
そんなことを言いながらダンスセクションは制覇した。
「アントワンの作品集なら、アートセクションか、フィルム。行く?」
「行く。出来れば写真集がいい」
「絵か。じゃ、まずはフィルムセクションだね、」
あっち、と指差し。隣を歩く。
わらった。「Masters(巨匠)」ってサブセクションがあって。そこにあった。
すいすいと長い歩幅で歩いて行くのを目で追って。ぴたりとその前でリカルドが止まっていた。
そこから、また何冊か抜き取り。
やたらと図録が多い本だった。まさに、写真集。
「悪い、落としそうだ、持ってくれ」
ひょい、と声と一緒に。DVDだけが手渡される。
「ん、」
受け取る。―――うーわ、と内心で愕然としつつ。
おれ、ヒトのモノ持ってやったことって、ゼロ。
オンナノコ以外のネ。
「サンクス、」
にこ、と。アントワンの本は満足のいくものを見つけたのか、―――こんどはいよいよ?
あー、やっぱり。エベレストだ。
「フォトグラフィー」、とあるでかい棚。
そっちへまたすたすたと進んでいく。
幾つモノ名前。
見知った連中、もういないヤツ、あ、これ。前住んでたヤツだ。相変わらず、ううん……捻った写真撮ってンね、アンタ。
少し先にいたりカルドが、腕を伸ばしているのが見えた。
す、とその姿に少し近付く。
引き出していた。
タイトルが見える。Max Stutehauser、マックス・シュトゥーテハウザ。
"マクシー"、ってガキのおれは呼んでた。フラウ・マクシミリアーネ。
切り取った絵からは、性別が抜けていた。女性写真家、とか言われてたこと無かったよね、たしか。
M、のセクションに行きかけたなら。
リカルドがぱら、とその写真集を捲っていた。
「マクシーのだね、」
「そう。考えたら、オレ。あの人の作品ちゃんと知らないから」
「ん。おれあっちにいるね、」
M、のタグが見えるあたりを指差した。
「了解」
「重けりゃ手伝うよ?」
写真集、やたらと重いしね。なんか冊数多いし、ダブってるぞ?マクシーのとか。
そんなことを思っていたなら、またふわり、とわらいかけられた。
「平気。そっちサイズが小さいから困っただけ」
「リカァルド、」
声に本気を滲ませた。
「ん?」
「ここでキスしたらダメだ、って釘差されてンだよ、おれ。」
さらり、と返されるのに同じように返す。
「アタリマエ」
「キスしたくなるから、それ禁止」
ふわ、と笑みを乗せてみた。
ソレ、の実演。
「んー…じゃああっち向いててナ」
「やぁだよ、モッタイナイ」
「じゃいいコでガマンだな、」
リカルドの目が笑みを過ぎらせていった。
「ベンが禁止するには理由があるだろ」
そう付け足して。
「可愛らしい理由じゃないところが癪だナ」
に、と唇を吊り上げて見せた。
「理由ナシよりはよほどイイ」
「そんな暴君は二晩で捨てる」
親友のことが好きで仕方がない、ってカオをしているリカルドにわらって。
それからのんびり、アンドリューの「本」のところへ行った。
「メジャーなの、売り切れ」
ひら、と棚を指差した。
「さすがエヴェレスト」
追いついてきた声が返してきた。
けど逆に。
アンドリューの、「視」が生に近い最初の頃の写真集だとか。絶版になってるヴァージョンだとか。
新旧取り混ぜてセレクトしてあるのは、流石、ってわけか?
これは時間かかりそうだな、と。
リカルドの鑑賞に意識をシフトしていった。
そりゃ、上手いさ。邪魔にならない視線のやり方。当然。
さっきから、やたらと通路を横切る客が多いのは、どうでもいい。
まっくろ目が真剣になり。す、と意識が集中していった気配が伝わってきた。
オマエがさー?
エベレストの攻略練ってる間に。
おれも相当いい時間つぶしは出来そうだし。現に。
足元、ブーツの紐の解けかけ具合だとか。絶妙!なデニムのラインだとかね。
アクセントに1本、張り出している柱に寄りかかって。
多分、バカみたいににこにこしてたんだろうな、おれ。ま、いいや。楽しいし。
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