首を傾けてみせる。さらり、とコイビトの腿に自分の髪が触れていくのは承知の上での仕種。
目線のさき、くぅ、と口端を引き上げて目を細めているオトコがいた。―――おれの?ウン、おれの。
快楽に酔う代わりに、内にある感情を告げてくる眼。
愛しい、であるとか。好意。

浮ついたような、快楽にうっすらと酔った眼、そういったモノ。カンタンに引き出していたモノ。
見慣れていたものを、この存在から引き出せた試しがない、殆ど。
ちゅ、と音をたてて。セックスに口付ける。

くく、と。
低い笑い声が上から聞こえた。
甘やかすような、甘えるようなソレ。おれ、好きだな。
する、と髪でまた下肢に触れながら眼差しを泳がせる。
舌先に留まる僅かな味を嚥下して、唇を舐め上げる。

サイドボードに、大抵置かれてるモノ、それは今日も変わらずあって。
ゆっくりと身体を擡げ。
「シャンクス、」
宥めている、とも。からかっているとも取れる声は低く掠れている。
ダレがそうさせたんでしょう。
おれだね。少なくともいまは?
けどさ?オマエ。自分の味なんて別に食いたくナイデショ?そんなことを眼で語って。
腕を伸ばしてミネラルウォータのボトルを捕まえた。

水で唇を濡らす。
軽く仰向いたなら。肩や腕、手の届く範囲でさらさらと撫でられ。
薄く笑みを模る。
―――キモチイイ。
含みきれなかった水が、頤から首筋まで少しばかり零れ、その感覚に肌が少しひりついた。
「―――っふ、」
息を零す。
コイビトを見下ろす。

「キレイだな、」
ふわりと甘い声だった。
笑みが勝手に過ぎっていった、おれの中。きっとカオにも。
水のキャップを閉め、フロアに転がした。
「オマエが、そう言うのはめずらしい、」
とさりとまた身体を重ねる。
「そうか?」
「あァ、滅多に聞かない」
少しだけ笑ってから、長い腕に抱きしめられるのに任せる。
「思った時には言ってると思うんだが、」

「オマエの美意識は変。おれ観てそうじゃない時があるって?」
わらって。
ハナサキにかるく口付けた。
「ああ、だから」
さら、と指先が髪を撫でていく。キモチいー…なぁ。
「特に際立つときにしか言わないさ。あンたは誰が見たってキレイなんだし」
「可愛がられてるカオしてる、ってサイキン言われンだけどー?オマエに礼言うべき?」
に、とわらって。
ちゅ、と音を立てて唇を啄ばんだ。
「あンたを愛してはいるが、ただ可愛がってることなどないぞ」
また、掌が髪を滑らせていき。
とん、と啄ばみ返される。

「セックスに愛情が絡めばなによりの妙薬―――、どこかのセラピストだがグルだかが言ってたっけ」
あむ、と耳元を齧った。
そして、口付けた。深く。
キスを、と請われれば。もちろん返すよ。
おれは、惚れてるし、好きなんだからオマエを。

深く口付けを交わして。烈しくなっていきはしない、ギリギリのバランスで穏やかに蕩けたまま。
歯列といわず唇といわず。なぞって深くまですべてを探り出すような深さで。
吐息も熱も唾液も混ぜ合わされて喉を鳴らした。
高めあうためだけじゃない、口付けは。
雄弁に言葉を実証していく。
愛している、と言われた。
頬を掌で包み、撫で。
洩れていくあまったるい吐息に任せてみる、返答は―――。

重なった肌が熱い。
何時の間にか、シャワーの音が聞こえなくなってた。いつから―――?
さら、と。布地越しに背中を撫で下ろされ。
く、と喉がまた引き攣れる。
そして、頬や、目尻や耳元、そういった場所を唇がプレスしていき。そのぬくもりにまた肌が温度を上げた。
「―――ベン…?」
ゆら、と知らずに閉じていた目を開けた。
「イエス?」
低い囁き声。
「おれ、美味そう…?」
「いつでも、」
ぞく、と背骨があまく痺れる。

「いまは?」
「当たり前だろう?」
「キス、しろ―――?オマエの、親友にする前に」
オマエの味ならいい、て言ってたろ?と。
そう強請れば。
くう、と腕に。それでもそうっと引き寄せられて。
ゆっくりと深く唇を重ねられた。
「――――ん、ン…」

息が弾んで。
しあわせだなあ、と。じわり、と胸の奥が痛んだ。
―――オマエのさ?定義はしらないけど。
規格ハズレでごめんなあ……?
手放す気、ねェけど。
オマエのコイビトでいるのは、おれ。
すげぇ、好き。




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