Acaramelado(キャラメリゼ)
口付けを解いてから、目尻に唇を押し当てた。
体温がすっかりと上がって、僅かに上気した顔。
満たされたけれど、触れられていないだけに、ふわりと笑った表情には艶が割り増しされていた。
「美味そうな顔してるな、」
笑ってくしゃりと髪を撫でてやる。
「オレが喰えないのが残念だ、」
半ば本気、半ば冗談。笑って告げてから、ベッドから降りる。
ひょい、と伸びてきた腕が、ウエストを掴んできた。振り返る。
「ん?」
腰に口付けを落とされて、笑う。
さらりと髪を撫でる。
「どうした?」
シャンクスがするりとベッドから降り。くぅ、と笑ってから、
「シャワーいってくる、」
そう告げて、サブ・シャワールームの方に歩いていった。
笑ったまま見送り、リネンを剥いでからバスルームに向う。
洗濯物を放り込んでから、キッチンを覗く。
「リカルド、洗濯物出せ」
「んー」
卵を割り解していたリカルドが振り向き。
「バスルームのランドリィ・バスケットに入れておいた」
そう言ってきた。
「了解」
「ベン、」
呼ばれて、出て行きかけていた足を止め、振り返る。
「Good morning(いい朝だな)」
告げられて、笑った。
「Good morning to you too, companero(だな、親友)」
に、と笑ったリカルドに、ひらりと手を振って。そのままメイン・バスルームに備え付けてあるシャワーブースに向う。
御機嫌猫が、食う気満々でいることは告げずにおいた。
どうするかは、リカルドが決めればいいことだしな。
「あ、」
着替えに腕を通して、そういえば、と思い出した。
前回言われた台詞。『濡れ猫は嫌いだ、』めんどくせー、と文句を半分言いながら顔は勝手にわらった。
バスタオルでざっと水気を拭って。キッチンに朝の挨拶、ってヤツにいかなきゃな。
「リカァルド、」
ダイニングを覗けば。シンクの前でなにやら朝メシの支度中だった。
「オハヨウ、」
声を背中にかける。
そして近付いた。
黒のノースリーブに、色落ちしたデニム。シンプルな方が引き立ついい素材。
「なぁー、オハヨウってば」
とんとん、と肩を指先で突付けば。
くるりと振り向き、トン、と頬へ唇で触れられ。
「オハヨウ、」
そう返されたけれどもまた朝ゴハンの支度に戻っていっていた。
「もうすぐ朝ごはんだ」
「リカァルド、」
とん、と背中に額を預けた。
「ハイ、サラダ」
ちらりと目線だけ投げていたリカルドが、サラダボウルを差し出してきた。
「キス…?」
「さっきしたろ?」
声が笑ってンな?
忙しなく良く動く背中を眺めながら眉根が勝手に寄った。
「リカァルドーー」
「なに?」
はい、とトーストの皿も手渡された。
それをお座なりに卓へと置く。
悲しげに眉根は寄ったままで。
とん、とリカルドの肩をまた指先で突いた。
目線がしっかりとあわせられたのを確かめる。
両手にプレートをもって振り返ったリカルドに眼差しをあわせた。
すい、と自分を指差してみる。
「悲しいカオ」
「そうだな」
にこ、と微笑まれても。
「ウン、」
眼を見つめる。
「朝食食べて元気だせ」
「―――りカァルド、」
甘い声で抗議しても。
プレートを卓に置いて、またシンクの方へと動いていた。
「まだなにかテーブルに出してないものあるか?」
「ウン、」
ひら、と手を振った。
「林檎?」
ちょっと待ってろ、そんなことを真剣に言って。りんごを器用に剥きはじめる。
「キスは?」
「さっきしたろ?」
そんなことは言っていても、こんどはさっきとは反対のサイドにキスされた。
「ちゃんとしてほしいんだけど」
いい音をたててリンゴのカワを剥いてるリカルドの機嫌は適度にイイらしい。
ハナウタ交じり。「The Zepher Song」が絶妙なアレンジを施されてた。オリジナルよりイイか?ある意味。
「ちゃんとしたろ?」
「唇に、」
用意されていたコーヒーを一口含む。
「んー?」
「ちゃんと、してほしい」
「ふぅん?」
イスに座っていたから、リカルドがすい、と背中を屈めて、とん、と唇に落ちてきた。
「Done」
微妙に納得がイカナイ。
すこしばかり、笑顔を引っ込めて見上げた。
ナニ?と笑顔で聞いてくる相手に。
コーヒーをまた一口含みながら、言った。
つまみ食いされてるリンゴが、歯の間でいい音を立てていた。
リカルドの。
「コドモ扱いされたくないっての、」
「してないだろ?」
「頬、頬、唇。ぜーんぶフェザーじゃん」
リンゴが噛み砕かれてく音が涼しそうだ。
―――フン。
「だから?」
身体を乗り出して、ぺろ、と果汁を少しばかり舐めとった。リカルドの唇から。
「ゴチソウ様。せめてこれくらいして欲しいもンだネ?」
「乗り気じゃなくても構わない?」
すい、とリカルドが片眉を引き上げていた。それを間近でみつめる。
いやじゃないのか?と真顔で続けていた。
「いやじゃないよ、」
応えた。
「義務と思われたら嫌だけどね、」
「義務よりはサーヴィスだけど、」
「サーヴィス、」
「そう。好きな相手には、オレどんどん触れなくなる」
「―――なぜ?」
知らずに、首を傾けてた。
「体質、ごめんナ?」
「じゃあサーヴィスでイイ。義務でもいいし。触れ、おれフィイジカル・コンタクト好きなのにジョウダンじゃないぞ」
なんだそのメンドウな体質、そう続けていたなら。
額に口付けられた。
「オレも冗談言ってない」
「じゃあいまから嫌いになれ」
「無茶言うなって」
軽く笑って、コーヒーを淹れにテーブルを離れていた。
「キス平気でできるくらいには、嫌いになっておけってば」
背中に話し掛ける。
声が、勝手に甘いのは仕方ない。
「善処するよ」
「けど、本気で嫌いになりやがったら許さねぇぞ」
「アンタ無茶言い過ぎ」
けら、とリカルドが笑う。
そして、訊かれた。
「ところで今日はアンタ、なにするんだ?」
振り向かない背中に視線をちらりと跳ね上げる。
「なにも、」
「アンタ毎日なにしてるんだ?」
また、きちんと剥かれたリンゴがプレートに並べられていて。それをおれのまえに置きながらリカルドもイスに座っていた。
訊かれたから、フツウに応えた。
「気が向いたら遊びに出る、パーティとかどっかのイベント」
そういうのにカオを出すのが半分仕事、ペイいらないけどね、そう付け足した。
リカルドの肩の向こうに、シャワーを終えたベンが見えた。白のシャツがちらっと。下はキャメルだったかな、色。
「そりゃご苦労様。オレには勤まりそうにない」
リカルドがわらって。
切り分けられたリンゴを摘んで笑みをそのまま返した。
「そ?セックス絡みは少ないからラクだけどね」
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