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 朝食をとりにやってくれば。
 シャンクスがとろりとした笑顔を浮かべていた。
 リカルドは、面白い、という顔。
 「セックスばっかりやってると脳みそが腰に付きそうだな」
 しかも筋肉質の、と。
 食欲を沸かせないような内容の会話がやり取りされていた。
 「そうでもない」
 とシャンクスが反論し。に、と唇を艶っぽく引き伸ばしていた。
 珈琲に手を伸ばす。
 
 「ヒドラみたいな気になるよ、切ってもまた生えてくる下等動物並」
 くくっとシャンクスが笑っていた。
 ……おいおい。
 溜息を吐けば、隣でリカルドが、
 「結構空しい、」
 と、やけにマジメな顔で頷く。
 「ヴォイド、だねえ」
 "カワイイ"顔をしたシャンクスがにっこりと同意した。
 「精液出しすぎて、中身が空っぽ」
 へ、とリカルドが小さく笑う。
 「あるいは、食いすぎて胸焼け」
 こちらはシャンクス。
 
 朝っぱらからなんて会話していやがる、と思いながら、珈琲を注いで、プレートに手を伸ばした。
 「リカァルド、キモチいいほうのしよう……?」
 甘ったるく蕩けさせた声で。シャンクスが言いながら、すう、と翠を細めていた。
 リカルドは、といえば。オレンジジュースを呑みながら、ひょいと肩を竦め。
 「無理。好きな相手とはセックスしない主義」
 と、あっさりと告白していた。
 あまりにあっさりとしていて、空気が二極に分かれているようだ。
 
 「それってオトコ、オンナ関係ねぇの?」
 首を傾けたシャンクスを、リカルドはまじまじと見詰め。
 「オトコに勃たれて潰したことはあっても、勃ったことないな」
 「ふゥん?」
 「オンナは好きになる前に、オレが食われちゃうんだよ」
 と泣き出しそうな犬のような表情を浮かべていた。
 「それでいつもゲンナリ。食指も失せる」
 リカルドの病は重症だ。
 なまじ顔貌が整っているだけに、周りが放っておかないのが拍車をかけたか。
 
 「なぁ?」
 そうっと甘い声で、シャンクスがリカルドに訊く。
 グラスを置いていた手を捕まえ、自分の頬に触れさせながら。
 「眼、瞑っちゃえばわかんねぇかもよ?」
 うっすらと、誘惑する笑みを刻んで。
 けれどリカルドは、すい、とマジメな顔でシャンクスを見下ろし。
 「解るよ。オレ乳ダイスキ」
 とのたまっていた。
 
 「―――あらま。そりゃいくら何でもナイヤ」
 「だろ、」
 くう、と可愛らしく笑ったシャンクスにリカルドが肩を竦める。
 「シリコンも嫌だしな」
 「じゃさ?」
 く、とリカルドの手首を握ったままのシャンクスが。
 「ギリギリまでおれが喰う、ってのどう?」
 目を煌かして訊いていた。
 「ギリギリって?」
 どこまでのことを言うんだ?と。興味のなさそうな顔で、リカルドが首を傾げる。
 
 ちなみに、ソーセージ&スクランブルエッグは美味い。
 タバスコをかけたら、いっそう。
 会話が朝っぱらから濃すぎて、フツウじゃ食えないのが哀しいところだ。
 「味見まで。どっちがイイ?体液かー、」
 ……溜息。
 「精液。選んでイイよ」
 "天使のような"笑顔でシャンクスが言う。
 「精液は解る。体液はナニ?」
 血ならいらんぞ、呑んだら吐くぞ、と。真顔で言うのもどうだろうな。
 「諸々ー。唾液とか汗とか涙とか」
 「わざわざ出させて口にするのは面倒だな」
 くう、とリカルドが眉根を寄せている。
 
 「ちがうって、おれがおまえの味見するの」
 「スポーツジムの帰りとかか?」
 「だから、出して口にさせる、が正解」
 同時に別々の方向へ頭が向っているな。
 リカルドは、ノーセックス。シャンクスは、セックス、と。
 
 リカルドは、することもしてればかなりオンナにもモテるんだが。
 まるっきりオトコとのセックスは問題外らしい。
 "想定外"と何度も言って捨てていたのを、思い出した。
 「なぁー?オトコと思うからダメなんだよー?」
 「思っても思わなくてもオトコはオトコだろ?」
 ついてるものはついてるし、出るものは出る、と。
 
 サラダにドレッシングがついていなかったから、冷蔵庫まで取りに行く。
 ついでにチーズも食うか。
 「眼、瞑ちまっとけってば。両手握って触んなけりゃいいじゃねぇの。おれ、巧いよ?」
 なんだか自慢げなシャンクスに、リカルドは首を横に振る。
 「あンたのこと結構好きだから、セックスはしたくない」
 ぺろ、と上品に舌を閃かせても、あっという間にシャットアウトだ。
 まるっきり通用していない。
 
 「嫌いになれ、っていってるだろ?」
 最早懇願するような眼差しに、どうやって?とリカルドが首を傾ける。
 「嫌いな相手と、一緒にいようとは思わないぞ?」
 「遊べる程度に、ど?」
 「スキだから遊びたくないって、理解はしてくれないのか?」
 甘えている声に、困惑顔だ。
 "好き"でもなんでもない相手にしか、相手にできないのは、幼少時からのトラウマだろう。
 「おれな、キスすきなんだってば」
 素で柔らかい声が続けている。
 「だから、サーヴィス程度のキモチしか込められないようなモンでもいいのか、と言っている」
 憮然とした顔のリカルドは。シャンクス以上にガンコかもしれない。
 食後のリンゴを齧りながら思う。
 そろそろこの会話も決着するか?
 
 
 
 
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