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 書斎から戻ってみれば。
 それは優しい笑顔を浮かべた二人が見詰めあい。
 コイビトが親友に告白しているところだった。
 "妬く"べきか?
 困った顔の親友に見上げられて、ひらりと手を振った。
 素直に受け入れとけ。
 
 「……ん、」
 とリカルドが頷いた。
 ……オイオイ。
 ダイニングのテーブルから皿を退かせ。砂糖より甘い笑みを浮かべていたシャンクスの頭を撫でてから、狙っていたページを
 開いた。
 「引っ越すぞ」
 断言。
 へ?とリカルドが見上げて来。
 そんなリカルドの頬に口付けていたシャンクスが、ハ?と目線を投げかけてきた。
 
 トントン、とページを指し示す。
 カラーページには、フレンチクォータにあるコロニアル・スタイルの物件。
 「リノベーションする必要はあるが。いい物件だ。メインストリートから少し外れて静かな一角。でかい家で、庭もある」
 3階立ての建物、ギリシャ建築を模して大理石の柱が立っている。
 「おまえ、こっちで暮らすの、」
 シャンクスが視線を投げかけてきた。
 「オフィスを開く。どこかにベースを築いておこうと思ってな」
 
 リカルドが、ぱらりと次のページを覗き込み。内装のシャシンを見ていた。
 大理石のフロア、エレガントなラインの、木の手すりの階段。
 高い天井についたファン。
 「フゥン?いまもノマド(遊牧民)みたいなモンだしね、オマエ」
 「資料が増えすぎた、」
 肩を竦める。
 「飛び回る量は変わらないが、帰ってくる場所は1箇所にしておく」
 高いガラスの窓、ヴェランダへ向いているソレ。
 見たリカルドが、目を輝かせていた。
 オマエ、好きだろう、と。目線で笑いかける。
 
 「セキュリティを徹底させて。中も磨かせて、補修が必要なところはさせる。外装は外観整備の法令によって変えられないが、
 中はそこそこモダナイズできる」
 水周りも新しくする必要があるな、と告げる。
 「しつもーん」
 「イエス?」
 シャンクスに目を向ける。ぴったりとリカルドにくっついたままの。
 「引越しでがっさがさのなかで。オマケに内装屋と配管工ががんがんやってるなかでおれなにすりゃいいのさ?」
 「直ぐには引っ越さない。終わってから越す」
 ざ、と。先ほど紙に書いた計画表を出す。
 「終わるって?」
 「内装工事から全部やらさせて。荷物も運ばせて家具も入れるまでは入らない」
 リカルドを見上げていたシャンクスに、目の前の紙をトントンとする。
 「1年弱かかるが」
 
 「――――なぁがっ」
 「アタリマエだ。基礎はきちっとやらないとな」
 片手をひらりとさせたシャンクスに告げる。
 「いちおう、ここを一生の巣にするつもりでいるからな」
 オフィス兼自宅。
 車を入れるガレージは別に設けてある。
 く、とシャンクスが首を傾けた。
 「見積もりは、大まかにこれくらいだ。もう少し調べ上げて、融通は利かせる」
 別の紙を出す。
 家具は別のハナシだが、家自体の大まかな計算はしてある。
 
 「リカァルド、おまえの親友ってなんでやること全部極端?」
 「面倒くさがりだから、やるなら一気にカタをつけるのが好きなんだよ」
 「で、どうなんだ?乗る気あるのか?」
 顔を見合わせていたコイビトと親友に目を向ける。
 「…ってなに、オレもここに入るのか?」
 「昨日言っただろう」
 「マジかよ」
 「昨日?」
 「「あンたが寝ちまった後」」
 シャンクスが交互に見上げてくる中、同じタイミングで応える。
 
 「ヤッタンダ!」
 「なにを?」
 ひゃあ、と笑ったシャンクスに、リカルドが、ぎゅう、と眉根を寄せていた。
 言葉には気をつけろよ、シャンクス。
 「告白大会?!」
 「なんだそれ?」
 ひゃあー、とますます笑うシャンクスに、リカルドの視線は冷たい。
 
 オレとしては返事がイエスかノーかはっきりさせてもらえればいいのだが。
 この二人、特にシャンクスがオレの都合など構うわけがない。
 「ヴィジョンとか未来とか過去とか」
 「語らうのはアタリマエだろう?他になにしろって?」
 語っちまったの?と柔らかな笑みを浮かべていたシャンクスに、リカルドが眉根を寄せる。
 内装のカタログを開いて、リノベーションの際に必要になりそうなパーツに目を通す。
 「いろいろあるだろうに」
 にこお、と笑ったシャンクスに、リカルドは肩を竦める。
 「アンタは語らないのか?」
 じい、と見上げる目線は、シリアスだ。
 「身体を繋ぐと面白いものがミエル」
 にこおと笑ったシャンクスに、リカルドがまた肩を竦めた。
 「てのは、ジョウダン。夢でサ、声聞いた気がしたから。話してたのかな、って思ったんだって」
 
 すい、と笑ったシャンクスからリカルドが離れてプレートを片付け始める。
 冗談にしてはタイミングが悪かったな、シャンクス。
 「怒った、」
 リカルドを指差してオレを見上げてきたシャンクスに苦笑する。
 「そのようだな」
 「怒った……?」
 きゅ、と困り顔になられてもな。
 「怒らせたと思うなら謝れ」
 すい、と皿洗いを始めたリカルドの背中を指差す。
 「"大切なものは大切に"」
 人生の基本。
 
 「なんで怒ったンだ?」
 「本人に訊きなさい」
 小さな声で訊いてきたシャンクスの頭を撫でる。
 「あンたがアレと交わしていた会話と関係があるんだろう?」
 オレが出来るのは、憶測までだ。
 
 ば、とシャンクスが立ち上がる。
 ざあざあとシンクに勢い良く水が溜まっていっている音が聞こえる。
 すい、とリカルドの隣に立っていった。
 「おまえが怒ると悲しい、ごめん」
 真っ直ぐに謝っていた。
 すい、とリカルドがシャンクスを見下ろす。
 翠の目が真っ直ぐに見上げているのが見える。
 「なんで悲しい?」
 静かに深い声。
 リカルドは、"甘やかさない"。そういう意味では。
 煙草に火を点けて、カタログをそっと捲る。
 いい機会だ、知り合え。
 エールを送る、内心でそうっと。
 
 
 
 
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