「怒らせたいわけじゃないから」
だから悪かったってば、と。
普段なら続けるところだ、それも極稀なケース。
第一、相手「謝る」なんて事態になんてならないだろ、そもそも。ありえねぇよ。
「アンタ、少し無神経だとオレは思う」
溜息と一緒に言葉が混ざってた。
無神経、なるほど。そもそも他人は関係ないし。
第一。
周りなんてどうでもいいし。
「そうかもね?」
おまえがそう思うなら?

リカルドの眼が悲しげになっていた。なんでだ…?
「だけど、おまえを怒らせたかった訳じゃないんだ。だから、ごめん」
「なんでオレが嫌な気分になったか知りたいか?」
「茶化したから?」
「オレが大事にしているとカンタンに解ることを、アンタが尊重しようともしなかったから」
まっすぐに、眼をあわせられたままで言われる。
「そうだね、尊敬が無いって言われるよ」
たまに、ウン。

「誰もアンタを怒らない?それとも、怒ってもどうでもいい?」
98%が前者、残り2%が後者、そう返した。
まっすぐな眼差しが逸らされなかった。
「で、オレはどっち?」
「規格外」
「なら。尊重しようとしてはみてくれ」
「わか―――っ」
イキナリ。
きゅう、と抱きしめられて言葉が千切れた。
「好きなヤツに安易に傷つけられると、もっと痛いんだよ、」

囁き声に。
「―――ごめん、」
それだけを返した。
「Your apology accepted(謝罪は受け入れた)」
「ありがとう、」
うれしい、と返した。
トン、と口付けられて。
大切なものは大切に、また思い出した。
二つくらいなら、なんとかなるか―――?
3つ?や―――5つくらいなら。

意識が勝手にまた茶化しかけて。
「ベンにも謝ろう、ハナシの途中だった」
テーブルで何かを見ているコイビトをリカルドが指差した。
「なんのハナシしてたんだっけ…?」
「乗り気じゃないのか、」
「なにが?」
「アンタにはそれくらいの印象しかなかったのか、と思っただけ。引っ越すって言っただろ、」
「1年後のハナシだろ?」
それって、と付け足した。

「まだオレたち、返事もしてないよ?」
「1年なんて、長い。生きてるかどうかもわからない」
けど、まあ。
「したくない?」
引越し、と言い足してリカルドがすい、と首を傾けた。
「生きていても死んでても。いま返事しないと、生きてても引越しできないよ?」
じい、と見つめられた。
参ったな。おれ、実際。
どうでもいい、住むところなんて。
―――相手が問題だろ、肝心なことは。

「うううん、」
返事を言うまでずっと待っている気なんだろうか。
「わからない」
見つめ返した。
「オマエらがいるなら関係ないし」
「なにが関係ない?」
「ん?場所」
どこだっていいってこと。
「―――だったら」
ごつ、と妙に硬い音をたてて額があわされた。
ぱし、と瞬きする。
「"オマエと居られるなら、好きにしてくれ"って言えばいいだろ?ベンだって喜ぶ」

リカルドは、ロマンチストだと思う。
この台詞で確信した。
「言わないって」
わらった。
「なんで?喜んだ顔、見たくない?」
「さっき見たからもういい」
「オレは見てない」
「じゃオマエがイイナヨ」
「オレは言うよ?アタリマエだろ」
「じゃあ、いいじゃん」
リカルドの髪に、掌ですこし触れた。
「……シャンクスはシャンクスで言えよ。アンタの人生のことだろ?」
「仲直り…?」
す、と見上げた。
「それとも、おまえから嫌いになられるチャンス逃した、おれ?」

「仲直りはさっきので済んでるよ」
「そう、よかった」
する、と腕が解かれる。
「でも最後のは余計。本当にオレに嫌われたい?」
「嫌だ」
笑みが勝手に浮かんだ。
「だったら冗談でも言わない」
今度は額に、とん、とキスをされた。
「ん、わかった」
オマエ限定ナ?

「なー、ベン」
そのまま、視線をテーブルに流した。
「終わったか?」
「妬くー?」
「妬いてほしいのか?」
「おもしれえかも」
「じゃあ妬いてやる。オレ一人放置かよ」
そう言って、コイビトがわらった。
「あ、そうなるね」
軽い口調で返して。
とん、と。
リカルドから離れて座ったままでいたコイビトの。その背中に凭れかかった。

「たまにはカワイイじゃん?」
「いつもかわいいと言われてるぞ?」
両腕を首に回して。
返された返事にわらった。
「少なくともそれ、おれじゃねえぞー」
「そう。あンただけ、オレのかわいさが理解できないんだ」
リカルドもゆったりとした足取りでまたテーブルに戻ってき。
眼をあわせてまたすこしばかりわらいかけた。




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