例えば、友人数人とクラブに行ったとする。
当然、オトコばかりででかければ、皆そのうちバラける。
一応何度か顔を突き合わせておくが、暫くしたら、誰かを相手に消えていく。

リカルドの場合。
踊りには興味がない、と。片隅のソファにドリンクと一緒に座る。
煙草を燻らせながら、周りを見ている。
しばらくすると飽きてきて、とすん、と立てた膝に顔を下ろして目を瞑る。
イメージは、懐かない猫、もしくは、主人に置いていかれた犬。

するり、と目をつけたオンナが横に座る。
ヒトコト、フタコト、言葉を交わし。
オンナが手を伸ばして、口付ける。
なにかが気に入らなければ、リカルドは、また眠ったフリ。
すぐ横に、そのオンナのトモダチが座りにくる。サンドウィッチ。
こちらも短く声をかけて、手を伸ばす。
口付け。
慰められるように、何度か口付けられて、口説き文句でも囁かれてから。
迷子のところを保護されたかのように、オンナどもの手に引かれて消えていく。

同じオンナと2度寝ないのは、ポリシーか、フィアーか。
どこか別の場所で出会っても、リカルドは挨拶はしても靡く素振りは見せない。
ステディを求めてやってくる連中などいないから、それで関係は清算。
"ビジンの年上殺し"の異名を打ち立てた。

オトコの場合は簡単だ。
オトコがリカルドに声をかける。
リカルドは、興味ナイ、とヒトコト言い捨て、眠ったフリ。
しつこくすれば、切れ上がった目線で睨みつける。
それでもダメなら、外で"お断り"を肉体言語で表現―――路地にしつこいオトコがKOされて転がっていることになる。

解りやすく、単純。
けれど"カワイイ"からリカルドに惹きつけられる人間は後を絶たない。
墓穴を掘るタイプだ。


シャンクスは、といえば。
名が知られている、もしくは顔が知られている。
遊びなれた雰囲気に、軽く誘う仕種。それだけで、シャンクスが落とそうと思った連中は大概落ちるし。
泣き落とし、高飛車に命令、困ったフリ、懐いたフリ。
相手に合わせた表情ヒトツで、惹きつける―――根っからの"役者"。

気分次第でオトコもオンナも。
相手にとってプラスになろうが。それこそどん底のマイナスに突き落とす存在になろうが。
そんなことは知ったことではないらしい―――求められれば応じるだけ。そういうことなのだろう。
"落ちた方が悪いんじゃん"とけろりと言い放っていたとしても不思議ではない。
トドメには"自分の行動に責任取れないようなヒトだとは思わなかったよ。最低"とでもぺろりと言い捨てていそうだ。

相手に家庭があろうと、コイビトがあろうと。シャンクスにとっては関係がない―――それは相手だけの問題だから、ということらしい。
だから、気に入れば、何度でも連れ立っていく。
性質の悪い"堕天使"とでもいうところか。

少なくとも、自分の内に欲望がなければ、シャンクスに堕ちることはないのだろう。
だから。どんなに甘い声で囁いても、仕種で誘っても。本人さえしっかりとしていれば問題無い、らしい。
確かに理屈的にはそうだが。
コレに抗える人間がいれば、それだけで尊敬に値する。

ライバル視しようと、アイドル視しようと。
天使だろうと悪魔だろうと、シャンクスは人を惹きつける者だ。
無視することは許さない、と。本人が自覚しているかどうかは知らないが、そう雰囲気が語っている。
無視しようとすれば、"不感症?目が悪い?それともどっか具合悪いの?"とでも言われかねない。

興味が無い、という返事をあっさりと無視された経験から言えば。
シャンクスは、自分のリクエストは通させる、という強い意志を持っている。相手が誰であろうと。
我が強いだけでなく、どうにか粘れば通ってしまってきた経緯があるのだろう―――幼少の頃から。

だから。嫌なものは嫌だ、と。
きっぱり言い捨てるリカルドと一緒にいるのは、新鮮なのだろうな、と思う。
シャンクスの目が。
"かわいいかわいいすっげえかわいい"と。リカルドを映しながら、連呼しているのが見えて、更に笑う。
かわいいなら、可愛がれよ、シャンクス。
内心で呟く。
リカルドはオスだから、可愛がり方には気をつけろよ、と付け足しながら。


シャンクスが見上げてきて。にこお、と笑った。
「じゃあこの家を買って改築するってことで。今日中に連絡つけちまうからな」
二人に告げる。
「業者の選定やらなんやらは、勝手に決めちまうぞ。オマエら興味無いだろう」
リカルドは無い、と呟いた。
「あのさ?」
く、と見上げてくるシャンクスを見下ろす。
「ん?」
「あとでさ、」
じーっと翠が見詰めえてくる。
「被らないとは思うけど。使ったらヤだな、って思うアーキテクトとインテリアデザイナ、教えとくナ?」
そう言って。に、と笑った。
―――ははン。過去にトラブった連中だな?

「リストしとけ。ついでにリクエストもあれば。あとは銀行。オマエ手続きメンドウだったら―――ああ、オマエの弁護士に直接
言った方が早いな。近々連絡しろ。オレに連絡するように」
手間がかかるのはお互い嫌だもんな。
「わかった。」
にこお、とシャンクスが笑った。さらりと髪を撫でてやる。
「いくつかサインするものがあるが、契約書は読んでやるから、付き合え」
な、と。額に口付けを落とす。
「―――あ、でもアレがでてきたらメンドウ」
「ん?」
「オヤジのとこの弁護士。名義やっぱオマエにしといてなー、」

すい、と。一度面会を求めてきた男の顔を思い出した。
会ったことは、シャンクスには告げていない。
「嫌がるだろうと思ったから、オレにあンたが金を融資をしたという形にしておこうと思ったんだよ。契約書も、だから弁護士に
作らせるつもりでいる」
タダでオレに金を渡したと思われたなら、あのすました顔のスイス人が再度やってくるだろう。嫌味を言いに。
「少しぐらいのメンドウは被るつもりでいてくれ」

「んー、任せた。アーネスト、うざってェんだよなぁ、相続放棄の書類はゼッタイ作ってくれないし、おまけに」
スイス人の弁護士は、シャンクスにも嫌味三昧だったのだろうか。それとも―――お小言?
「まだおれがチョコレートファッジが好きだと思ってるんだよ?」
お小言の方だったか。
困り顔のシャンクスに、笑いかける。
「カスタード・プディングとスポンジがリカルドの好物だぜ?」
けれど。あンたがチョコレートが"嫌い"なのは、そこまでヒミツなのか、と。内心、僅かに痛む。

「ベンのお母さんの味が、どうしても出せない」
リカルドが、むう、と唸った。
「ああそうだ。母に連絡しておいた。オマエにも顔を出せと言っていたが」
リカルドが、にこりと笑った。
「まさか一緒に食べるんじゃないよナ?」
そして。プディングとスポンジ、と目を丸めたシャンクスに頷く。
「美味いよ。ホット・カスタードとスポンジ」
今度ベンのお母さんのレシピでチャレンジしてみよう。
そうリカルドがオレにも目線を寄越して言って来た。
わかったわかった、訊いておくさ。




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