笑っていいのか、先に驚くのが正当なんだか。
リカルドが、ベンの後を追って行ってから、とりあえず驚いた。
料理の腕前に関しては訊かれなかったら、いままで言わなかったわけだけど。
まあ、言う必要も感じなかったし。
けど、なんつか……あれは、「拗ねた」か??あの、ベンがか!
「吃驚ダ」
驚いたから言ってみた。で、そのままバスルームまで行って。
シャワーを浴びて、また吃驚の認識を改めた。
そういえば、アイツもまだ、おれより3つしか違わないんだったっけ?
て、ことはー。
――――わ。
まだ、……25か。
それに?
「物件」のことで一人で動いていたわけだ、自分から言い出したこととは言ってもナ?
細かいペーパーワーク、アタマだって使ってるよな。―――そりゃ、疲れもするか。
さあ、と適温より温めの水が気持ちよかった。
けど?夕食はじめるの。
ギリギリまで待ってやったンだぜ、一応は。
弁護士は昔の知り合いっていうし、どうせ外で済ませるだろう、ってことは折込済みだし。
けど。
あそこまで拗ねるとはね、―――ビックリ、だ。
家に戻ったときから珍しく、むす、って顔してたし。
とはいえ、オカエリ、って言うには忙しいタイミングで戻るおまえが悪い。
サーヴィス、といい切るにはちょっとばかり礼儀正しくパーソナルなキスの真っ最中。
無理無理。
シャワーから出て、そのままバスローブを引っ掛けて。
リヴィングに戻れば、まだベッドルームにリカルドは行ったままのようで、無人。
ハナウタ交じりに、濡れていない手で散らかしてあったシャシンをテーブルにざっとまとめて。
ベッドルームを覗いてみた。
どうやらまだお話中のヨウデスネ。
低い話し声が洩れ聞こえる。
けど、おれ今日はここで寝たいし。
そのままドア枠に凭れかかって、窓から外を眺めた。
まっくらで、映りこんだ自分しか見えないけど。
ぼそぼそと、音量が低いからトーンしかわからない会話は、聞いていたって面白くない。
でも、トーンだけでも。
拗ねてるのがわかるもンなんだね。
珍しい、すっげ。なにしろ、あのベン・ベックマンだし?
おれがたぶん。
人にモノを作って食べさせたのがハジメテなのと同じくらい、めずらしいんじゃないか?これって。『コイビトが拗ねている。』
へえ、と感心していたなら、リカルドが中からでてきて。
「おまえももう寝ちまうの、」
訊いてみたなら。
すい、と肩竦めていた。
「そっか、オヤスミ」
その肩を掴まえて、頬にキスした。
「オヤスミ」
さらり、と髪を撫でられた。そのままリヴィングへ向かっていく。
片付けるんだ。
ちょっとは片付けておいたからなー?
おやすみ、いい夢を。またあした。
背中に言ってから、暗い中を覗いた。
ベッド、ぴくりとも動いてないね。
する、と隣にもぐりこむ。
ふぅん?不貞寝?
―――珍しい、これも。
外に行っていたまま、シャツにスラックス、クツだけ流石に脱いで。
すい、と顔を寄せてみた。
あ、目瞑ってる。
本格的に眠る気か。
さら、と。
輪郭を指先でたどった。そうっと。
まだ寝てる。
目尻に唇で触れた。
オヤスミ中?
珍しいね。
頬骨のトコと。
ス、と頬の線が削ぎ落とされてく箇所と。
口元。
触れて。
まだ寝てるンだ?
そっと、顔の了横に腕を突いて、上から覗き込んだ。
顔を少しだけ落として、額と。眉間の縦皺あたりにキスする。触れるだけの。
「ベン…?」
うんと落とした声で呼んでみる。寝てても、意識の邪魔にはならない程度の。
なのに、うっすらと瞼が開いた。
銀灰、それが。
なんだよ寝かせろ、そう訴えていた。
ますます、珍しい。
「眠いのか、」
目の下に口付けた。
「寝たいんだ、」
低い声、出すのもメンドウ、そんな具合が伝わる。
「ダメだよ、あンな……?」
ゆっくりと、こめかみから手を差し入れて、撫で下ろした。
さらり、と指に黒が絡む。
また瞼が閉ざされる。
「じゃ、さ。いまは寝てもいいけど。おれ起きてるから」
目尻に口付ける。
「起きていてどうする、」
「おまえのおきるのまってるさ、」
「なぜ、」
する、と額をあわせてみる。
「おまえの用事があンの」
や、むしろ義務、かなぁ、と。言い直してみた。
「ああ、弁護士のほうに連絡済みだ、明日あンたに連絡入るだろ」
「違うよ、それは全然関係ない」
くぅ、と勝手に唇がつり上がっていった。
さら、とまた指に髪を絡める。
溜息。
それがコイビトから零れる。
「いいよ、寝とけって」
起きるまでは待っててやる、と耳元に囁く。
「あンたオレが眠るまでそうやってんのか、ずっと?疲れちまうぞ」
「じゃあ早く寝ちまって、また起きてくれればいい」
額を触れるのを止めてやった。
視線も邪魔になるかな、どうせ?
じゃあ、みないどいてやるよ。
「居ない方が寝やすいなら、向こうに帰るけど」
「いや、いい。あンたも寝ろよ、気になる」
「おれは寝たくないってば」
とさ、と少し離れた場所に身体を落ち着けて。
視線を遮ってやった。
「気にしないで寝ろよ、」
デザァトは食え、義務。
寝ろ、と言われて言い返した。
「―――なあ、シャンクス」
「んん、」
フリーザーに入れてんのに、あれはどんどんオイシイサが逃げてくし。
そんなことを思っていたら、ベンが枕に顔を埋めていた。
「…やっぱりいい」
すい、と視線を横にやる。
「気になる、なに」
やっぱりダメで覗き込んだ。
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