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 「ベック、なに」
 「…いい。ガキだオレはすげえたまらん」
 頤にキスしてみたら。
 そんな言葉が返ってきた。
 「どういうこと、」
 これは、相当拗ねてるなぁ。
 「自己嫌悪」
 「どうして、」
 おれは好きなのに、と言った。
 「ただのガキだぜ、小学生と変わらん」
 「珍しいね、そういうの」
 
 頬にもキスしてみた。
 喉で。唸ってるぞ?オオカミとか犬とか。そういった連中めいて。
 「ベーック、」
 そんな喉もとに、口付けた。
 「なんだよ、」
 「小学生に、おれ欲情しない」
 くく、とわらっちまった。
 
 「オレは欲情はいまはいらん」
 「おれも、してない、」
 さらさら、と髪をまた掌に滑らせた。
 「なぁ、なあってば」
 「んー?」
 そのまま、またアタマごと掌で撫でた。
 「起きろ?キッチンいこ」
 「なんでだ?」
 「あまいもの食って寝ちまお、ガキみたいに。おまえの分」
 「―――うー、やべえ」
 「んん?嫌いだったとか」
 「苺のナントカは甘すぎていただけない」
 「馬鹿者。改良した、って言ったろ」
 おれの舌しんじてねぇな?と。
 耳元をわざと齧った。
 
 「けどな、シャンクス、」
 「なん、アレルギーとか言うのこんどは」
 声が勝手にあまくなる。
 オリジナルソースなみだ。
 「アレルギィだったら最初に会った頃のパーティのどれかで病院送りだろうが」
 わずかに、揺らいだ銀灰をみつめる。この色が揺れることも、驚くに値する。
 「じゃ、なんだよ?」
 頬に掌を滑らせた。
 ゆっくりとゆっくりと触れる。
 
 「…すげえガキ丸出しのセリフだぞ」
 瞬き、返事の代わり。
 掌をもうすこしだけ頬におしつける、やんわりと。
 「…オレに食わせるモノを作れよ、どうせなら」
 「ベック……?」
 あぁ、ヤバイ。いますっげ、こいつのことイトオシイ。
 
 「…クソ、言うんじゃなかった。寝かせろ、オレは寝る。頼むから寝かせてくれ」
 「愛してンよ…、だから起きろ?」
 目を覗き込んで、わらいかける。
 「イチゴのなんたらはいらん」
 「食わせてやるから、」
 「いや、つうか腹はいっぱいなんだよ」
 「掬ってさ?ソースだけでも味見しろってば、」
 「うー……甘すぎないんだな?」
 どうせバカみたいに酒で占領か?
 
 「おれが、オマエに不味いもん食わせたことアル?」
 「ある」
 「―――えええ」
 ああ、わかってるってば。
 でもあれは、フレーヴァじゃん。ラッキー、の。
 「じゃ、とってきてやろうか、」
 「―――いい。起きる」
 「ウン、」
 面倒くさそうに起き上がる様子が微妙にアルコールの影響あり、ってことが判明。
 珍しい。
 全身で、いやだあああ、って言ってるじゃねえの。起きるのが。
 
 「後悔させないヨ…?」
 すい、と背中を押してみた。
 「あー…わかった」
 「あんま、有難がられてないネ」
 すい、と歩き始めたヤツに軽く文句。
 「眠りたかったって言ったろ」
 「あとで一緒に寝よう」
 不眠症気味なのかもね、おれのコイビトは。
 リビングへ戻れば、まだリカルドはソファでのんびりしてて。ベンが一言。
 「ん。リカルド、オマエも付き合え」
 「わかった、」
 
 「あ、じゃあ。リカルドに食わせてもらう?オマエ」
 「自分で食う」
 「そう?」
 「ん」
 「ふぅん」
 冷蔵庫からデザァトを取り出して、サーブした。
 「ドウゾ」
 一応、デザァトフォーク付き。
 「いただきます」
 メンドウ臭気な腕の動きで。それでも、ぱく、と一口。
 「いかがですか」
 「…ん、甘いな」
 「適度にはね。デザァトだから」
 「珈琲ゼリィに乗せたら美味いかもな」
 「酸味の強い苺とあわせるソースだからね」
 それだけなら甘いよ、と。
 コーヒー好きに言った。
 「ん、そうかもな」
 
 「苺もくえって」
 冷えたソレを摘み上げて、ベンの唇の前にもっていった。
 ぱく、とソレが消えていき。
 なんとなくいつもよりは若干ペースの緩めな動作が続く。
 咀嚼して、飲み込み。
 「ゴチソウサマ。やっぱりシェフには逆らうもんじゃないな、」
 「フフン」
 ぺろ、と自分の唇を舐めていったベンの舌先を少しばかり追いかけた。
 「オマエも想定して作ってたンだから、アタリマエ」
 「アリガトウ」
 「My pleasure」
 どういたしまして、と答えている最中に。
 とん、と唇に口付けられた。
 「ごちそうさま、」
 「ウン、」
 わらって立ち上がるのを見上げた。
 
 「オヤスミ、いい夢を」
 「寝ないのか?」
 「邪魔しないよ、」
 「邪魔じゃないから来い」
 さら、とおれの視界を乾いた髪が半ば以上隠したけれども。
 口元の笑みが見えた。
 「ん、」
 「よし、」
 立ち上がって。
 珍しく拗ねて不貞腐れていたコイビトの背中に腕を回した。
 かるく抱きしめるみたいに。
 
 そのまま抱き上げられて、わらっちまった。
 拗ねてたのにね、オマエ?
 そして。
 「ほら、行くぞ」
 リカルドにもそんなことを言ってくる始末で。
 言われてリカルドは。ひょい、と眉を跳ね上げたかもしれないけど、直ぐ灯かりが落とされたから見逃した。
 「いっしょなんだ、」
 耳元に唇を寄せて声を落とす。
 「一人寝は寂しいだろ、」
 誰にとっても、ってことかな。
 
 「じゃあ、オマエに愛して欲しいときはどうするわけ、」
 半分笑い声混じり、半分吐息混じりで言ってみれば。
 「さっき欲情してないとか言ってなかったっけか?」
 「だから、欲情はしてないんだってば」
 わらって口付けてくるコイビトに言えば。
 「お構いなく。いやだったら出て行くから」
 リカルドがアタリマエの口調で言うのに。
 またわらった。
 
 
 
 
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