眠りについたときには、確かにシャンクスを抱いて眠ったと思ったのだが。
ふ、とリカルドが起きる気配に目が覚めると。
シャンクスに、抱き込まれていた。
―――これもまた、ハジメテの経験だ。

着替えるのも面倒だったので、スラックスとシャツを脱いで寝た。
けれどシャワーを浴びたわけではないので、まだどこか煙草の匂いが漂っており。
アルコールの匂いがしないだけ、マシかと思った。
代わりに抱き寄せられたシャンクスの肌から、石鹸の匂い。
―――甘やかされるのも、悪くないかもなぁ。
ちらつく眠りの影にぼんやりと思う。

するりと胸に鼻先を押し付け、息を吐いた。
きゅう、と回されていた両腕が、頭を抱きこんできた。
足はさすがに、かけられてはいなかった。
抱き込んで寝た名残、シャンクスの横向きの身体の下にしかれたままの腕。
コイビトの身体を抱きしめ返してから、意識を落ち着ける。
ふわり、と意識が浮いて。また浅い眠りに戻る。
あと2時間くらいで起きよう。
そうしたら今日は―――そこで意識が落ちた。



小さくアラームが鳴る音で目覚めた。
ぴぴぴぴ、と。深く眠る人間には聞こえない音。
抱き込まれたままだった身体を浮かし、アラームを止める。

リカルドは、まだうつらうつらと半分寝たままだ。
身体を仰向けにすると、寝たままのシャンクスがそのまま体重をかけてきた。
抱き込まれたままの姿勢。
見上げるとシャンクスはほんわりと幸せそうで、妙に嬉しくなる―――よく眠れているらしい。
抱きしめたまま、赤い髪を梳く。
さらさらさら、と音が涼やかだ。

「―――昨日は悪かった」
夜中のことだが。
柔らかく、寝たまま微笑んだシャンクスの頬に口付ける。
いささか飲みすぎたとはいえ……我ながら、ものすごい拗ね方をしたものだ。
可笑しくなる。
あんな拗ね方をしたのは、10歳より前のことだ。
サラがいた時。
“あなたはおにいちゃんだから、大丈夫よね?”
なんだって母親の愛情ってヤツは、ああまで特別だったのか。
く、と腕に力を入れて、身体を柔らかく添わせてきたシャンクスを抱きしめて思う。
妹の失踪を境に、“オトナ”を頼ることも、“コドモ”であることも、拒否してきたが。
「……ありがとうな、」
甘やかしてくれて。

気恥ずかしいのは仕方が無い。
けれど、正直なハナシ、嬉しかったのだ。
ぎゅう、と抱きしめて、しばし幸福感を味わう。
「あンたも、これくらい。幸せを実感できてるのか…?」
静かに訊いてみる。
ふんわりとした笑みをシャンクスが浮かべていたから―――もしかしたら?

「愛しているよ、シャンクス、」
耳元に口付けて、告げる。
それから、ぽんぽん、と背中を撫でる。くすぐったげに僅かに首を竦めていたコイビトの。

「オレは起きるが、あンたはもう少し眠ってるか?」
さらさらと髪を撫でながら訊く。
ゆら、とシャンクスの瞼がゆっくりと開いて。まだ眠たげな翠が覗いた―――こんなに寝起きがいいシャンクスは、はじめて見る。
さらりと頬を撫でて、見詰める。
「寝てるか、シャンクス?」
コイビトがゆっくりと瞬きをし。くぅ、と口許で笑みを作っていた。
「、はよう…」
甘い声だ、まだ眠りを引き摺ったままでも。

「おはよう。まだ7時過ぎだよ」
まだあンたが意地でも起きようとはしない時間帯―――いつもなら。
きゅう、と抱きつかれ。足までかかってきた。
笑う。
「……はやいね、」
「いつもこの時間だぞ?」
とろりとした声に答える。
のそり、とリカルドが起き出し。シャワー、とヒトコト呟いて、ゆっくりと出て行く。
微妙に起こしたか。
「おはよぅ、」
シャンクスの声。これはリカルドへの挨拶か。
「ん、」
ドア口で返事が返された。
とんと頬に口付けて答える。
「あンたは?」
するりと背中を撫で下ろす。
シャンクスがゆっくりと息を吐き、瞬きした。
ウン、と返事。
笑って目尻に口付ける。
それってあンた、起きるのか、起きないのか?

「シャワー、キス、オマエ、で、起きる」
とろりとした声だ。朝から耳にいいな。
「リカルドがメインのシャワー使ってるぞ」
使うのなら、サブかブースだな。どっちがイイ?
そう耳に囁く。
あンたも、いい目覚めだな?
「キモチイイほう、」
蜜が滴るくらいに、甘い口調。
「なんなら一緒に入るか?」
くくっと笑って、誘い文句。
「1,2,3がまとめてできちまうぞ?」
軽い冗談。

「いーよ?」
ふわりと甘い笑顔で答えられて、笑った。
「それじゃあサブのほうがいいか、」
シャンクスを抱えたまま起き上がる。
マットレスに座らせ、吐息で笑ったシャンクスにトンと口付ける。
「支度してくるから待ってろ」
すう、と見上げてきたシャンクスに告げる。
「ん、」
返された返事に、さらりと髪を撫でてから。ベッドを降りてサブのバスルームに向かう。

一晩中換気扇が点けられていたのは、リカルドがここを暗室代わりに使ったからか。
僅かに残っていた匂いに笑う。
今日はその写真を見られるんだろうか。

ざ、と湯を出して、タオルを用意し。シャンクスを迎えに戻る。
すい、と腕を伸ばしてきたシャンクスを抱き上げる。
「言ったっけ?」
「なにを?」
耳元で囁かれて、聞き返す。
サブのバスルームのフロアに立たせて、目を見詰める。
「あいしてるよ、って。オハヨウの前」
ふわりと目許が和らいでいた。
「言われてなかったよ」
つい、と唇を啄ばむ。
「嬉しいな」
こつ、と額を押し合わせる。とろりと翠が甘く蕩けていた。
「もう一度言って貰えるかな?」
見詰めて、訊いてみた。
―――ハハ。なんだか…甘ったれてるな。
悪くない。

「オマエを、あいしてるよ」
じいっと見詰めてくる翠、とろりと甘く蕩けた声。
微笑みを返す。
つい、と唇をもう一度啄ばむ。
「オレもあンたを愛しているよ、シャンクス」




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