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 戻ってきたリカルドが、そんなことを言いながら元の通りの場所のイスに。
 ストン、と座りなおしていた。
 「―――おれ…?」
 「そう」
 ンン?けど。モデルしてねぇじゃん、と言いかけて。
 テーブルの上に置かれたシャシンに目を一瞬落とした。
 少なくはない枚数が重なったソレ。
 リカルドにまた目線を戻した。
 
 「起きて無いじゃん」
 「そう。起きてたらアンタ、クセで顔造るだろ」
 目に入ったシャシンでは。おれが眠っていた。横向きで、誰かの腕を枕にしているのが微妙に「示唆」されている程度の角度で。
 す、と声が動いて。
 「アンタから許可貰った後だよ、」
 ライターの小さな火の方へ顔を近づけていた。ベンが差し出してたそれ。
 
 眠る顔と、目を閉じている顔は違うけど。
 「ホンモノ」の寝顔なんて、撮られたこと―――あァ、あるか。
 ……けど。
 ぱら、とシャシンを見ていく。
 満たされたカオ、ってヤツ。
 明かりが眩しかったのか、素直にカオを顰めてるのもあったけど。
 概ね、いい夢でも見てる風。
 切り出されたり、撮り出されたりしたものはジブンと切り離して見る癖がもうついちまってるから、照れなんてあるはずも無いけど。
 「ただ」寝ている顔じゃないことまでシャシンが切り取っていることに、リカルドの目の良さをまた知った。
 おれの許可の取った後で、なおかつ寝顔。ってことは、だってサ。ギフトで「遊んだ」後だろ、コレ。
 
 シャシンのなかには。
 ふわ、と甘く。やわらかくてやさしい、そんなカオをしているヤツが。とろとろ、と眠りを味わっていた。
 最初はリネンが引き上げられていた肩から、途中からその白のアクセントが無くなってて、ひょい、と隣のコイビトに目線をやった。
 ―――背中、がほぼ隠されること無く。
 「ん?」
 フォトグラファの仕業じゃねぇだろ、コレ。
 ふわ、と笑みを浮かべたベンに。
 「おれの背中好き?」
 に、と唇を吊り上げてみせる。
 「あぁ」
 
 俯伏せて、陰影に模られてみえる線が。とろりと柔らかく委ねきっているソレで。
 背中越しに、カメラに切り取られている表情はひどく甘ったるくて蕩けてた。
 コドモじみた素直な寝顔、一見。けど、見詰める眼差しは情事の名残じみた「艶」も見逃してない。―――まぁ、おれが?
 ただ寝ている、なんて在り得ないけどナ。
 
 アップの次は、また角度が変わってた。
 腰上あたりまで大きく視点が動き。あまい空気と艶めいた色合いを上手い具合に混ぜて。
 色っぽさよりは、優しさが全体のトーンを支えている一連のシャシン。次の視点を、「目」が期待するところで、ぱつり、と
 幕切れ。
 演出も、上手いじゃん。
 
 ―――これが、おれ……?
 随分と、また―――
 ふ、と上げた目線の先に煙が緩やかに流れ。唇の間からそれを空気に混ぜてたリカルドがさら、と目をあわせて。
 「どう?」と眼差して訊いて来た。
 
 「あのさ、」
 「ん?」
 ばらしちまおう、ウン。
 「おれな……?」
 ロビンが死ぬほどわらって、おれが憮然としていた一連の真実。
 じい、と見つめてくるリカルドに目をあわせて、それからどこか甘い表情のコイビトにも視線を流した。
 「肌みせちまうと、どうにも“極上の春画”みたいに誰が撮ってもなっちまう、って。ソレも含めて写真家殺しだったンだけどサ、」
 くう、とリカルドは笑みをつくり。ベンは、家にあるシャシンでも思い返してるのか、納得カオだった。
 
 「目なんかサ、閉じちまったらオワリだったンだよ、これまた」
 「ん」
 洒落で撮ったはずが、付き合ったフォトグラファは大抵アタマを抱えてたっけ。
 酷いのは、アタマともう1箇所抑えてしばらく消えてたけどナ。
 
 「これ、はさ」
 オマエの目線、と言葉を綴った。
 「優しいね、」
 「ん」
 笑いかけてみた。
 ふにゃ、と。イヤになるくらいどうにもこうにもカワイイじゃねえかよ、って笑みがリカルドに浮かんで。
 「おれさ、すっげ、嬉しそうなんだけど。けど……なんつの?つるっとしてンな、」
 「“つる”?」
 「んー、なんか。」
 補足してみる。
 「…ん」
 にこぉ、と笑みが深くなって。
 
 「こういうカオしてるとは、知らなかった」
 リカルドの目を覗き込んだ。
 「そうか」
 あわせた眼差しが嬉しそうだった。
 「オマエには、こう見えてンだ」
 少し口調を軽くしてわらったなら。
 「持ち出しは禁止な」
 ベンが、あっさりと隣から言って寄越した。笑いを底に滲ませた声で。
 
 「えー。いいじゃん、エロ顔ばっかじぇねぇんだぞ、って証明するチャアンス」
 ジョウダンで返す。
 「勿体無い」
 コイビトが、イタズラなガキみたいな目で言ってくるのに、驚いた。
 
 
 
 
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