Cuarto Francés(フレンチ・クォータ)
おれが口を開く前に、ドライヴァ共は示し合わせたみたいに地下のパーキングでローヴァを選んでいた。
並んで振り向いた連中の目は揃って同じことを言ってた、オマケに。
『誰かサンが煩いからナ』
クソウ。そのうちカレラの後ろにどっちか詰め込むぞ、てめえら。おれのドライヴィングテクニックは―――
『ドライヴァ・フロム・ザ・へル、』そう両手を上向けてFIレーサの遊び仲間がモンテカルロで言ったフレンチ・アクセント、
それがちらりと意識に上る。
内心の文句を見透かすような顔をしてきたコイビトの背中を軽く押した。
「行くならはやく行こう」
「わかったって」
リカルドはカメラケースをバックシートに積み込んでて。
「あれ?今日オマエ後ろ?」
背中に声をかけた。
「そう。羽根は大事だから」
そう言うと。する、と。愛し気にケースを撫でていた。
「オレの手もよろしく、」
ドライヴァズシートに滑り込みながらベンが笑って言い。
「撫でて欲しいワケ?」
茶化しておれが笑って。
リカルドは、こくん、と頷いていて。やったらカワイイっての。
「愛を持って接してくれ」
クルマがアスファルトに乗って。ベンが笑いながら言葉にしていた。
「愛!贅沢言うネ、オマエ」
わらって。
家から、大体20分くらいの距離だった。その「物件」のあるところまでは。
オールドタウン、きっとコロニアル・スタイルの建物、なんだろう。クルマを停めた路肩からは門扉の向こうまでは見えなかった。
鉄の門の内側には緑の迷路、サウスの気候の所為で植物が好き放題に伸びていた。
辛うじて、遠くに。どうやら3階建てらしい屋根の切れ端が見えていた。
「鍵は?」
「貰ってきている」
ゲートを、ベンが金属の音をさせながら開けていた。
ぎぃ、と芯から軋むような音をたててソレが開き。昔は石が敷かれていただろうくねった道の名残を抜ける。
買い手がつきかけたと知って庭師でもいれたのか、辛うじて通路に伸びてくる枝は切られているみたいだった。
そして、古びた石段と。その先に。
ギリシア風の支柱の立ったエントランスがあった。昔は、白だった外壁。
いまは、ほぼ。優雅な廃屋寸前の3層の屋敷。2階部分のテラスにはぐるりと鉄製の手摺が囲み、その枠組みの美しさが奇妙な
アクセントをつけていた。
「これを、直すって……?」
モッタイナイ、このまま住んじまおうよ、そう言いかけた。
―――朽ちかけた家が好きなのはどうしてかね?
「そう。直さないと住めない。人としてはな」
また、見透かされたヨ。
リカルドは、すっかりこの「お化け屋敷」に夢中だ。シャッターの音がもうし始めていた。
「ベン、」
「イエス?」
石段を登り、正面の扉を開けようとしているコイビトの傍に近寄った。
「物件、ゴースト付き?」
頬へ唇を寄せる。
「さあ?リカルドに訊け」
する、とそのまま肩を抱かれた。
「面白そうだ、」
見上げる。
「気に入ったよ、ウン」
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