「リカァルド、庭の奥の。温室の残骸も撮った?」
「撮ったよ」
例の「家」の。庭、南側に実は温室らしいモノも残っていた。
ガラスが殆ど全部割れ落ちていて、中へ入ろうとしたらアブナイ、の一言で止められた。
鉄のフレィムの内側から空を見上げたなら気分がイイのに、過保護なヤツがいる。
「そっか、」

で、いまは。
「家」の下見も撮影も大体終えて、そのままフレンチ・クォータまで流れて。
ギャルソンのジーン曰く、「古いのがウリ」なカフェで連中が打ち合わせめいたものをしていた。
"Le Pacte des Looups (オオカミの群れ)"、店名と内装のギャップがここもヒドイね。
まだここが植民地で、この辺りに平気で沼地があった頃から続いているらしいけど。
スモーカが二人いれば、自ずと場所は路面だ、長い庇の下。
エスプレッソ、カフェオレ、と続いて。
「シェリー」
ハイハイ、という顔でジーンがオーダを告げに奥へ戻った。

けど。
リカルドが妙な顔をして寄越した。
「……なん?」
「アレって飲めるものだったか?」
シェリーのことか。―――あ、嫌いなんだな?
「美味いのもあるのに」
「記憶の中では飲み物としては除外した」
ベンはタバコを取り出してさっさと火を点け。
「じゃあ、リカァルド、チンザノとかもダメって口だな?」
リカルドは差し出されたライターにタバコを近づけて火を点けてた。
「そうでもなかった」
「あぁ、フィノが嫌いなんだ」
辛口はお嫌でしたか、と付け足した。
「不味かった」

「残念だね?おれが頼んだの、ソレラ。甘くて美味いのに」
もうアルコォルとは縁切りしたって言ってたっけ。
すい、と肩を竦めたリカルドの目を、色ガラス越しに覗き込んだ。
そう、こいつら二人とも。
グラサンしてるンだよ。

「何でグラサン」
「眩しいだろ」
トレイを片手に近付いてくるジーンが見えた。
「目、見えないのに」
寂しいじゃないか、と。リカルドに、に、と笑いかける。
「オレは見えてる」

エスプレッソから順番に石のつるりとした天板のテーブルに置かれていった。
最後に、おれの前にシェリー。じゃ、これはおれの奢りってことで。
妙な具合に頬の辺りが赤いか?ギャルソン暦ン10年のじーさんを見上げる。
リカァルド、オマエ。じじい殺しでもあったか、―――さすがだね。

ソーサに乗ってたシュガーキューブをぱりぱりと剥いて1個カップに落とし。しあわせそうな顔して掻き混ぜるルカルドを見遣ったけど。これは言わずにおいた。
だから、ベンに目をやれば。
グラサン越し、とはいえ。
黙っとけ、ってオーラと。ジブンは見て見ぬ振り、ってやつだ。多分、その無愛想なグラスの下でウインクでもしやがったか?
だから、声には出さずに。
かーわいいよね、と。言っておいた。
返答は。
く、と口端を引き上げてきていた。

極甘口のシェリーを一口。ん、なかなかいい午後だ。
「リカァルド、」
呼んでみる。
「ん?」
ひょい、とでかいカップ越しに見上げてくるリカルドに言った。
「今度、カプチーノ頼んでみなよ?」
「んー」
フレンチの店だけどさ、ここ。きっとトクベツに。
フォームにココアパウダーで。鳩の絵描いてくれちゃうぜ、ヘッドウェイタ直々にさ?




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