「ウン、奥でね?」
シャンクスがリカルドの方へ、すい、と顔を近づけていた。
リカルドは、といえば。ぱちくり、である。
もう少し警戒心ってヤツを持つべきかもな、親友。
「オリーヴの枝、描く様にアドヴァイスしてきた」
ふわりと素の笑顔を浮かべ。
「"友愛"、だろ?」
そう言って、ちゅ、と軽くキスしていた。
とす、とリカルドがシャンクスの額を突付いた。
「場所には気をつけるように」
くくっとシャンクスは小さく笑っている。

カフェの中と外では、目をハート型にして絶叫しそうな連中と。
タダ単に絶叫しそうな連中と。
あーあ、という顔をした連中で溢れていた。
アンタらさっさと帰れ。暇人ども。
初老のウェイタが、飲み物をトレイに乗せて戻ってきた。
なぜだかオレにも、エスプレッソのサーヴィスがある。
かた、とリカルドの前に置かれた泡だったミルクの上には、オリーヴの枝。
シャンクスがウェイタにウィンクしていた。
リカルドは、難しい顔をしてソレを見詰め。それから、その困った顔のまま、ウェイタを見上げた。
何か言いそうに一瞬口を動かし。それから、一度目を瞑って、黙ってカップに口をつけていた。
にっこりと微笑んだウェイタは静かに引き上げていく。

ん、と一瞬考え、リカルドはシャンクスを見詰める。
なに?と目で訊いたシャンクスに。
「無造作で好意を与えられても困る」
ぽつ、とそれじゃプライマリ・スクールのガキの口調だ。
「通り雨みたいなもの、ってオモイナヨ」
すい、と微笑むシャンクスに、リカルドはますます困り顔だ。
「そんなタイセツなモノ、貰っても困るぞ」
「リカァルド、」
「リカルドはアリゾナで生まれ育っている。雨は恵みなんだ」
じい、とリカルドを見詰め返すシャンクスに、補足してやる。

「降り過ぎると洪水になって、一大事だ」
リカルドが紫煙をゆっくりと吐き出しながら言った。
「受け止めきれないなら、流れていくしかないだろ?でも」
シャンクスの言葉に、リカルドは溜息だ。
「流させてくれるかな、」
「リカルドのウェイトレス殺しは有名なんだ」
補足2。最もこの場合はウェイタだけどな。
「うわは。」
くぅ、とシャンクスが笑った。
「流れても、循環するよね、それが摂理だ」
けらけらと笑うシャンクスに。リカルドがすい、とナフキンを見詰めていた。
店名を覚えこんでいる。循環されないように、避けるつもりらしい。

「リカァルド、」
じぃ、と見詰めるシャンクスに、リカルドが視線を上げる。
「ここより美味いコーヒー、外じゃ飲めないんだよ」
「……バックスでいい。シアトルでも、タリーズでも、セガフレードでも」
きゅ、とリカルドの視線が哀しそうだ。
オマエ、美味い珈琲好きだもんなあ。
ジーン!とシャンクスがウェイタを呼んだ。
「この人、おれの"大事"だからね?ダメだよ」
さらんと告げ、それからリカルドに向き直って
「はい、もう降らない、」
とにこり、である。

心中複雑そうな目線でリカルドに見上げられ、苦笑。
尾鰭は付いても、お札はお札だな、と。肩を竦めて返してやる。
「…オンナノコ、好きなんだけどなあ」
リカルドが空を見上げて言った。
通りの向こうで、きゃあ、と嬌声が上がったがそれは無視することにしたらしい。
シャンクスがけらけら笑った。
「オンナノコ?みんな好きだよ、」
「………、」
リカルドが、口を噤んでサングラスをかけた。
オトコは眼中にナシ、なんだよな、と。リカルドの肩をポンと叩いてやる。

「ベーン、」
「なんだ?」
シャンクスに視線を向ける。翠とかち合う。
「チャイニーズのアンティーク。イス。おれ欲しい」
にこり、と笑われて、カタログを追加。
「あのな?こんど見にいこ、」
NYC、と言っていた。
「行くなら、家が完成する間近くらいだな」
インテリア・コーディネータも引き連れて行くべきか。
「あれもほしーな、明がダメなら清朝でもいいや、ボックス・ベッド」
「好きなものを買え」
とす、と髪を撫でてやる。

「探させといてイイ?」
「コーディネータにか?」
きゅう、と目を細めたシャンクスの目尻を撫でる。
「そ、」
返ってきた頷きに、ドウゾ、と答える。
「早めに見つかっちまった場合は取り置きさせておけ」
「家に運ばせとく?おれの部屋にでも」
すい、と首を傾けられた。NYCの自宅ってことか?
「その方が安全ではあるな」
笑いかける。
「了解、」
にこお、とシャンクスが笑った。

シャンクスのNYの家には言ったことがない。
中がどういう風に管理されているのかはわからないが。梱包されたままなら、間違えることもないだろう。
「いっしょに来る?」
オマエも、と微笑まれて、肩を竦めた。
「できるだけ中は見ないようにするさ」
「なぁんで、」
「片付け病が発病しちまったら、オレが面倒」
甘い声に、にぃ、と笑う。

「綺麗なモンだよ?なぁんも無い」
ひらひらと手をさせていたシャンクスのアタマを撫でる。
「あンたの"なぁんも無い"は"あンたにとって価値のあるものが無い"と同義語だろうが」
ま、実際にすっからかんの部屋があってもいいわけだけどな。
「やぁ、死体が出てさ?警察がまだほとんど中身管理してンの」
「死体?」
くぅ、と微笑んだシャンクスに、リカルドが方眉を引き上げた。
シャンクスの元マネージャ、ロビンから伝えられていた情報を思い出す。
「そう、ヒトん家のベッドルームでご丁寧にアタマ撃ち抜いてくれた人がいてね」
シャンクスの言葉に、リカルドはぎゅうっと眉根を寄せた。
「―――アンタもタイヘンだな」
色々考えた挙句、リカルドが呟いたのはソレだった。
オヤジさんの自殺―――疑問系ではあるが―――ソレも絡めて、いろいろ考えることがあるのだろう。
「自殺だから公判は終わっているはずだ。あンたが面倒臭がって警察にクレームしてないだけだろう」
こつ、とシャンクスのアタマを叩く。
「捨てるなら処理させなさい」
「ん、捨てるにシテも全部じゃないけどね」
する、と一瞬目を瞑り、僅かに掌に懐いてきたシャクスに告げる。
「あのクソイケスカナイ弁護士は、そういう時に使え」




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