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 「気に入らない色は?」
 「あーあ、あるけどさ…?」
 口の端に笑み。
 また、フィルムに残されていく。
 練習台、ねェ……?
 「アカ。いろんな意味で気にくわねぇなぁ、うん」
 「わはは!!」
 わらい声に、そのまま顔を向けて。
 「おーら、わらって撮ると手ぶれ起こすんじゃナイノ?」
 すうい、と立ち上がった。
 「遊んでるからイイ、」
 「わかってら、じゃさ」
 手招き。
 なぁなぁ、来いってば。
 「ん?」
 もう一度。
 
 ひょい、と近寄ってくる。とたとた、と走ってくる子犬めいた親しみ。
 初めてだぞ、こういうのはひょっとしなくても。
 目を、じぃとあわせて。ナニ?と訊かれた。
 うーわ、カワイイ。子犬だ、これ。
 そのまんま。
 抱き込んで離さなくなる「年上」が多いのが納得。
 「遊びならたのしい方がイイ。キスでもしよう?」
 また別のカオみせてやるよ、と言った。
 「キスしながらじゃ撮れない」
 笑み。
 返されるそれ。
 「した後に撮ればいい、」
 見上げてみる。
 わかってるよ、オマエの支点がブレないことくらい。
 
 「シャンクスにとってキスはなに?」
 んん?
 ひょい、と頤を掴まえられた。眼差しが見つめてくる。
 「サプリメント、」
 に、と唇を引き伸ばした。
 「オオケイ」
 とん、と。リクエストしたものが落とされる。やわらかく啄ばまれてまた笑みが唇に乗る。
 あわせたままでいた目、茶色のそれが、ひょい、と間近で覗き。
 ゆっくりと唇を啄ばんで返し。
 くう、と目が細められるのを見つめ。先をやんわり促がせば、ぺろ、と舐めてくる。
 く、と喉奥で笑いを殺した。
 もっと、と眼差しで強請って。
 ゆっくりと閉じられていく目が承諾の合図めいていた。深く重ねて、ひどく丁寧に触れ合う。
 衝動には結びつかない、けれど深く絡めて。
 さらりと、後ろで一つに結ばれている髪、それに触れた。
 
 丁寧、愛情深い、穏やか、上手い、―――気分がイイ。
 けど。
 微妙に、断固として、リードを取らせないところが、やっぱり面白いしカワイイってな?
 きゅ、と強めに吸い上げて、目をゆっくりと開けた。
 同じように、ゆったりと瞼が上がっていって、そこにあったのは欲情の欠片もない眼差しだった。
 リカルドの理論でいうなら。
 おれは好かれてる、ってことなんだろう、ウン。
 く、と唇を押し当てた。
 あー、多分、ガキみてぇなカオしてるんだろうなあ、今。
 頤をやんわり掴まえてた指が、する、と離れていって。
 あむ、と下唇を食んだ。
 それから、笑いかけて身体を離した。
 美味かった?と訊かれた。撮りながら、笑って。
 
 「カオみてわかンない?フォトグラファ」
 窓辺、そこに立って。
 「訊くのも楽しい」
 返答にまた微笑んだ。
 「おれな?すごい好きだよオマエ」
 リカルドは明かりの色に、少し時間をかけてフォーカスを調整していきながら、空気を切り取っていっていた。光線の色味も、
 入り具合も窓辺は違う。
 「アリガトウ」
 にこやかな返事。
 「有り難味が感じられません、ってなー」
 茶化して言い返す。
 肌蹴た襟元は放っておいた。
 
 くくっとリカルドがまた小さくわらって。
 「ちなみにオレを色に例えると?」
 そう訊かれた。
 「オマエを?」
 やんわりと投げ返す。
 「ん、」
 ふわ、と。
 勝手に表情が甘くなる。これも、放っておいた。
 また撮られた。
 いいよ、いくらでも撮れよ、もう。
 表情を作る作らない以前の問題だ。重症。
 
 「水、」
 うん、と一瞬考える。
 「ふぅん」
 「水色のことじゃないぞ?」
 「ん、」
 わざと念を押して、笑う。
 にこお、と笑みを答えにかえしていたりカルドに向かって。
 「リカァルド、おまえはきっと、」
 ――――イテ。
 心臓の裏側、一瞬傷んだ。
 意識のどこかで、その瞬間さえ切り抜かれたのだろうとわかっても。
 渇いたモノにとって、良きものなんだとおもうよ、と言おうとして。
 イメージが重なりすぎた。
 マクシーと。
 あとは。
 "レオナ"、まっくら闇のなかで優しかった手。
 トラウマ?仕方ないネ。
 実行犯のメンバが初恋ってか。まったく我ながら因果なこった、あーあ。ストクホルム症候群と、リマ・シンドロームの組み合わせ。
 
 ―――アンタは何色?
 柔らかな声がようやく聴こえた。
 ふ、と。水面にカオを出した気がした。
 「――――ぇ?」
 目線が、声を探した。
 「シャンクス、アンタは?」
 あ、いる、あそこ。
 「―――無いヨ」
 応えた。
 「ベンは?」
 「あれは、」
 ―――アレは?
 「反射板、それか、―――全部の色を混ぜたクロ」
 もしくは。
 完全な、無色。
 どれだろうね…?
 
 
 
 
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