Amante(コイビト)
「即物的なハナシ。オレがもしカメラマンであンたを撮ったとしたら。他の連中と似た様な写真しか撮れないのかもな、」
にぃ、と口端を引き上げてみる。
「それを考えると、リカルドは貴重か?」
カメラマンとして。
シャンクスが、すい、と首を少し傾けていた。
「どうだろうね……?実際、こんないいモンじゃないとは思うけど」
にこお、と笑っていた。
いいモン、とは。写真のことだろうか。
被写体がいいのは知っている。外も、中も、あらゆる角度で。
「1回目の遊びでコレなら。本気だと何を撮るんだろう、ってぞくぞくする」
嬉しそうに頬を染め、僅かに目を細めたシャンクスの頬を撫でる。
ゆっくりと眼差しが合わされる。
不意に愛しさが湧き上がる。
「…ファム・ファタールを探したことはなかったんだが、」
唇を指先でなぞる。
「あンたと一緒に過ごすようになってから思うようになったよ。あンたは、」
く、と少しだけ笑みのカタチを浮かべたシャンクスに、目を細める。
El amante del Destino、運命のコイビト。
「オレの最愛だよ」
シャンクスの手を引き上げて、口付ける。
「今が一番とは思わない。あンたと居れる総ての一瞬が一番だからな」
細い指先、きれいに整えられた爪先。
唇で触れる。
「けれど、まあ。そんな一瞬のいくつかを。切り取られて残されていくのも楽しいかもな」
キレイに咲き誇る総ての瞬間の一部を。
「おまえのさ、」
甘い声で告げてくるシャンクスの翠の双眸を見詰める。
「まだみたことの無いカオがあるとしたら、」
さら、と髪に指が差し込まれた。
そうっと抱きしめる。
「それを最初にみるの、おまえの“親友”かもしれないね」
そうっと耳元で声が続けていた。
「……ああ、」
腰を引き寄せて、耳の横に口付ける。
「アイツになら、撮れるだろう。オレが引き出せなかったあンたのカオを」
「妬ける…?」
僅かにからかうトーンに笑う。
「そうだな」
赤い髪を掻き上げる。
「でも、さ…」
「ん?」
「オマエがシャシンカだったらね、」
痩せ気味の背中に腕を滑らせる。
する、と唇が髪に触れてきていた。
「レンズ越しのセックスなんて、まどろっこしいことヤッテランナイよ、」
落とされた囁きに笑った。
「オレもカメラを放り出している自信があるぞ?」
ああ、けれどそれじゃあ。 “他のカメラマン”と一緒か?
「U18〔未成年〕でも?」
くっくと笑っているシャンクスの耳を噛む。
「マイナーは最初からカウントしない」
息を詰めたシャンクスの背中を手でなぞる。
「手を出すくらいなら、解約金を借金してでも払って契約打ち切って逃げる」
笑って告げる本音。
「逃げないでおれのところへ来ればいいのに、」
さらさらと髪を撫でられた。
「誕生日にカメラ持って現れて。跪いて希うさ」
ぺろりと耳朶を舐める。
「“あンた、オレに全部晒してくれないか”ってな」
「―――たのしそ、けど、」
ゆら、と声が揺れていた。
「“けど”?」
上唇で、そうっと耳朶の産毛を逆立てる。
「自分から先に口説かないとおれ、惚れないかもよ」
お返しに、とばかりに項を指先が撫でてくる。
「おれさ……?」
「ん?」
すい、と目を覗き込んできた翠。
頬をそうっと指先で撫でる。
「惚れると、何もかもやっちまいたくなるんだ。おれの目が欲しいって言うなら砕いて呑めばいいと思うし、声が好きだっていうなら
ずっと名前を呼んでやったっていい、けどネ―――」
僅かに微笑んだシャンクスを見詰めたまま、両手で髪を退かしてやる。
「過度なんだってさ、限度しらねぇから?おれ。だから、ジブンから惚れたヤツに限って良く潰してたんだけど。おまえは違うね、」
甘い甘い声。一度目を閉じて、声のトーンを覚えこむ。
それから目を開いて、翠を見詰める。
「…あンたのその翠の目とか、」
するりと頬を撫でる。
「あンたの生き方を表現しているようなその赤とか、」
虹彩にキレイに光が乗っていた。
「あンたのはちゃめちゃでイイ性格とか、セックス上手なその身体に呑まれてもいいとは思うさ」
笑って額に口付ける。
「オレがオレである自信がある限りナ」
自分を見失うことは禁忌、だ。
だからきっと。あンたがどんなに手を尽くしても、オレは呑まれない。
「ん、」
目を一瞬閉じたシャンクスの頬にも口付ける。
「もしかしたら、あンたが幸せになるためには。あンたの総てを攫っちまえればいいのかもしらないが」
腕の中に再度引き寄せる。
「オレは優しくないからな。いつでもあンたに選ぶ余裕を作っておくしかない」
素直に預けられたシャンクスの身体は柔らかい。素直に聞いてくれているその魂と同様に。
「―――選ぶ、」
「そう。オレの側に居たいかどうか。他の連中と、オレのどちらか」
ふ、と考えているような口調のシャンクスに答える。
「おまえに余裕は残してやる気、ないのに。おれ」
目を合わせ、ふわ、と笑ったコイビトの髪に口付ける。
「あンたを縛り付けない代わりに、いつでもオレが選ばれるよう、努力を怠る気はないがな」
「おまえの何がすきって、」
翠がきらきらと煌いていた。
…喜んでいるのか、あンた。
口端を引き上げて、笑いかける。
「おれとタメはれるくらいに、オレ様なとこ」
そう言ったシャンクスが、ふにゃ、とガキのように笑った。滅多に見ない、心底嬉しそうな笑顔。
どこも気取らない、飾らない、本音100%の。
「あンたみたいに最高のモノに並ぶんだ。それくらいの自負が無いとな」
軽く片目を瞑って笑いかけた。
本気、本音の軽口。
「あンたを、愛してるからな」
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