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 こんなに、いいモノだとはまだあのときは思ってなかった。ただ、外せないだろう、と漠然と。カン。夏の馬鹿騒ぎの中で一人で
 違う空気を吸ってたヤツ。
 見るからに自信家、高そうなプライド、固そうな意思。
 崩してやろう、と面白くなった。
 タイクツになりかけたパーティにウンザリし始めていた頃だったからますます。あと3週間近く同じ場所に居なくちゃいけないなんて
 思っただけで喚きそうだった。
 妙な成り行き。
 折れたわけでも、オチタわけでもない、だけど身体の相性は良かった。
 
 そのなかで、いくつか気付いたことは。
 気付いてしまえば手放せないモノばかりだった。
 そして、奇妙な具合に。コイビトになって1年近く経ったいまごろになって、
 言葉がすとん、と。なかに落ちてきた。まっすぐに響いて。
 
 言葉を使うのが仕事なんだから、クる台詞を言えて当然だろう、なんて茶化して最初はわらったっけ?
 風情が妙に「軽い」から、その意味も軽いかと思えばトンデモナイ。
 同じ意味合い、ただ深みは段々と増していくだけ。
 重過ぎない深い愛情、っていうモノは。
 オヤからフツウは貰うのか?エゴを抜けば…あぁ、それでも近くない。
 
 「おまえさ、」
 「ん?」
 微笑まれて。
 コイビトの眦、それからこめかみのあたり。唇で触れた。
 「変なところ、ロビンみたいだ。気が会うかもしれないね、あったら」
 そのまま、目を見つめていたなら。ふわりと笑みを深くするさまを堪能させてもらった。それから、髪を掻き混ぜられて。わらっちまった。
 
 「リカルド、出てこないね……?」
 耳元に口付ける。
 「とっくに出て、ベッドで寝てたりするかもな」
 「―――うわ、」
 「見てくるか?」
 「おれ、」
 「ん?」
 コイビトの目をみつめたまま。
 「まだ練習台の評価、本人から聞いてないんだけど」
 おまえからの愛の告白だけで、と付け足した。
 「寝てたら明日だな」
 「おまえ、聞いてないのか?
 二人して見てたのにな。
 「あと、明日のプランとか」
 
 「写真のハナシはしたがな。明日のプランも別にしてない」
 「どんなハナシ、」
 くくっと上機嫌に笑うコイビトの首筋に唇を這わせた。緩く。襟元で引き止めて。
 「これは楽しかった、ここでは絶対オマエのこと思い出してた、ここはライトが暗い、ここはシャッタースピードを落とせばよかった、等」
 「―――ふぅん?」
 さら、と。背中を手で撫で下ろされて妙にその大きさを実感した。
 「あとは。あンたに着せる服はどうしようか、かな」
 「―――ハハ」
 に、と微笑みかけられて。またわらっちまった。
 「痕残していいかどうか、微妙だね」
 銀灰の色を覗き込んだ。
 「リカルドは気にしないだろう」
 くう、と片目を眇めるコイビトに。
 「あ、いますこし、どきっとした」
 に、と笑みで返した。
 「ふン、」
 とん、とキスが落ちてくる。
 どちらにも、転がれるソレ。
 
 「―――残したい…?」
 コイビトの襟元に指を添わせた。
 残して欲しいな、なんとなく。
 「そうだな…あンたの肌にあの赤は、キレイだしな。付ける前、付けた後で写真並べるのも面白いかもな」
 さら、と。洗いたてのリネンじみた爽やかさ。そんな笑みを乗せて言うことはコレ。
 「ますます発表できやしねー」
 ワザと口調を軽くして、首筋をやんわり食んだ。
 「そのパーツだけアップにして。他の作品に混ぜちまえば?」
 くくっとまた低い笑い。
 「リカァルドにも同じとこにキスして貰おうかな…?イイカオ出来すぎるよ」
 ぺろ、と首筋を舌先で擽った。
 撮りたいモノと正反対だったりしてな?それでもいいか、面白いし。
 
 「なあ、」
 「―――うん…?」
 「今夜はどうしたい?」
 とろ、と甘くくすぐってくる声に眼差しを上げた。
 「痕残してくれ、って言ってるだろう…?」
 「残すのは、付いてない写真を撮ってからじゃなくてもいいのか?」
 項から髪を梳いて。くう、と笑みを刻んだカオを間近でみつめる。
 「同じところで同じアングル、そういう写真をリカァルドが撮るとは思えない、」
 笑みを模ったままの唇に触れるギリギリ。言葉を綴る。
 「…そうかもな。ならいいか、」
 
 「今日の遊びが、お手手繋いでデェト、なら。明日はまた少し進展するだろ?仲が」
 同じデェトは2度しないだろ、と続けて笑おうとしたなら。
 ふわ、と。ひどく優しく笑みを浮かべたコイビトがぺろ、と唇を舐めてきて。ちり、と神経が少し焦げた。
 「“セックスなしでも相当深い”なら。どこまでいけるかね」
 視界が高くなる。抱き上げられて、笑いかけた。
 「アタマのなかでイキっぱなし、て相当疲れそうだねェ」
 に、とわらってみた。
 
 
 
 
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