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 クラシックというよりは、アンティークなベッドルームにシャンクスを連れ込んだ。
 リカルドはスペア・ベッドルームで最初から寝ているらしい。
 その部屋は、写真に収められていなかったから。そこが作業場でもあるのだろう。
 甘い白のリネンに散った赤は、いつも見てもキレイだ。
 潤んだ翠、鮮やかな赤、甘い白。
 オレンジのランプの明かりが、さらにコイビトを甘く見せる。
 
 腕を伸ばしてきた拍子に、シャツの袖が肘の先まで落ちていく。
 覆いかぶさって抱きしめた。
 深い口付けを交わし、高めあう。
 短く息を零した隙に、服を脱がせて肌を合わせた。
 掌で素肌に触れる。とろりとした極上の手触り。
 腕が背中に緩く回され、全身の容をゆっくりと味わった。
 愛しむために。
 
 蜜より甘くとろりと蕩けた息が、何度もシャンクスの唇から零れ落ちていく。
 唇で淡い痕を残し、歯でやんわりと噛み、口付ける。
 「―――ぁ、ァ」
 背中が僅かに浮き、その間に手を差し込んだ。
 指先でラインを辿る。
 
 指先を。
 爪先を。
 腰骨を。
 中心部を。
 愛撫する。
 口付けて、吸い上げて、舐め上げて、揉み込んで。
 身体を浮かせ、甘く鳴くシャンクスを隅々まで味わう。
 
 愛している、という身勝手な感情。
 それだけで、立派な理由付けになるという幻想。
 愛しているから慈しむ。
 大切だから包み込む。
 けれど。
 だからと言って、繋ぎ止めることはしない。
 腕の中に、閉じ込めたりはしない。
 身体を繋ぐことは、手軽にできる行為だと知っているから。
 それだけでは証明にならない。
 
 愛してるということを、具体的にしようとするのは難しい。
 シャンクスは、魅了するモノだから。
 口説かれ慣れている、
 溺れられることに慣れている、
 無我夢中に求められることに慣れている、
 だからこそ、そういった表現ほど、きっと“信用”しないのだろうと思う。
 
 時間をかけて、身体を繋いだ。
 きゅう、と肩に埋まる指先が、快楽の深さを克明に伝えてきた。
 柔らかに蕩けたシャンクスを抱きしめた。
 快楽より一歩向こうにある何かを伝えたくて、口付けた。
 一生懸命、といった具合に腕を回されて、嬉しくなった。
 
 多分。
 あンたのために死んでやれるんじゃないか、とフと思う。
 その後のあンたが心配だから、究極の選択ということになるが。
 快楽に意識が浮いているのだろう、どこか覚束無い動作のシャンクスの耳に注ぎ込む。
 なぁ、あンた。オレだけのモノじゃなくてイイから。なにがあってもオレのことを忘れてくれるな。
 身勝手な願い。
 適わなくても構わないと割り切る辺り、溺れきれない自分に歯がゆさを感じなくも無い。
 たとえそれが自分に科した禁忌であっても。
 
 ゆらゆらと、蕩けた翠が焦点を結んでいたから微笑みかけた。
 「もっと、飛ぼ……?」
 甘えた優しい声。
 頬に口付けて、奥まで打ち込む。
 
 なぁ、シャンクス。愛してるってオレの言葉、絶えず覚えていてくれ。
 くう、と反った顎に口付けながら囁いた。
 他に抱かれている時も、抱いている時も―――とは口にしなかったが。
 指が髪を絡め取り。
 願いを封じる代わりに、また深く口付けた。
 引き寄せられて、また奥まで交わる。
 
 取り込むように蠢く内に、深く目を瞑った。
 抑えきれない声が上がり、抱きしめたまま追い上げた。
 快楽に浸かったまま、それでも一部醒めたままの脳が残されていることに安堵する。
 応えるように熱を上げていく身体を抱きしめ、追い上げながら思った。
 あンたがオレに溺れてくれればいいのに、と。
 けれど。
 自分がシャンクスに溺れ切れないくらいに。シャンクスもオレには溺れ切れないのだろう。
 オレ一人では“足りない”。
 なぁ、あンたの闇はそこまで深いのか。
 
 「―――あンたが飽きて行っちまうまで。何度でもあンたを満たすよ」
 たとえそれが一時のことだけであっても。
 「―――ック、」
 息を吸い込んだシャンクスの喉が鳴っていた。
 笑って頬骨の下に口付けた。
 「だから。あンたは遠慮ナシに求めて来い」
 快楽でもなんでも。オレがやれるモノはやっちまうから。
 「愛しているよ」
 
 
 
 
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