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 「えーと…?なに難しいカオしてるンだ?」
 コイビトを見上げる。
 「欲しい衣装のコンセプトが決まったのはいいが。今日明日、手に入りそうなものじゃないんだ」
 これは、ベン。
 「妥協できない」
 ふぅうん?例えば。
 リカルドが本から目を上げずに。
 「中世ヨーロッパ宮廷風」
 そう呟いた。
 「ムリだろ。その辺りの写真屋の貸衣装じゃ足りないんだ」
 あぁ、なるほど……?ここの内装とはいい具合かも。
 ベンの言葉を聞いて思った。
 「あんな安いのは願い下げだ」
 ぼそ、っと。不貞腐れたみたいに言うのもまたかわいいなあ、リカァルド?
 
 「かといって今から寸法測ってオーダーメイドなんてしようものなら。半年はかかるぞ?」
 ベンが。リカルドの方へ何歩か近付いて言ってた。
 「この部屋で撮るなら妥協したくない」
 折角素材が最高なんだ、と。リカルドがベンを見上げて言って。
 「素材」それ、おれと部屋の両方なのか?とか考えた。
 「知っている。だから妥協しろとは言っていないだろう?他のコンセプトで仕切りなおすか、他の時期にやるか」
 さっきから聞こえてたのはもしかしたらコレか?ベンがやんわりと言い含めるみたいな口調で。
 
 「なぁ…?」
 あのさ、もしもーし、
 「「なに?」」
 うわ、二人揃ってこっち向いたよ。
 「頼めばイイじゃん」
 そんなの、さ?
 「誰に?」
 「デザイナならツテはあるが、いまからならどうにもならん」
 「アントワン、大御所。いくらでも、おれのサイズも知ってるし」
 「アントワン・ブロゥ???」
 「うん…?嫌か……?」
 「捕まえられるのか?」
 リカルドが、目を真ん丸くしてきたから、ちょいとばかり、どきっとしたけど。
 「うん、ロビンにね、番号聞いたら」
 これは、ベンに返した。
 
 「捕まえろ」
 つい、とケイタイを差し出された。
 ロビンは。番号を変えてないから、おれもいくらなんでも覚えてる。コイツのと、ロビンのだけかもしれないなぁ。
 「でも映画で一度使用されたのは嫌だぞ」
 リカルドの言葉にわらった。
 「あンね…?」
 ロビンのナンバーを押す前に、リカルドに話す。
 「なに、シャンクス?」
 「おれがオファ蹴って急に引退したから。ぽしゃった映画があンの、それの衣装って馬鹿みたいにコストかかったのにお蔵入り」
 さすが、アントワン、とわらった。
 ひょい、と僅かに首を傾けてたリカルドに向かって。
 
 「…蹴るシャンクスも、さすが、っていったらさすがだね」
 「トラブルメイカ、おれ以上のヤツってまだいないと思うよ……?」
 にこお、と。微笑んでから。ロビンのナンバーを押した。
 さら、と。コイビトが髪を撫でていくのを感じながら。
 3コール、ロービーン、アナタのベイビだよー?
 
 『これは誰かしら?』
 あ、ロビンだ。
 すう、と染みとおる低音。あぁ、ベンのケイタイだからおれの表示はナシなんだね。
 「ニコ、オハヨウ」
 すう、と。
 デンワの向こうで笑みの拡がるのがわかった。
 『―――プレシャス、お願いはなに?』
 柔らかに通る声。
 でたよ、と。二人に目で合図する。
 「そのまえに、ニコ。アナタも元気そうだね」
 くう、とベンが笑みを刻み。リカルドはパッケージからタバコを引き出して咥えてた。
 
 『ハニィ、あなたが少しでもカオをみせてくれればもっといいわ』
 「あのね?行くかもしれないよ。ニコ、おれ。アントワンに連絡入れたいんだけど」
 『―――アントワン・ブロゥ…?』
 くう、と。ロビンのあのキレイな眉が吊りあがっていく様までカンタンにイメージできる。
 おれに仕事させておいて、連中はタバコの火の受け渡し。
 勝手にいちゃついとけ、勝手に。
 「そう、アントワン。至急ね、オネダリ事が出来たから」
 『―――アラ。』
 微かな笑い声が機械を通して伝わってくる。
 3秒待って、と言われ。
 「メモくらい用意してくださいませんか、」
 連中に言った。
 
 ベンが咥えタバコで趣味の資料整理をはじめて。リカルドが紙とペンを片手に隣で待機。
 ちょい、とリカルドを手招きして。
 軽く寄りかかった。
 すぐにロビンがまた戻ってきて。
 『アントワンの番号、昔と変わってないのよ?』
 そう笑いながら教えてくれた。
 『プレシャス、私の他のナンバーは覚えたの?』と言いながら。
 「1件。ありがとう、ニコ。ダイスキだよ」
 『私もよ、ハニィ』
 さら、と。通話が切れる前に。それでも。
 カオをだすのよ、と念を押された。もし、古巣に近付くのなら。
 
 ナンバーの書かれた紙を見た。リカルドの手の中。
 「リカァルド、かけてみる?」
 わらいかけた。
 「オレじゃ相手にされない。訝しがれるだけだろう?」
 「はーい」
 じゃ、せめてナンバ読み上げてナ、と。
 甘えてみたなら。ゆったりとした口調で、ナンバが告げられていって。
 コール音がし始めた。
 ―――アントワン、連絡するのって……何年振りかな?
 
 4コールで、留守電に繋がった。
 いつもの事ダネ。
 「アントワン?おれ。アンファン・テリブール、だよ、アナタの。電話欲しいんだ、ナンヴァ、ここに掛けてきてクダサイ?」
 お名前、電話番号をお残しください、ピー、ってヤツ。相変わらずのヴォイスメール。
 それにおれのケイタイのナンバを多分あってると思うけど、残して。
 ピ、と。通話を切った。
 
 「かけた」
 リカルドを見上げる。
 「ありがとう」
 「どういたしまして。LAまでは行かないと、だけどね?多分」
 とん、と。額にキスされてにこにこしちまった。
 
 
 
 
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