Chorro del sol(サン・バースト)


西に戻るのは、ちょうど1年ぶりくらいか…?
んん?半年?―――少なくとも、LAXへは、1年ぶりくらいだ。
サイキンの記憶だと、アレだな。スペインからの帰りのフライト。あのときに一緒に降りたっけ、ここ。

フライトの間は眠っていたから確認はしないけど、どうせベンは機内で仕事の3つや4つ片付けていそうな勢いだし、リカァルドは
撮り溜めしたネガの整理なんかで時間を潰してたんだろう。
機内から降りるときに、キャビンアテンダントが必要以上ににこやかだったのはリカァルド効果、ってヤツだな、どうせ。だから、
サーヴィス業従事者受けの異様な良さ、それをからかってわらった、小声で。
「良かったね、パーサーは一人じゃん」
「興味ないよどのみち、」
「寄り道なんて出来ないもんな、いずれにしろ」
溜め息混じりのリカルドの肩を軽く指先でノックした。

陽射しが、ガラス越しでも明度が違う。
遠いはずの海がすぐにイメージできる明るさと、陽光の彩度。
砂漠めいた空の抜け具合と。
―――んー、古巣だ。戻ってきちまった、あーあ。3日間、長いナァ。

到着ゲート、ラゲッジは預けてないからスムーズに到着ロビーへそのまま出て。
ヴァ―ミリオンを出るときに、連絡したアントワンの台詞を思い出す。
スタッフを遣らせる、って言っても。
おれ、アナタのスタッフ覚えて無いヨ。
にこやか笑顔のインド系、って言ったって。インド系は大抵みんな「にこやか」じゃねえの?

ゲート、アトリウム。
陽射しはキラキラで、お迎えの連中もキラキラ、出てくる連中もにこやか、異様にポジティブな到着ゲートの風情って
あんま好きじゃないんだよなあ。
リカァルドが嬉しそうなのが、せめてもの救い。ベンも、おれと似たり寄ったりか?

ぐるっと見回して。
諦めた。笑顔ばっかり、どこをみても。ワカラナイ、全然ダメだ。
アントワン、たすけろー。
ナンバを押して。
メッセージに「トワントワン!!!ぜんっぜん!!わっかんねえええ!!」
と、入れて。
こら、という目線のベンに、ハナサキに皺を寄せた。

すい、と。
にこやかな気配が近付いたのがわかってそっちへ目をやったなら、にこにこにこにこしたカオのインド系のニンゲンが近付いて
きてた。
「―――トワントワン、怪しいインド人発見。じゃね」
通話を切る。
「お久しぶりです、シャンクスさん」
「―――ハイ?」
笑みを浮かべる大人しいオフィスワーカみたいな男に眼差しをあわせた、グラサン越し。
「アントワン・ブロゥの“サイファ・ビジュアル”でスタッフをやっているジェイです」
これが“ジェイ”?久しぶり、って言われてもあったことあったんだ…?―――…んー、やっぱ、記憶に無いかも。
「お迎えにあがりました、こちらへどうぞ。お荷物持ちましょうか」
流暢な、イギリス訛りナシの米語。
ううううううん、―――やっぱり覚えてない。
「どうもアリガトウ、わざわざ」
にこ、と微笑みかける。覚えてないです、とは言わずにおいた。

荷物らしい荷物を持っている連中は、「丁寧に」身振りだけでジェイの申し出を断っていた。
促がすような笑みを返されて、そのままパーキングへと向かう。
ひらひら、ひらひら、視線がまとわり付いた。はーい、おれたちは何でもありませんよ、気にしないでいいからネ。

パーキング、回されたクルマにわらった。ヴァン、相変わらず。
リモを『ダックスフンド』呼ばわりは変わらないんだね。内装は大差ないくせにな…?
「ジェイ?気難しい御大相変わらず」
ひら、っとクルマを指して。
ジェイは妙に深く頷いて。
リカルドは荷物と一緒に一番後ろのシートに収まって。おれも中に入り込んで、最後がベンだった。

「アントワン、引越しとかは?」
「してませんよ。相変わらず、3軒のアパートを行ったり来たりです」
「ふぅん?」
クルマはハイウェイに乗っかって順調。
パリ、NYC、LA。――――あ、おれ3軒とも遊びに行ってるじゃん。
アムスに行く前。クソ暑いパリに寄ったとき、しばらく転がり込んだしな。

ジェイが、今日出席を予定していたパーティをアントワンがキャンセルしたと教えてくれた。ジェイ本人はそれをかなり残念がってる
風だったけれども。
「ふぅん?」
で終わり。他に言い様が無いしね。おれと秤にかけたらおれが勝って当然と思うけど?これも黙っておいた。
口に出さなくてもいくらでも伝わるし。

ふい、と意識をやった後ろでは。
リカルドは窓の外を観察中、一言断りを入れていたベンは「仕事電話」真っ最中。
口調から察するに。スケジュール調整をしているみたいだった。やたらと忙しない、何件もデンワ。
当分オデンワは終わりそうにないし、リカァルドは初対面のニンゲンにあまりフレンドリーに話をするタイプでもないし。だから、
ドライヴァ役のジェイに。ワーカホリックと人見知りは気にしないように、とアドヴァイスした。
ジェイが、ミラー越しに笑みを寄越してきて。
眉と、口端も引き上げて返事にした。

ベンが漸くデンワを終えかけた頃、ヴァンは見覚えのあるレーンに入って。
「ジェーイ、アントワン、玄関の前で待っててくれるかなあ?」
すぐだった、道、空いてたしね。
セキュリティゲートを抜けながら、
「待ってると思いますよ。うっきうきしてましたからね、」
そうジェイがわらった。
うん、おれも楽しみだな。




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