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 セレブレティの邸宅が何マイルにも渡って“近所”で続くハリウッドの一角に到着。
 ゲートから玄関まで、直線で3分はかかった。
 車が大きな噴水を半周したところで停まり。
 大きな黒のドアが開いたのが見えた。
 シャンクスは、ドアを開けてやれば、ぽーん、と猫みたいに飛び出していき。
 玄関のところで両腕を広げて待っていた男性に飛び掛りに、ライムストーンの階段を駆け上がっていった。
 
 「アントワン……ッ」
 「シャンクス!このクソガキっ!!」
 親子の再会のごとく、熱烈大歓迎なシーン。
 「来たよ!」
 シャンクスはアントワンの首に両腕をかけ、抱きつき。
 アントワンはむぎゅ、と力いっぱいシャンクスを抱きしめていた。
 「いたいいたいいたい、」
 「来たな!この不義理モノが!!」
 イタイのがなんだ!ガマンしろ、と。誰が聞いてもゴキゲンな声でアントワンが笑い。シャンクスもひゃあひゃあ笑っていた。
 
 アントワン・ブロゥ。セト・ブロゥの父親というだけあって、見事なプラチナブロンドが陽光に煌いていた。
 けれどその容貌は王子というよりは領主。
 がっしりと筋肉のついた、背が高めの北欧系の男性だった。
 年齢は50代後半には見えない。寧ろ40代後半ぐらいにしか。
 
 シャンクスがすい、とアントワンの目を覗き込んで、ふわんと微笑んでいた。頬にちゅ、と音を立ててキスをした後に。
 「クソガキ?おれ」
 アントワンは、すい、と方眉を引き上げ。
 「クソガキ、いい顔するようになったなあ!」
 そう応えて頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜていた。
 「じゃあ、キスしよう?」
 「なんでそうキスしたがるかね、この寂しん坊は」
 ひゃあ、と笑ったシャンクスに、アントワンは苦笑を刻んでいた。
 シャンクスはきゅう、とまた抱きついている。
 
 「好きナひととはしたいよ、」
 「そうだな。それがフツウだ」
 ごち、とアントワンがシャンクスに軽い頭突き。次いで、
 「したいって言えばさせるけど?」
 とのシャンクスのセリフにか、ぺしん、と頭を叩いていた。
 「ばっかもの!!それだとありがたみが薄れるだろうが!」
 「アントワン、おれがアナタにキスしたいのに、しようー?」
 甘ったれているシャンクスを、べり、と引き離し。
 アントワンが、ぱしん、とシャンクスの尻を叩いていた。
 「だ!!!」
 「よし!いいぞ!」
 ……有言実行タイプらしい。
 
 きらきらと笑みを浮かべたシャンクスに、けれどアントワンは指をびしい、と突きつけていた。
 「アントワン、ダイスキだってば」
 「たぁだし!オレはオマエとディープなんか死んでもゴメンだからな!」
 息子相手にしているようなもんだしな!と。大の大人が意味不明に威張っていた。
 シャンクスは、すい、と抱きつき。とんとん、とたくさんのフェザーキスを落としていた。
 「はいストップー」
 やりすぎだバカモノ、と。拳骨がシャンクスの頭に軽く落ちていった。
 「いって!まとめただけだよ」
 「纏めなきゃならんほど間を空けるなオロカモノ!!」
 「アントワンー」
 ぎゅう、とアントワンがまたシャンクスを抱き込み。
 「まったくこのクソガキは!いきなり音信普通になりやがって!」
 寂しかっただろうが、と。ぐりぐりシャンクスの頭に拳骨を埋めていた。
 「あいしてる、すげーすき、会えてウレシイ」
 
 「次からはちゃんと定期的に顔出しなさい」
 ばり、とまたシャンクスを引き離し。
 「―――うん、」
 とん、とん、とん、と額と両頬にキスを落としていた。見上げていったシャンクスに。
 幸せそうに蕩けた顔を隠すこともなく。シャンクスがまたアントワンにむぎゅう、と張り付いていた。
 シャンクスがここまで懐いているのは珍しい。
 むしろここまで他人に甘ったれているところは始めて見る。
 
 「アントワン…?」
 「なんだ?」
 仲良し親子のようでタイヘンに微笑ましいが、この日差しの下は、そろそろ勘弁してほしい。
 勝手にやっている分には構わないが、放置されるのなら帰るぞ。
 
 「どっちが、おれの、だと思う?アナタ」
 「お?おお、そうだったそうだった。悪いな、さあはいりたまえ!」
 くい、と目線を投げたシャンクスをひょい、と脇に退かし。
 アントワンがにっこりと笑っていた。
 少なくとも気難し屋、というわけではなさそうだ。
 
 「うん、いい目をしてるな!オマエはカメラマンだろう」
 黙って階段を上がり始めたリカルドに、アントワンはにっこりと頷き。
 それから、強い視線のアイスブルゥが、ひょい、とこっちを見据えてきた。
 「オマエは評論家かアナリストみたいな目をしている」
 「―――ベン・バラードです」
 ひょい、と手を差し出せば。がっし、と握られた。
 アントワンの横にくっ付いていたシャンクスが、すう、と笑みを浮かべていた。
 
 「アントワン、ケツ叩かないの?」
 「ん?叩くわけがないだろう!!」
 オヤ。
 殴られるのは覚悟していたのだがな。
 「ええええええ!」
 「1から10まで覚悟しているニンゲンのケツを叩いてどうする!責任の取り方なぞ、オマエは弁えているさなあ?」
 す、とアイスブルゥに見遣られ。
 「ええ」
 にっこりと笑ってみた。
 
 「―――覚悟?」
 きゅう、と首を傾げたシャンクスは無視するらしい。
 「それみろ!それからカメラマン!!名前は?」
 ひょい、と離れていったアントワンの手が、リカルドに向けられていた。
 「リカルド・クァスラ、です」
 「オマエが何をどう切り取っているのかが楽しみでな!!さあ奥へどうぞ、カメラが痛む、この暑さでは」
 そう言って、リカルドの背中を押していく。
 
 シャンクスが、すい、と自分の顔を指差し。
 「覚悟?」
 訊いてきた。
 返事の代わりに、頬にキスをする。
 「よかったな、大歓迎されているみたいで」
 「ん」
 とん、と背中を押してやる。
 シャンクスはく、と笑みを浮かべ。それからすぐにアントワンのあとを追いかけていった。
 「リカァルドの写真、面白いよ」
 そう屋内に語りかけながら。
 
 荷物を拾い上げようとすれば、老齢のバトラーにそれを引き取られた。
 「本日から宿泊のご予定だとお聞きしております。部屋の方に置かせていただきます」
 「ではよろしく」
 「かしこまりました」
 
 「ウィスラー!!」
 アントワンにリカルドの自慢していたシャンクスが、こちらを振り向いて、ひらひらと手を振っていた。
 ウィスラーは、く、とお辞儀をしていた。けれど、顔にはにこやかな笑み。
 「こんにちは、しばらくお邪魔します、」
 挨拶に頷いたのを確認してから、またシャンクスがアントワンとリカルドが落ち着いたリヴィングの方に向かっていった。
 
 「…しばらくお世話になります」
 頭を下げれば、ウィスラーは小さく笑みを浮かべた。
 にこやかなバトラーらしい。
 「御用がありましたら、どうぞなんなりとお申し付けください」
 ではそちらへ、と。リヴィングへと案内された。
 
 通されながらぐるりと見回せば。
 調度品は、映画で実際に使ったものを卸しているのか、ほとんどのものが豪奢なアンティークだった。
 なるほど、これならシャンクスがあの廃屋に置くアンティークの指定をいくつかしてきたのも解る。
 こういうところで目を養っていたわけだな。
 あとは可能性としては―――実家か。
 
 アントワンの隣にちゃっかりと腰掛けているシャンクスと。
 二人の向かいに座っている、まだ人見知りしている段階のリカルド。
 アントワンの強い眼差しが当てられ、リカルドの隣のシングル・ソファに腰を下ろした。
 すぐにグラスが差し出される。こちらはメイドから。
 中身は絞りたてのオレンジ・ジュースらしい。爽やかな柑橘類の香りが漂ってきた。
 
 ニュー・オーリーンズとは違う空気。
 からりとしたカリフォルニアには、久しぶりに来る。
 だからと言って―――アットホーム、ってわけにはいかないがな。
 
 
 
 
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