「生きるも生きないも、オマエ次第だ」
そうアントワンがシャンクスの頭をとてとてと撫でながら言い。それから、先ほどの“ジェイク”がシャンクスを呼びに来た。
どうやらスタッフが揃ったらしく、シャンクスは衣装直しに突入するらしい。
「前から居る仕立師のウィンスコットだ。迷惑をかけないように行って来い」
柔らかく身体を添わせていたシャンクスを、べり、と引き剥がし。アントワンが、ぺちん、とシャンクスの尻を叩いた。
その風情は、まるきり父親。
「迷惑?」
艶っぽい笑みをわざと浮かべたシャンクスに、ひょい、とアントワンが眉を跳ね上げた。
「誘惑して遊んだりなんぞしたら絶交するぞ」
……小学生の物言いと言い勝負だな。
「それって、こういうこととか……?」
さら、と肌蹴た襟元を拡げ。あろうことか、キスマークをちらりと見せていた。
「…ベン・バラード」
「イエス、ミスタ?」
「オマエか?」
「イエッサ」
「ふン。なら仕方ないな」
じろ、と視線を見据えてきたアイスブルゥが、またシャンクスに当てられた。
「いいか!あるものは仕方がない!わざとそれで遊んだりなんぞして進行遅らせたら!3日で終わる仕事が1週間かかっても
家から放り出すからな!」
ツマラナイという顔から、なに?とでも言う風にかわいらしめに首を傾げたシャンクスに、遠慮なくびしりと言い放っていた。
「おれの所為になるの……?」
「なるとも!なにかあればオマエのせいだ、トラブル・メーカ!それを日頃の行いと言う!!」
フン、とアントワンは胸を張って言い切った。
「アントワン、」
「なんだ?」
ふわあ、と微笑んだシャンクスがさらっと唇にキスしてから、機嫌よく部屋を出て行った。
アントワンは何か言いたげに口を開き。それから片手に顔を埋めて溜息を吐いた。
「ベン・バラード」
「ベンで結構です」
「アレはいっつもあんなのか?」
「ここまで機嫌がいいところは初めて見ました」
「……くっそう、色気づきやがってクソガキのハナタレのクセに」
「ショウビズの功罪かと」
「…心広いコイビトを演じてるんじゃないだろうな、オマエ」
じろ、と見られ、肩を竦めた。
「台本がない一生ものの舞台ですがね」
「ハ!物書きの台詞らしい」
す、とリカルドに視線を移したアントワンが、また溜息を吐いた。
「クソガキが迷惑をかけていないかね?」
リカルドが首を僅かに傾げた。
「迷惑をかけられるほど、長く一緒には居りません」
「だが覗いたのだろう、アレの深淵を」
「深淵は誰の中にもあるので」
「もちろんあるとも!だからといって、何をしても許されるというわけではあるまい?」
「…少なくともオレが嫌ならば離れればいいだけの話です。オレの親友はそこにいるベンなので」
リカルドの答えに、アントワンはフン、と鼻を鳴らした。
「まあオマエらはオトナだからな。アレとどうこうしたからと言って、嫌になったら別れればいいだけのことか」
「…少なくとも、オレからは離れる気はないですよ」
そう言えば。アントワン・ブロゥは、苦笑するように笑った。
「物好きだな。まあいい、そういうことは本人同士で言い合え。オレはただの他人だ」
「ただの他人は、こういう風にシャンクスの心配をしやしませんよ、ムッシュ・アントワン」
「かと言って、父親になってやれるわけでなし。何かの立場に立ってどうこうしてやったって、どうせアレはアレの道を行く」
ひら、と。キレイに掌が空を過ぎった。
「僭越ながら、今のままで十分かと」
「言われんでも解っておるわ」
ぺし、と頭を叩かれて笑った。
「…まさかコイビトがこういう“オトコ”とは思わなんだわ」
はぁ、と溜息で、アントワンが言った。
そして、す、とリカルドの写真の束から一枚取っていた。眠っているシャンクスのアップ。
「まあ、ヘタにオンナがいても扱いきれないだろうし。オマエみたいに揺るがない醒めたニンゲンのほうが似合いなのかもな」
それから、写真をリカルドに返してヒトコト。
「シャンクスは性格は難だらけだが、一応あんなでも一流だ。この距離を忘れずにな」
こくり、とリカルドが頷いた。くう、とアントワンが笑った。
「シャンクスがこれくらい素直なガキだと、もう少し優しくしてやれるんだがなあ!あのクソガキのままじゃいつまでたっても
クソガキ扱いだ!」
「本人に伝えましょうか?」
に、と口端を引き上げて訊けば。
「言うだけ無駄。止めとけ止めとけ」
ひら、と肩を竦められて笑った。さすが“オトナ”なだけある。
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