しばらくシャンクスを抱きしめてから起き出してみれば、時間は当に9時を回っており。
ボトムに黒いデニムを履いてからダイニングに向かえば、リカルドはすでに朝食を終えたみたいだった。
ヤツも日の出から起きていれば、腹も空くだろう。
備え付けの冷蔵庫を開ける気にならず、ルームサーヴィスでもたまには頼むかとシャンクスを振り返れば、ローブを引っ掛けて
すっかり幸せそうなコイビトが、フルーツでイイ、と返事を寄越した。
自分の分には、軽いブランチを頼んで、電話を切った。

「ああ、リカルドの置手紙がある」
テーブルの上、片づけていたならば、新聞の上に小さなメモが一枚。
ぱ、とシャンクスの表情が喜びを訴えていた。
ハイハイ、この字が好きなんだよな、あンたは。
「見せろ、」
眼がキラキラとしているシャンクスに差し出す。
「なんだったらキープしとけ」
内容は大したことを書いていないがな。

「旅先からのハガキ、リクエストしようかなあ」
ウキウキと弾むようにメモを見ながらシャンクスが言った。
「手紙を寄越せと頼むよりは確実そうかもな」
笑って新聞を広げた。
それを引き下ろし、シャンクスがにこおと笑っていた。
「ん?」
「オマエは呉れないよね、」
随分と機嫌がイイ。
「葉書を書くよりは電話したいからな」
「―――声が好き、」
「ハズレ。声も好き、だ」
に、と笑ってから新聞を引き上げなおした。今日もニュー・オーリーンズの天気はいいらしい。

「暑くなるって?」
訊かれて、ああ、と頷く。
「シレンだね、」
ちっともそう思っていない口調でシャンクスが言ってきた。
「脱ぐだけで快感、だな」
笑って返した。軽口。
「あのケープ、帝政ロシアだもん、あっぢー」
ふわふわと白鳥の毛玉のついたケープを思い出した。
そういえば、あれはもうしっかりとリカルドが寝床にしている方のベッドルームに一式揃ってかけられているのだろうか。
―――リカルドのことだから、抜かりは無いだろうがな。
撮影会の前にアイロンがけは勘弁願いたい。

顔を顰めていたシャンクスを見上げる。
「服はクロゼットにかかっているのか?」
「―――ん?ウン」
「ならいい」
「アントワンがね、」
新聞の斜め上からシャンクスを見遣る。
「取り扱い上の諸注意、ってヤツ。伝授してたくらいだよ、リカァルドに、」
ふにゃんとゴキゲンに笑っていた。
「この辺りにクリーニング屋じゃ手に負えないしな」
アントワンの手際の良さに感服。さすが仕事にかけては“第一級のプロフェッショナル”だ。

リンゴーン、と古めかしいチャイムが鳴り響き。シャンクスがそのまますたすたとドアを開けに行っていた。
ルームサーヴィスの配達だ。
優雅に、ルームサーヴィスです、と言っていた相手に対し、ドウモアリガトウ、と蕩けて甘い声で返していた。
「あ、いえ、あの、はい」
「ごめんね?こんな格好で」
「いえ、では失礼いたします、」
どうにか取り繕ったボーイが、ダイニングまでカートを押し入れてから去っていった。
チップはどうやら足りたみたいだ。
くくっと笑ってから新聞を脇に寄せ、テーブルの上にプレートを乗せていく。
オーダした時に、置いたら直ぐ戻ってくれて構わない、と言っておいたのがきっちりと伝わっていたみたいだ。

ベーコンエッグにトーストと珈琲。シャンクスには切ったフルーツの盛り合わせ。
「温くなる前に食うぞ」
「イタダキマス」
グラスに水を入れて、プレートの横に置いてやる。
まさかフレッシュ・ブルーツに珈琲は飲まないだろうし。

リカルドからのメッセージを思い出す。
『起きてこないようだったから先にメシ食った。買出し行ってくる』
サインもなにもない、ただのメッセージ。
あの調子なら、昼時には帰って来るのだろう。
にこっと笑ったシャンクスに語りかける。
「あんまり腹いっぱい食うと昼飯が食えなくなるからな」
「昼?」
洋ナシを一切れ食べながら聞き返された。
「撮影の前に、リカルドがしっかりと食いたがるだろうからな」
ベーコンを切り分けながら答える。
「あぁ、―――うん。そうだね、」

体力勝負ー、と節付けて言ったシャンクスに笑いかける。
「もしかしたら、晩飯、食いはぐれるかもな」
「途中でメシ休憩なんてさせるかっ、ての」
「まあ、軽く食えるよう、スープか何か作っておくさ」
くう、と唇を吊り上げたシャンクスに笑う。
「パンでも買って帰らせようか」
携帯電話をチャージャから引き上げた。
「アスパラガスの冷製スープにしてください」
にこお、と笑ったシャンクスに、アスパラ追加、と返す。
「レシピいる…?」
「生クリームとかもいるな…オレが買出しに出直せばいいか」
一応寄越せ、とシャンクスに告げる。
「あンたの好みの味のモノかどうか、自信がないからな」
「ウィ、ムシュー」
そう言って、シャンクスがにこっと笑った。




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