エンディングと、プロセスを知っている本だから、どこででも終えられる。けれど、邪魔にならない文体とイメージにかなりな
頁数を読んでいた。
「―――大概、逆上せるか…?」
すっかり温くなった水の面を、本を縁に預けてから掌で撫でた。
置かれた本の横に溶けきった氷が水に戻ってグラスとピッチャーに残り。リヴィングの方からは変わらず穏やかな気配がしていた。
これもまた金色の小さな取っ手、それを引き上げて。バスタブの栓を開いた。
「出るかな、」
最後に水でも浴びておこう。クソ暑い思いするんだし、どうせ。

シャワーブースから出て、髪と身体の濡れたままローブを引っ掛けて。
ベッドルームへ行く前に、リヴィングに声をかけた。
出たよ、って報告。
それから適当に服を着て、連中のいるリヴィングに戻る。
すい、と入ってみればスモーカが二人、煙を吐き出しながら手を上げていた。
そして、目新しいモノが幾つかと。

とん、とリカルドの頬へ朝のアイサツ。
「おはよう、オカエリ」
さっきは、出来なかったしな。
「オハヨウ、もう昼だよ」
昨夜は、沈没直前まで付き合ってくれてアリガトウ。
言葉に出さずに付け足せば、リカルドがそんなことを言って笑ってた。
「水が好きなんだよ」
雨でもバスでもね。

「今度アリゾナにいけ。運がよければ土砂降りの雨に見舞われる。アレはキモチイイ」
あぁ、それは楽しいだろうなァ。
「天然の土砂降り。いいねェ」
考えるだけでわくわくする。
「シャンクスも踊る?」
「―――んん?」
わらってるリカルドの顔を思わず覗き込んだ。
「雨の中で、感謝の舞いを」
笑う。
「リチュアル?」
「それもいいね」
力強く手をひらりとさせて。感謝の表現として躍るだけでもいいけど、とにこお、と。リカルドはジョウトウな笑みを浮かべていた。
「躍るのは好きだったけど、それは得意分野じゃないかもな、」
すい、と目線をベンに投げた。
「な?」
「ああ」
「ね、ああいう意見だ」
リカルドにまた目線を戻した。
「ふぅん、」
そして、また目を細めてタバコを吸っていた。赤いパッケージ。

「リカァルド、質問」
すい、とクラシックなイスを引き寄せて座る。
「なに?」
すい、と指先でハナサキあたりを示す、自分の。
「カオ。ベースくらい弄る?」
だったら買ってこないと無いヨ、と。
「買ってきた」
「うわ?」
「色あわせしてなかったから、適当にいくつか」
手際がいいねェ!
「ショウ・ガールのメイクを、昔から時々やらされてきたからキソはできてるよ」
「あーあ、ヴェガス」
ちらりと聞いた昔話の断片を思い出す。
「アルトゥロの幼馴染のメイクとかもね」

「じゃあ、リカァルドこれって結構大事なんだけど、」
メイクする側の人間との相性。
「ちょい、オマエ。カオ触って、」
「ん。あ、指煙草臭いよ?」
「う」
洗ってこようか?と半ば立ち上がりかけてる様子に頷く。
「そうしてくれるとアリガタイ」
「ん」
煙草を揉み消してからバスへと長い歩幅で向かって。
ベンにまた目線を戻した。
「リカァルドの手が肌に合わないハズ無いけどネ、一応」
「何事も確認はするべきだな」
「オマエの手とどっちがイイかな」
に、と唇を吊り上げて。
「確認してみろ、」
煙草を吹かしながらコイビトは.笑っていた。
「おー、余裕」
茶化して。リカルドの戻ってくる気配に眼をまた戻した。




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