「さすが慣れてるな」
シャンクスの“顔”を見ての感想。
「フォトジェニック」
実物も整っているが、カメラ映えする顔だと思う。
モダン・チャイニーズ風に、鮮やかな朱色のアイシャドウと、黒く縁の塗られたアイライン。
黒いマスカラの乗った睫はぴしりと伸び、頬に乗るチークもまた鮮やかな朱だった。アイシャドウよりはピンク寄りの。
す、とシャンクスが眉を跳ね上げていた。
「髪黒く染めて、眉も黒くしたら。人種分けできなくなりそうだ」
「眼はカラコン、って?」
くぅ、と唇を吊り上げたシャンクスに首を振る。
「隠すことはない、瞳の翠が強調されて、それこそ邪眼か魔性の眼のイメージだろ」
リカルドが、小さく笑った。
「背景に何色を持ってくるかでも、また印象が変わってくるな」
さすがフォトグラファ、言うことが違うな。
くいくい、と指でシャンクスに呼ばれ、顔を近づけた。
テーブル越しに。トン、と唇に軽くキスをされた。久しぶりの口紅の味だ。
「キレイだよ、」
双方に宛てた褒め言葉。
「追求のし甲斐のある遊びだった。けどゴメン、シャンクス。髪を洗ってもらわないといけない」
リカルドが、とん、とシャンクスの頬に口付けていた。
リカルドのキスに、シャンクスがにこ、と笑った。
「いますぐじゃないだろ、構わないよ」
「ん。ひとまずランチ食べないとな」
「晩は一応作る。今は材料が冷蔵庫に足りないから、ルームサーヴィスか、デリバリィかだな」
リカルドの言葉を受けて立ち上がる。
「シャンクス、その顔も撮っておいてもらうのか?」
いい思い出になるんじゃないか?
笑いながら言えば。
「お。じゃあ着替えてきてやろう。黒かなんか。遊びのついで」
に、と笑って立ち上がっていた。
「ファーストフードよりルームサーヴィスの方がいい」
これはリカルドからのリプライ。
「適当にオーダしておくから、着替えたら記録の写真撮影しちまえ」
親友の腕を軽く突く。
「あ、だったらシャンクス。ライティングのテストも兼ねていいかな?」
ファンデーションの色は変えないから、というのがリカルドの理由だった。
「ん?あたりまえ」
すい、と目許で笑って、ベッドルームへとシャンクスが歩いていく。
「着替え終わったら呼んでくれな。カメラの用意してるから」
リカルドの声がその背中を追いかける。
「戻らなくていい?」
「ベッドルームがメインで撮るから、呼ぶだけでイイ」
シャンクスの返事にリカルドが返した。
シャンクスのリプライは。
「ハオ」
好。気分はもう、チャイニーズか?
「ベン、」
「ん?」
リカルドを見遣る。
「オレ、牛肉食いたい」
「ステーキでも?」
「ん」
メニュウに乗ってたっけか?まあいい、作らせちまえ。
「あとさ」
「なんだ?」
「ん―――キレイだよな」
至極真面目な顔をしてリカルドが言っていた。
「そうだな」
ほかに返しようがないので、そう返す。
「でもああいうモデル顔って、幸せそうには見えないよな」
「口角の問題かもな。目尻に皺とか、いろいろ気を使うだろ、モデルはフツウ」
「…笑ってる顔って威嚇してるのと同じだっていうけど、オレはそっちの方が好きだね」
リカルドのコメントに、小さく笑う。
「大口開けて笑うと、動物の筋肉の運動と比較するとそういう結論に達するらしいな」
表情筋の発達、ヒトだからこその進化。
「…あんまり作りこむのは、好きじゃない」
リカルドが、そういい残してカメラの用意をしにサブ・ベッドルームに戻っていった。
いつでもいいよ、とベッドルームからシャンクスの声が聞こえたので、顔を出してみる。
黒い、たら、としたシルクのシャツを、黒いボトムスに合わせて着ていた。
スツールに座って。
「ヒスイでも持ってくるんだったな」
そう言って、に、と笑ったシャンクスに肩を竦める。
「オレなら金だけだな。あンたの眼の翠を最大に生かしたい」
宝石よりキレイな翠。そこに生きて表情が宿るからこそ、の。
死んでしまえば眼は濁る。
それなら最初から宝石でギミックを作るほうがよほどマシだ。
ふわ、と笑ったシャンクスの表情が、僅かに和らぎ艶を帯びた。
メイクのマジック。
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