「―――メシ食ったら、髪洗ってやるよ」
申し出。
なんでだろうな、あンたを甘やかしたい気分だ。
「謝々、大兄」
「乾かしたら、着付けも手伝ってやる。それが終わったら、オレは買い物に出かける。オーライ?」
「アリガトウ、―――でもさ?」
「ん?」
す、と首を傾けたシャンクスの頬を指先で辿る。
「見とかないんだ…?」
翠が、すう、と細められた。
「練習台とはいえ、真剣勝負らしいからな」
笑いかける。
なんだよ、あンた、寂しくはないだろう?
「―――ウン?」
「芸術的な絵を狙うらしい」
だからこその衣装なんだと言っていた、と続ける。
「気は散らさない方がイイ、と」
ワザとなんだろう、元プロフェッショナルな俳優であるシャンクスが、たかだかギャラリィが一人いたくらいで気が散るワケがない。
す、と乗った微笑みが、挑戦的だった。
「どんな手法でリカルドが撮るか知らないが。最初の方は密度が高ければ高いほど、ノりやすいだろ、」
一対一でインタビュウしているのと同じだ。
「少なくともオレが仕事をしているときは、相手にそういう気遣いをする。それだけのことだ」
だからあンたやリカルドにも、自分のポリシーを通すだけのこと。
「オマエの、」
一瞬シャンクスが真面目な表情を浮かべた。
「そういうところは好ましい、」
けれどそれは直ぐに解け。
「なぁ?ルージュ、ちょっと崩せ…?」
挑発的な笑みが、シャンクスの口許に浮かんだ。
「ちょっと、の自信はないぞ。あンた、キレイだからな」
笑ってシャンクスの顎を引き上げた。
「それでも構わないか?」
に、と笑う。
翠がキラキラと光っていた。眼下。
いいよ、と甘い声が耳に届き、顎に手を添えたまま唇を重ねた。
啄ばんで、きつく食んでから、舌先を潜りこませて、深い口付けに変える。
何度もアングルを変えて、深く貪る。
きし、とスツールが小さく音を立て、笑った。
シャンクスの吐息が、ふわ、と甘かった。
く、と差し込んだ舌を吸い上げられて、絡める。
遊びの延長のままの軽さで、煽るように深いソレ。
飢えがあンたの中に根付いて、キレイな顔に生が満ちているように。
口付けを解いてから、軽く上唇を食んだ。
放して、ぺろりと唇を舌先で辿る。
「―――ぅ、ん」
「鏡見るなよ」
いつの間にかシャツに縋ってきていたシャンクスの指先が、ぴく、と動いた。
「写真が出来上がってからの楽しみにとっておけ」
さらっと頬を撫で、最後に軽い口付け。
「―――オマエのセンスをしんじるよ、」
くくっとシャンクスが笑った。
「センスが悪いと言われたことは、まだないな」
肩を竦め、コイビトから離れる。
すい、とシャンクスが眼を伏せ。背後にはリカルドの気配。
「待たせた、」
親友に笑いかけて、入れ替え。
「食ったなオマエ」
通り過ぎざま、軽く睨まれた。
す、とシャンクスの口許が、微笑を浮かべていたのが横目に見れ取れた。
「愛している相手だからな、」
言えば、リカルドが肩を竦めた。
「そういうセリフ、口紅が付いているオマエに言われるのもなんだかな」
「ハハ!」
それも一理あるな!
笑えば、リカルドがくう、と笑っていた。
「シャンクス、ランチはヌードルか、やっぱり?」
訊けば、シャンクスはにぃっと笑って首を横に振り。
「ディム・サムでも?」
と言って、それから笑った。点心がメニュウにないのを承知でのセリフだろう。
「隣の国のスシでも?」
笑って訊きなおす。これもメニュウにはないが、デリバリィは早い。
「う、あまりお勧めできない」
「シャンクスは嫌いなんだ?オレ、かなり好き」
リカルドが、くう、と笑った。
「食うなら外でにしよ、」
そうにっこりと笑って返していた。それは真理だ。
「じゃあ何食う?オレ、ステーキだけど」
リカルドが笑って、ライトをスタンドバイさせていた。カーテンを引いて。
「お、感心!――――そうだなぁ、あ。」
すい、と視線が合わされた。
「ターキーブレスト、コールドミートでいい、」
にこお、とシャンクスが笑みを浮かべた。
「サラダは?」
「適当に、オネガイシマス」
「了解」
ひらりと手を振った。
「オーダ承りました。それではごゆっくり」
「リカァルド、ポジションは?」
すい、と立っていたシャンクスと、指示を出し始めたリカルドに背を向けて、ダイニングに戻る。
ルームサーヴィスをオーダしてから、口紅を落としに洗面台まで行く。
鏡に映った自分に笑った。べったりと鮮やかな朱。
似合わなさ過ぎる。
戻ってから煙草に火を点けた。ランチの前の一服。
ついでだ、朝食の時に運び込まれたワゴンを廊下に出しておく。
長い一日になりそうな予感が湧いてきて、笑った。
―――上等。
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