Juego


要は、ライティングの強さであるとか、メイク後の光の跳ね具合であるとか。そういったポイントを確かめながらのシャシン撮りだった。
軽く言葉を交わして。
空間の切り取り方、というよりは。もっとディテール、例えばカオのアングルは細かく変えたし。
陰影のチェック、夕方から撮リ始めるって言ってたくらいだ。
ズレタ朱がちょっと邪魔だったのか、指先で軽く拭われてわらった。
「―――ん?邪魔だった…?」「ん」
にこ、と笑み。キレイに指先を拭ってからまたシャッターの音をさせていた。
ちょうどフィルムが巻き上がった頃に、リヴィングからヒトの気配がした。

「ランチ、用意できたみたいだね」
ああ、そこへ置いておいてくれて構わない、と。
ベンの声が聞こえた。
「ん。腹減った、」
「たぁくさん食べろよぉ?真剣勝負」
に、と笑いかける。
「ん、シャンクスもな」
オツカレサマ、と。頭をとす、と撫でられた。
「キスしてもオーケイ?」
僅かに見上げる。
「いいけど、軽くな」
「喜ぶべきか、憤るべきか」
「見たくないか?」
とん、と。啄ばんでから軽く唇を食んだ。
カメラを擡げかけるのを半ば妨害して。

ぺろ、と唇を少しだけ舐めてから。唇を浮かせた。
「ナァマイキ、上の空」
間近で微笑んでから、離れた。
「ゴチソウ様でした、」
「ん」
「先に現像かけて来ちゃうんだ?」
「食べる前にかけておけば、食べた後が見頃だろ?」
また、とす、と頭を撫でてきたリカルドはそのまま、そんなことを言いながら部屋を戻していた。
「オーケイ、ベンにはそう言ってくる」
「ん、」
「早クナ?寂しいから」
よろしく、と言う代わりに返された短い音に返答すれば。
「ハハ!」
フォトグラファは機嫌良く笑った。

それから、メイクのリム―バーはバスに置いてある、といわれて。
軽く落としてからリヴィングを覗けば、いくらオーダーとはいえこの客室係りは、生真面目なのかダイニングのテーブルにクロスを
引きなおして、セッティングまではせめてジブンが遣るつもりでいるらしかった。
ヴァ―ミリオンの連中って、たまに頑固だもんなぁ、サーヴィスに関しては。譲らない線、って持ってる。

「ハラ減った、」
傍にいたコイビトの背にとん、と拳で触れた。
「すぐに終わる」
楽しかったか?と訊かれて。
「カオでわからない?」
ひょい、と後ろから回り込んだ。
「イイ顔」
「ルージュ、修正されちゃったヨ」
「まあなあ」
笑い顔。―――妙にうれしくなる。

ぎくしゃくっとした動きに変わった「プロ」に。
ありがとう、と一言。
「もうジブンでできるよ、ごくろうさま」
ますます堅い動きになったか?あらら。
コイビトからチップを手渡される。おれが渡すのな、了解。
ずしり、と手に重いカトラリーとグラスをぴし、とセッティングし終えて、なんとなくほっとした風な「カレ」に近付き。
「終わったら、廊下に出しておくね、」
サーヴィスの笑みと一緒に手渡す。
「我侭聞いてくれてアリガト」

俯き具合にそれでも一礼、あとは一目散、って具合に。エレガントなサーヴィスが身上の「彼ら」にしてはかなり珍しい。
ぱた、とドアが閉じて。コイビトを振り向いた。
「なにも逃げ出さなくてもなァ…?」
笑って。
コイビトは軽く肩を竦めて。
「あンた美味そうだからナ、」
と、笑った。軽く、羽根並みの重さで表情に乗せられる。
「トップフロアは要注意、ってお達し出るな。もうとっくに、かもだけど」
に、と笑みで返して。テーブルについた。
「連中のネットワーク全体に知れ渡ってると思うぜ」
「あらま。おれ問題児なのバレテっかな」
けら、とわらった。ホテルサーヴィスのネットワークは強いからね。

「前にも泊まったなら記録は残っているだろう」
「いまの滞在の方がタノシイけどね」
「前の方が良かったなんて言ったら、今から帰るぞ」
機嫌の良いコイビトがまた笑い。
リカルドもサブのベッドルームから出てきて。ランチが始まった。ふわ、と。全員が機嫌良いまま。―――ん?そういえば。
ここ何日か、不機嫌に食事したことゼロだ、いいね。些細だけど、大事なこと。




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