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 ランチを終えて、テーブルを片付け。
 腹ごなしに珈琲を飲みながら、リカルドが撮っていた写真を見ることにした。
 「こっち、アントワンの庭。こっち、ビーチサイド。ビーチはほとんど暗くて良くなかった」
 束を渡して寄越しながら、リカルドが言った。さらに続けられる。
 「だからレンズを買い直したんだ」
 ああ、なるほどな。
 「ファーニチャの写真がこっちな。試し撮りの方。今からさっきシャンクスを撮ったのを取ってくる」
 「了解」
 
 束を全部寄越してから、リカルドが立ち上がってサブ・ベッドルームに消えて行った。
 シャンクスはアントワンの庭の写真に手を伸ばしていた。
 ビーチの方の写真に手を伸ばす。
 ああ、暗闇だな、ほぼ。
 煙草を咥え、ライターを取る為に見上げれば、シャンクスがうっすらと笑みを乗せていた。
 再会しちまえば、好意が迸っているらしい。
 リカルドがアントワンに興味を示していた時に浮かべていた表情より、数倍柔らかい。
 無意識にか、連絡を取らずにずっと居たことを後悔していたのかもしれない。
 よかったな。素のままのあンたをそのまま好きでいてくれて。
 “When there's someone who offers you goodwill simply for being who you
      are, then you figure out that the world wasn't
 a bad place after all.”
 “掛け値なしで好意を寄せてくれる人がいた時に思う、世界はそんなに悪い場所じゃなかった、と。―Ricardo Quasula。”
 本を出す時に、トップページに書いていそうだな。
 
 化粧を落としてすっきりと素顔を晒しているシャンクスから目線を落とし。ほぼ暗闇に近いビーチの写真を見る。
 数枚捲ったところで、「ほら、」とシャンクスの声がした。
 見上げれば、一枚差し出されていた。
 「ん?」
 受け取ってから、見る。
 芝の上の白いガーデン・テーブルとチェア。
 左手に薔薇の花壇。右手、遠くには総ガラスの温室。
 空には青空、バランスがいい場所にある雲。
 手入れされた庭の絵。けれど無人のはずのチェアには誰かがいるような気配。
 暖かで長閑な空間。
 リカルドの目線。
 「オレが見たらただの“庭”だったのにな」
 笑ってその写真をシャンクスに返す。
 「リカァルド、だね」
 「だな」
 にっこりと笑ったシャンクスに頷く。
 
 暗闇に眼を戻す。
 レンズの問題だな、コレは。月を撮っているが、遠すぎる。
 その後に続く写真は、照らされたサイドウォークの側のパームツリーで。
 偶然一緒に切り取られたらしいビジンより、そのパームツリーのほうが“ビジン”に見えた。
 次いで、照らされた砂浜に残った足跡。リカルドとオレのソレ。
 笑う。そんなものまで“良く”見える不思議。
 後は通ったダウンタウンの街並みが在った。初めて行った街に対する警戒と、好意とが透けて見える。
 
 同じような写真でも、いくつかは格別に眼を引く。
 配置のバランス、明るさのバランス。
 それを捕らえられる親友というのは、やはりタダモノじゃないと確信する。
 オマエの親友であることを誇りに思うよ、リカルド・クァスラ。
 空を飛ぶ術を手に入れられてよかったな。
 
 
 
 
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