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 見慣れた、アントワンの家の庭。
 ―――そういえば、リカルドは一日中シャシンを撮っていた、と聞いていた気もする。
 あの家はタダ広いだけじゃなくて、庭も相当「芸術家」が力を入れてる、らしい。
 ゆっくりまわると半日、だっけ?アントワンが自慢してたっけな。
 『アントワン、庭は定年後のタノシミなんじゃ…?』
 『ばっかもの!!定年まで放っておけるか!!』
 ごちん、と例によって拳固。
 そんな遣り取りを随分前にしたよなァ。
 『生涯現役を目指しているからな!!』
 そして、威張ってて。かーわいいなぁ、と。大の大人を捕まえてガキが本気で感心してたんだ。永遠のカタオモイ。
 
 そんな、『庭』を。
 リカルドは時間をかけて楽しんで撮っていたらしい。
 焼き付けられた景色から伝わってくる。リカルド「らしさ」だとか、
 いかにも、庭園雑誌の巻頭グラビア風に撮ってみたもの、であるとか。
 葉に落ちた光で遊んでみたり、レンズを換えてうきうきとしていたりするシャシン。
 中でも、一番「らしい」と思えるものを、ベンに一枚差し出した。
 そのときの、コイビトのカオはミモノだった。
 好ましいものを見るときだけにするほんの少しの表情の変化。
 ナイフで削るより薄く、このオトコ独特のガードが薄らぐ。
 それは例えば眼差しが少しだけ穏やかであったり、感情に任せて起こった表情を僅かに乗せてみたりであるとか。
 圧倒的な好意と信頼。
 そういったモノを間近で見ていた。
 
 リカルドらしいね、と言えば。
 ほんの少しだけ、咥え煙草でも口端が上がっていたのがわかった。
 それからまたそれぞれに見ているものへ戻って行き。
 リカルドはずっとカメラ片手に、庭にいたんだなと光の変化で知ってわらっちまった。
 アントワンもご機嫌だろうな、そうと知ったら。
 
 あ、これ。
 「ベン、」
 もう一枚を差し出した。
 「ん?」
 でかい木、フォーカルポイントにはクレタから出土された半分崩れた古いツボ。
 すい、と見上げ。それから手にとっていたコイビトに言った。
 「この木の傍でね、寝るといい夢がみられる」
 ほんとうの話。
 リカァルド、眼の付け所が流石だね?
 「ふン、先に教わっておくべきだったな」
 そう言って笑うコイビトに笑みで返した。
 「つぎ、そうすればいいじゃないか?」
 
 
 
 
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