時折言葉を交わしながら、写真を見ていく。
リカルドも戻ってきて、手の中にはまた写真の束。
空のベッドの写真には笑った。
ライティングを変えて、アングルも変えて何ショットも。
その時になってみなければ解らないとはいえ……面白い。陰影が表情を形作っているのがよく解る。

それから、先ほどシャンクスを撮っていた写真。
ファッション・グラビア風。
何かジョークを言ったのか、シャンクスが僅かに目線を和らげて笑っている顔。
ファンデーションの光の跳ね返し具合を調べていたのか、顔のアングルをいくつも変えた顔。
ずれた口紅を拭われて、僅かに艶を帯びたシャンクスの顔。
リカルドの写真が、どんな場合でも温かいのは。そこにあるのが純粋に好意であって、情欲が混じる場所が無いからなのだろう。
そのままを包み込むように撮られていく写真。
キゲンがよかったシャンクスがそのままに、その中には切り取られていた。
ゴキゲン猫。
フォトジェニックな自分で遊んでいる顔もいくつか在った。
端整であることを証明するかのように。

シャンクスが、ハント途中の猫の如く、翠を煌かせている写真もあった。
虹彩に取り込まれたたくさんの光り。
オレや、多分“フツウ”の人間から見ればそれは。十分に“誘う”目線なのだろうとは理解できるが。
―――イタズラ猫にしかシャンクスを見せないというのも、ものすごい才能なのかもしれない。

写真をシャンクスが持っていた庭のものと取り替えた。
こちらは、庭を愛している庭師やアントワンが喜びそうなモノが多数。
風景画の見本になりそうなモノから、レンズの限界を試したものも混じっており。
「家主に送ってみろ。喜ぶと思うぞ」
写真を返しながら、リカルドに言った。

シャンクスはタイクツして、先ほどからおれの背中によりかかったきりだ。
ちらりと自分の“誘い顔”が別物に変身しているのを目に留め、くすんと笑っていた。
「色っぽいカオはメイクで作れるのに、そうは撮らないところがリカルドだよなぁ、」
コメントが寄越される。
「欲しい絵が違うから」
そう言って、写真を片づけていたリカルドが、僅かに笑った。
「欲しいと思えば撮れる?」
そう言ったシャンクスに、リカルドはただ肩を竦めた。
「欲しいと思わないからわからない」
「ただ愛でるんだよな、オマエは」
リカルドのセリフに説明を追加。

「美しいものは愛でるだけではダメだ、使いなさい!!ってアントワン、言ってたよ」
「この世界を愛せると思った。だから、オレは愛してるんだ」
すい、と微笑みを乗せたシャンクスに、リカルドがにこ、と笑った。
「そっか」
にこお、と甘く蕩けた笑みを浮かべたシャンクスに、リカルドがトーンを変えて言う。
「腕立てはしても、地球とはシない」
にやり、と悪ガキの笑み。Fワードを抜かすあたりが、リカルドのポリシー。
に、とシャンクスも笑う。
「ん、止しとき」
アタリマエのセリフを吐いていた。ハ!!

笑って時計を見遣れば、2時を過ぎていた。
「シャンクス、そろそろ支度するか?」
バスルームを指し示す。
「何時、」
「2時7分37秒」
寄りかかったまま訊いてきたシャンクスに答える。
「んー、だね」
「もう一度入りなおしたくなければ、バスローブに着替えてこい」
「はぁい、はい」
すう、とシャンクスの体温が遠のき、バスルームの方に向かっていた。

「入れてやるのか、」
リカルドが笑う。
「甘やかしてるだろう、」
に、と返す。
「いいんじゃないか?」
リカルドが、口端を引き上げた。
「恋愛中ってカンジがする」
「ハハ!猫のシャンプーと同じかもしれんぞ?」
「好意がなけりゃできないだろう?」
がつ、と腕をリカルドに打たれて笑った。
「オレの“最愛”だからな」

「痕は付けてくれるなよ、」
「リクエスト?」
「No, es una orden.」
命令だ、と返されてさらに笑った。
「Si, senor. Entiendo bien. 」
よく解りました、ミスター。そうリカルドに言っている最中に、バスルームから、ベーン、と呼ばれた。
「着付けはどこで?」
「メイク先。こっちに持ってきておく」
「了解、」
煙草を揉み消して、立ち上がる。
「唇が充血するからキスもするなよ」
「ハハハッ!!」

了解、と手を上げてバスルームに向かう。
「キスは禁止だとよ」
中で待っているシャンクスに笑って告げた。
「うわ、」
「カメラマンの命令だ」
シャンクスも笑って返してきた。
「リカァルドのオーダならシカタナイ」
中に入れば、ふわりと笑ってゴキゲンなシャンクスが居て。
「リカルドには素直なんだな、とアントワンが溜息吐きそうだな」
そう言って笑った。




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