シャトーパルメ、マルゴーの赤のなかで適度に美味いヤツがちょうど軽い夜食にはうってつけで、おまけに面白い年が
あった。大事な人間の生まれ年。それを一本空け終わるころ、向かい側の位置でエネルギー切れ寸前だったセトが完全に
生き返っていた。
判りやすい、実に。
きらきらと蒼が光を映しこんで、纏う雰囲気がほわりと温まる。

「よく召し上がりました、」
「ゴチソウサマでした」
そう告げてシルヴァのカヴァをプレートにまた被せた。
「これ、ここに置いてていいかな、もうちょっとヒト呼びたくねェし」
にっこりと笑いかけてみる。
「もちろん。オレもオマエ以外は見たくない」
にぃ、と唇が吊り上がる。ううん、キレイな猫だね、セト。

から、と氷を薄いグラスに落とし、水を注いでからセトに渡す。
「セト、」
「なぁん?」
「質問」
グラスを受け取った指をそっと撫でた。
「―――ん?」
「聞いてもいいかな」
「モチロン、」
優しく漏らされる声に、また感情が揺れる。

目をあわせてから、口に出した。何時訊こうか、と思っていたソレ。
「なぜ受け入れてくれたんだ?」
「―――んんん、」
甘やかな声のまま、少し困ったように笑っていた。そして、上げられた視線がまっすぐにあわせられる。
「オマエの想いに応えてみたくなったんだよ、」
「なぜ?」
「んん?なぜなんだろうなぁ?」
目をあわせたまま微笑んだ。セトが、オモシロソウに喉奥で小さく笑い声を立て、その様が気に入ったから。

「気付いたら、オマエのアイジョウがいっぱい、オレの中にあるのに気付いたから、かな?」
「ふうん?」
「あのな?」
アイスブルーがじぃっと見つめてきた。
腕を伸ばし、その頬にわずかに触れた。
「うん?」
「オレはこんな見てくれだろ?身勝手な思いを寄越されるのには、実は結構慣れてるンだよ。小さい頃から」

いいものも、悪いものも、よこしまなものも、と続けて。静かに笑っていた。そっと指で頬のラインを愛でた。
続きを促すように。
「押し付けがましく寄越されるものには、ウンザリしてる。オトコからも、オンナからも」
「だろうね、」
「ケド、」
頬を撫でていた指を、セトの手が触れていった。
「オマエの寄越す想いは。静かにオレん中満たしてて。……気付いたら、無視できなくなってたンだよ」
「ふうん、そっか」
ふわん、と笑みが零された。
「じゃあさ、」
「うん?」
目元で笑みを返し、言葉に乗せた。
「おれのなにがあンたは好き?」



甘く目を細めたオトコの質問に、また小さく笑った。
ここまでダイレクトに訊かれたのは、小学校以来かな?
マイッタネ。愛しさ倍増。
「忍耐強さ、優しさ、穏やかさ」
頬に触れてくる指に口付ける。
「そんでもって、中で渦巻いてる激しさ」
見えてないわけじゃないんだぞ?と笑いかける。
「T.P.Oを使い分けるトコもスキだし、己を知ってるトコもスキだね」
くっと唇を吊り上げたコーザに、目を細めた。
「ふん、」

「甘やかしてくれるトコも。甘やかされてくれるトコも。甘えてくれるトコも、スキだな」
指先のエナメルをぺろりと舐める。
じ、とキャッツアイが目を見詰めて。にぃ、と口の端を吊り上げていった。
「コーザ、オマエさ?」
目がなに?と言っていた。
「すげェセーヴしてアイジョウ寄越してくれただろ」
甘く、優しく、穏やかな愛情。
「どうしてそう思う?」
酷く優しい声に、にぃ、と笑ってみせる。
「ただの友情関係でよければ、オマエ、もっと身勝手になれただろ?」
「まぁね、あと、どうでもいい身体関連な」
にっこりと爽やかな笑顔に笑う。
「すげェ質のいい愛情に浸されて、オレの恋心ってヤツ、起きたんだよ」
恋愛事は面倒だから、眠らせておいた恋心。
「気付いたらオレの中で、オマエを愛する仕度が整ってた」
I was ready to love you from the moment I realized your love to me.

「そっか。じゃあおれはあと――――」
「ンー?」
「こういう風に生んでくれたDNAに感謝しよう、」
コーザがそう言って、にっこりと笑った。
「そうだな。ケドさ」
オトコの掌に口付ける。
「ん?」
「そういう風に自分の中身を整えたのは、オマエの努力の結果」
さわ、と頬を包まれて微笑む。
「あー、けっこう報われねェ恋心ばっかりだったからねェ」
目が笑っているオトコに、肩を竦めた。
「オレは、オマエを裏切らないよ、コーザ」
オマエの寄越したアイジョウの深さのまま、オマエを愛するよ。
「セート、」
「アイシテル、って言ってもいいか?」
なぁ、コーザ?
今の気持ち、他に言いようがないんだぞ。

くい、と身体を引かれ、テーブル越し、口付けられる。
かちゃん、と鳴った食器の音が、耳に心地良い。
「あぁ、言ってくれよ」
「愛してるよ、コーザ」
手を伸ばし、頬に添える。
「オマエの愛情に、応えたいんだ」

ふわふわと。
シアワセだ、という空気が満ちる。
心の中から染み出す感情が、空間を彩っていく。
「コーザ、」
唇を合わせる。
「セト、」
柔らかく音にされる自分の名前。
名前を呼ばれただけでも、シアワセになる。
こんな愛情に、応えないなら相当な朴念仁だ。

そうっと啄まれて、また笑った。
「なぁ、セト…?」
囁きに落とされた、甘い甘えた声。
「フロ、後にしねェ…?」
くう、と頭の後ろを両手で引き寄せられた。
「…相当ドロドロだから、オマエにはキレイな状態で味あわせたかったんだけどな」
引き寄せられながら、ささやきで返す。
額、合わされて、笑う。
「あンた次第。それがいやなら、待つよ?」

「…一緒に入るか?」
優しく甘やかす声に、身体が一部溶け出していくのが解る。
「異存あるわけねぇし、」
「じゃ、行こう、」
力強く、抱きしめられた。
「あと10秒、」
「いいよ、」
抱きしめ返して、深い息を吐く。
オマエの愛情は、なんてやさしいんだろうなァ。

「愛してるよ」
「もっといっぱい、愛してくれ」
秘めた激しさも、受け止めるから。
「あぁ、」


さらり、とどこまでも柔らかな手触りを指に絡め、蒼を覗き込んだ。ゆらり、と光を乗せるアイスブルー。
その目元に唇で触れる。
どうしたい?と眼差しが問い掛けてくるのを見つめながら、腕を僅かに緩める。
「ん?」
自分でも、勝手に笑みが少しばかり浮かんでいるのが判る。
「風呂、一緒に浸かるか、シャワーだけにするか」
問い掛けてくるセトを抱き上げてみる。
「そうだなぁ、」
思考するポーズ。

柔らかく身体を預けられ、バスル―ムへ向かいながら言葉にする。
「オタノシミは後に取っておくかな」
どう?と目を覗き込む。
「今夜から、オマエがオレの操縦者だし?任せる」
同じように面白がるような光を認めて、またすこしばかり笑いの欠片が乗る。
コドモじみた素直さで口付けられ。
だァからかわいいって、あンた。
何百回目だかわからない毎度の感慨。

パウダールームのカウンタートップにとさり、とセトをひとまず預け。目を覗き込む。
あぁもう、ここで剥いちまうぞまったく。
「Then, fasten your seatbelt, Sir」
口付けた。




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