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 「スキだよ、」と。
 柔らかく注ぐ温かな水よりも一層穏かに、それでも煽情的に温まった空気を静かに揺らして言葉が降りてきた。
 やわらかく肌に押しあてていた唇、その下に感じる、「セト」を容づくるものすべてに歯を立てたくなる衝動。
 煽られる、って。
 
 「セト、」
 「ン…?」
 僅かに肌から唇を浮かせ、見遣る。
 ゆらり、と。溶け出しそうに甘い艶を佩いた眼差しとぶつかる。
 く、とわずかに歯をあてる。
 「んン、」
 きくり、と身体が跳ね上がりかけるのに一層渇く。
 「やーばい、あンた好み過ぎ」
 冗談めかさなけりゃ、やってらんねぇよ。
 「んぅ、」
 すこし笑う声に。くぅ、とまた肌に埋める。
 「ふ、っ、」
 
 手で辿る容、骨、それをとりまく細密に調整され尽くした神経と筋肉、滑らかに覆う皮フ。
 零れ落ちる吐息が熱を孕み、空気を一層潤ったものにしていくのを感じながら引き上げさせた脚の奥にまで舌を這わせる。
 「ん、あ…ッ、」
 甘く零れ続ける声と、それでもびく、と震えが走る身体に。そしてなによりその中に宿るモノに心底ほれ込んじまってるん
 だな、と。ジブンのなかに在る想いを確かめて、妙な具合に心臓の裏側あたりが温かくなった。
 溶かしてから、端整込めて。頂かせていただきます。
 脳の片隅で茶化す、さもなけりゃここで流されちまうって―――?
 押し上げるようにそれでも少しばかり動かしちまったけど。悪い、あンたの声ヨスギルし。
 負けました。
 
 「ぁ、うンっ、」
 背中、セトの上体が折って重ねられて。ひろがるその熱さに吐息だけでわらう。
 ああ、ほら。また、あンた煽るし。
 「コォザ、」
 膝裏を押し上げさせて。
 震える声にまた僅かに奥を拡げさせ舌先で辿る。
 「ん、あ、あっ、」
 零れ始めた蜜を昂ぶりに塗り拡げ。掌で確かめながら。
 くっと背に、指先が突き立てられるのを感じ。同じリズムでびくりと跳ねた熱を握りこむ。
 「コ、…ザ、」
 やばい、って。ウン。頤をわざと上向けて閉ざされた場所を何度も濡らし、甘い声に誘われるまま。零れる蜜を吸い上げた。
 
 
 
 「く、らくら、スル…ッ」
 どうにかコトバを音にした。
 熱いばかりの快楽が内に目覚め。
 グルグルと出口を求めて、洪水のように溢れていく。
 
 深く含まれると、安堵する。
 知った快楽、だからだろうか?
 奥に触れられると、慣れない快楽に、腰が引ける。
 指先がイタズラするように撫でていくのを、意識しすぎているせいか酷く敏感な襞が必要以上に鋭利な快楽を湧き上がらせる。
 舌で追い上げられ始めて、オトコの背中に熱い息を零す。
 「は、あ、ああッ、」
 
 素直に追い上げられていく、自分でもおかしいくらいに。
 遠慮無く貪られて、何度も息を呑む。
 いくら足を上げ慣れているとはいえ、快楽に揺れる片足で体重の殆んどを支えるには少し辛くなってきた。
 浅く含まれ、先端を尖らせた舌先が押し開いていくのを感じる。
 びくり、と腰が揺れて、思わず零した蜜を吸い上げられていく。
 
 「こぉ、ざ、」
 舌ったらずな発音。
 ぎゅう、と指先を背中に突きたてる。
 くい、と片腕を引かれて、体重を預けさせられた。
 からかうように、歯の先が敏感になったモノを掠めていく。
 「あ、あ、ァ、」
 ぶる、と胴震いするのと同時に、慣れない感覚を身体が感知した。
 奥、襞を押し上げられた感触。
 
 「コォ、ザ」
 熱で思考が霞む。
 「イきそ、」
 嗚咽のような吐息が零れる。
 どうしてだか、咽び泣きたい気分だ。
 甘い声が囁きをタイルに落とす。
 「イケヨ、」
 「ふ、う、」
 勝手に涙声。
 くぅ、と含まれて、いっそう熱が上がった。
 
 セックスで、こんなに身体が熱くなるなんて思わなかった。
 あやすように手が肌を愛撫していくのに、溜め息を吐く。
 思考を閉じて、快楽を追う。
 「イ、ク、」
 ガクガク、と膝が揺れるほどの快楽。
 容赦無く追い上げられて、コントロールを手放す。
 「も、だめ、」
 頭が白く染まり始め。腰が揺れる。
 「ふ、あ、あっ、」
 きつく促されて、びくり、と身体が跳ねた。
 拍子、身体の奥から湧き上がった熱が、内から外へ向かう。
 
 「く、ン、ぅ、」
 びくびく、と身体が跳ねる間中、注ぎ込む。
 熱い口の中。
 こく、と喉が鳴る音が聴こえた。
 全部、嚥下されたのだろうか?
 「は、あっ、」
 くたり、と体重を預ける。
 このままズルズルとタイルに座り込みたい気分だ。
 こんなに深く、愉悦を感じるのは初めてかもしれない。
 
 先の方、軽く舌先で弄くられて、なんとか笑った。
 「コ、ザ、下ろ…せ、」
 ちゅ、と背中に口付けを落とす。
 「の、ぼせ、る」
 つるり、と口から放されて、うぁ、とうめいた。
 恥骨の上、啄まれて、くくっと笑う。
 
 すい、と足を下ろされて、血液が正しくそしてとてつもないスピードで循環していくのを感じる。
 臍に口付けられて、オトコの背中に歯を立てた。
 舌先を潜り込まされて、腰を僅かに捩る。
 「こ、ら、コォザ、」
 笑い声プラス喘ぎ声。
 なんて声だろうね。
 
 ヒップをきゅう、と握られて、また笑った。
 「かお、みてェ、」
 オレに狂ってるオマエの目、見せて。
 「いろっぽいね、イー声」
 少し笑った声に、また小さく笑う。
 「エコー、すげェ、な」
 
 すい、とコーザが顔を上げた。
 キラキラと欲情したキャッツアイ。
 「おれの頭のなかですげえ響くよ、セトの声」
 手を伸ばし、頬に触れた。
 「あンたに欲情してる、」
 ああ、クソ。腰の奥の方、甘い渦が湧きあがったな、今。
 「オレもだ、コーザ」
 
 かぷ、っと身体を上げたコーザに耳朶を噛まれた。
 「っ、」
 ああ、ゾクゾクが止まんねェのな。
 「濡れたままでいいか、」
 声と一緒に舌が耳に落とし込まれた。
 「熱で、すぐかわい、ちま、」
 くちゅ、と蠢かされて、小さく喘いだ。
 「乾かす手間、勿体ねぇし」
 すい、と抱き上げられて、体重を預けきった。
 
 「わけわかんね、も、」
 笑って状態を告げる。
 「オ、マエの熱に、狂っちま、って、」
 すい、すいと酷くやさしい口付けを顔に落とされる。
 目を細めて、受け止めるソレ。
 
 「セート、」
 甘くて優しい囁きが、形の良い唇から落ちてくる。
 熱い指先で、それをなぞる。
 「全部、クッチマウヨ?」
 「いいよ、」
 指がぱくっと含まれて、濡れた熱い口内の感触に溜め息。
 「オマエになら、やるよ、」
 すいすい、とベッドルームに連れられていく。
 「アリガトウ、あンたにもね、やるよ」
 
 すい、と口付けられた。
 ゆっくりと下ろされる感覚。
 さらりと冷たいリネンに、背中を預けさせられたのを感じた。
 「なぁ?」
 「ン?」
 間近で見詰められて、片手で頬を撫でた。
 しっとりと預けられる体重に、溜め息を吐く。
 掌に、するする、と懐かれて、思わず微笑み。
 「大事にする、」
 照れ笑いとともに告げられ、思わず破顔した。
 「オレもだよ、コーザ」
 鼻先を擦り合わさせる。
 「I'll treasure you too、」
 心の底から、誓えるね。
 オマエを大事にする、って。
 
 
 
 
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