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 あまく掠れて、揺れる声が零れていった。
 耳がバカみたいに喜んでいるのが判る、体温が跳ね上がる。
 熱を帯びて、水に濡れていた身体がしっとりと潤み。這わせる掌に肌が柔らかく馴染んでいく。その微かな変化さえ捕えていく。
 
 「ン、」
 浮かべられた表情に、酷く渇いた自分がいた。そして上がる短い音の乗せる色に鼓動が競りあがる。
 素直に快楽を伝えてくるそれ。
 目を上げる。
 僅かに、閉ざされずに息を零す唇。手で、唇で、舌で、身体で味わう肌は僅かに血の色を浮かせて。真意から思う。
 眩暈がする、と。
 
 幾度も深く重ねた所為で濡れ、触れれば僅かにほたりと重い質感に指先から痺れていくかと思う。その唇が浮かべる線を辿る。
 「ふ、」
 笑みとも、かすかに震えるともとれる零れる落ち、空気に溶けていくソレ。
 「くすぐってぇ?」
 掠れかけた自分の声にわらう、少しばかり。
 「ンん、」
 上げた目線の先、くぅっと口端が引き上げられるのが写った。
 ふぅん、クスグッタインダね。
 
 胸元をかるく穿ち、ふつりと快楽を示す淡い色を乗せた尖りを舌先に感じ。
 さら、とかすかな音を耳が拾う。セトの、渇き始めた髪がリネンに滑る音。そして唇を指に擦らすようにされた。
 伸ばされた首筋から頤にかけて作り上げられた線の滑らかさに息苦しくなる。
 口に含んだ小さく立ち上がったものを擽りながら、唇を割り濡れた熱を撫で。
 息を呑み笑うようだったセトの邪魔をした、ほんの僅か。
 「ふ、ゥ、」
 く、と反る背に身体が一層重なり。
 ああ、あんたの中、あっついね。
 
 連想に、また指先をわざと蠢かし。
 どこもかしこもキレイなセトの。リネンをどこか必至に握りこむ指先さえ決して例外ではなくて。
 「ん、く、」
 くちゅ、と濡れた音がセトの口許から起こり、息が詰まるかと思った、一瞬。
 熱を持った下肢からも濡れた感覚が伝わる。
 「セト、」
 「ぅ、」
 声に出し、名を呼ぶ。整った美しいカタチ、透かせて浮いた骨、肋骨、あぁだから。
 骨まで美味そうじゃねぇかよ。参ったな。
 
 くぐもった声を耳にしながら、かり、と食む。
 「く、んんっ、」
 きくり、と揺れる組み敷いた身体がおれの欲望の対象のすべてで。
 悦楽に溶かせたいと願うもののすべてだ、と。
 容にならずに思考が流れて。
 身体を浮かせた。
 
 なあ、セト。
 いっそ解けちまって、溶け合っちまって。
 朝まで、朝が来ても。抱き合っていようか。
 
 
 
 身体に乗っていた重みが減って、薄っすらと目を開ける。
 甘いオレンジの空間に溶けたオトコの身体が目の前にあった。
 腕を伸ばし、傷痕に触れる。
 しゃら、と涼しい音を立てたクロスを、唇で引いた。
 「こら、取れない」
 す、とやさしく微笑んだコーザに、笑いかける。
 甘い声に、くくっと喉奥で笑ってから、ゆっくりとクロスを放した。
 する、と唇を滑る金属の感触。
 
 「な、にを…?」
 「ん、ちょいリーチ足りねぇな」
 そう呟きが届いて、笑った。
 舌先を伸ばし、オトコが散々弄ってくれていた場所を、お返しに舐める。
 小さな尖りを舌先で弾いて。
 片腕に抱えられて、するっと僅かに移動しつつ。うわ、とくすぐったいらしい声が上がっていた。
 笑い声。
 
 「かわいいのな、」
 ちっさくてさ。
 オマエがつい弄りたくなるのも解る。
 サイドボードから何かを取り出そうと、腕だけを伸ばしていたオトコの肌を舐める。
 「そりゃ、どうも」
 笑っている声に、思わずク、と歯を立てたくなる衝動。
 「オマエの肌、美味そう、」
 とろとろに蕩けた声で囁きながら、ゆっくりと歯を立てた。
 「よくイワレマス」
 「ふぅん?」
 「ビジンから限定な」
 
 喉の奥で笑って、僅かに頤に力を入れた。
 くくっとくすぐったそうにコーザが笑っていた。
 れろ、と舌で噛んだ部分を舐め上げる。
 すい、とオトコの腕が降りてきて、ゆっくりと腿を撫で上げていった。
 する、と身体がずらされて、また笑う。
 くすぐったがりか。敏感なんだな?
 
 腕を伸ばして、さらさら、と浮かした指先で肌を撫でた。
 「手触りもいいよな、」
 「セトのほうがいい、」
 「オマエも手入れしてるのか?」
 「はン?」
 さらさら、と掌で肢を撫でられて笑う。
 「肌、エステ」
 見下ろされて笑った。
 「おいおい、」
 
 「オレの身体は魅せるためでもあるからねぇ」
 苦笑しているオトコににやり、と笑った。
 「あンたはね、」
 ビジンでなんぼだろ、と言ったオトコに、笑う。
 「フフン、ビジンであるに越したことはないけどな」
 膝を引き上げられ、薄く歯を立てられる。
 かり、と張った皮膚の感触を、愉しんでいるらしい。
 甘い快楽が、身体の奥底に蟠っている。
 
 「休憩終了、」
 「ん、」
 コトバに笑った。
 少し肢を上げられ、つう、と膝裏を舐められた。
 「コーザ、」
 くすくす、と笑う。
 「すげ、楽しい、」
 紛れも無い本音。
 「そう?ウレシイね」
 手品じみた仕種で、右手に持った小さなアンプルをひらっとされて見せられた。
 ふぅん、ナルホド。
 用意せよ、ってことかな?
 
 「エロティックだな、なんかソレ」
 くっくと笑う。
 「余計なモノ入ってねぇから、ご安心召されよセト殿」
 からかう口調に、仰け反って笑った、思わず。
 「コーザ、」
 「最初からトリック使うなんざ、じじいのすることだしな?」
 あーナンノコトカワカラナイヨ。
 ケラケラと笑って、自分の中のテンションを少し下げた。
 
 ぱきん、とアンプルが折られる音。とろり、と長い指をオイルが零れ落ちていくのが見える。
 ぽた、と真ん中に濡れ零されて、身体が思わず震えた。
 「セト、目。キラキラしてキレイだね、それ」
 「オマエにやろうか?」
 濡れた指が真ん中を伝い降り、奥までゆっくりと塗り広げていくのを感じる。
 とろり、とした感触に、また体温が上がる。
 
 「目だけ?」
 甘い、甘えた声に笑う、余裕無く。
 ことさらゆっくりと零されるオイルに、足がピン、と突っ張る。
 「ぜんぶ、オマエに、」
 「ぜんぶ寄越してくれよ、」
 「やる、」
 勝手に震える声に、笑って眼を閉じた。
 とろとろ、と伝い零れるオイルの感触が、より明確に感じ取れる。
 すい、と胸が一瞬合わさって、唇を啄まれた。
 それからまた少し浮いた。
 「アィシテ、ルカラ、こぉ、ざ」
 全部、オマエにやるよ。
 
 ふ、と空気が動いて、零れる蜜を熱いばかりの舌先が掬い取っていった感触に震えた。
 同じタイミングで濡れた指に襞を押し撫でられて、びくり、と腰が跳ね上がった。
 「んぁ、」
 腰を掌で抑えつけられた。
 きゅ、と硬く立ち上がったものを吸い上げられて。同時に僅かにもぐりこんできた指先に、ふる、と息が震えた。
 「んぁあ、」
 
 僅かに震える身体を、慈しむように触れられる。
 ぐ、と奥深くまで咥えられた感触に息を呑み。同じ様にゆっくりと入り込んでくる指に、腕を突っ張って背中を撓ませた。
 「あ、ぁ、ァ」
 馴染みのない感触。
 まるっきりハジメテというわけではないけれど、こんなに丁寧にセックスのために辿られるのはハジメテだ。
 
 ぞわぞわ、と背中を、何かが這い登る。
 くう、と昂ぶりを吸い上げられ。きゅう、と指を締め上げる。
 それから、ふ、と息を吐き、襞が緩んだタイミングで、ぐい、と奥まで差し込まれる。
 内を押し撫でられて、きゅう、とまた締め上げた。
 ぬとり、とした感触が、微妙ななにかを内に産む。
 それでも硬く猛ったモノを根元から舐め上げられるようにされ。先端を柔らかく愛撫されてから、唇が浮いていった。
 「は、あぅ、」
 
 ゆっくりとオイルを塗り広げる動作を、体内で感じ、思わず眉根を寄せた。
 く、と手に脚をいっそう押し開かれ、昂ぶりの根元に音を立てて口付けられる。
 「へ、…んな、かんじ、」
 僅かに襞を舌先で掠めるように触れられ、思わず息を呑んだ。
 「ダイジョウブ、」
 優しい声に、僅かに笑う。
 く、と辿るように当てられ、びくん、と腰が勝手に揺れた。
 
 「せなか、平気?」
 「せ、なか?」
 「痛くない、」
 甘いようなむず痒い様な感触に戸惑っていたら、下肢を少し引き上げられた。
 「い、たくな、い」
 熱が奥に溜まる。
 腰の奥が、重く感じる。
 
 片足を、コーザの肩にかけさせられた。
 空気に曝される面積が広くなる。
 くう、と襞に熱く濡れた感触。
 舌先が、僅かにもぐりこんできたのだろう。
 「ん、う、ゥ」
 ぎり、っとリネンを握り締めた。
 熱い掌に足首を捕まえられた。引き上げられ、脚を折られる。
 く、と指が中を押し開く感触に、ぎゅう、と締め上げた。
 
 「あ、ア」
 声が止まらない。
 熱い舌先に襞の内側を舐められて、びくびく、と腰が勝手に揺れる。
 少しでも奥に潜ろうと、何度も突付いてくる。
 「あ、ァ、ぁあ、」
 表現し難い感触に、腰を僅かに捻る。
 「コォ、ザ」
 周りも濡れた指に押し撫でられて、思わずうめいた。
 くう、っと腰を掴まれて、息を呑む。
 引き寄せられて、また体温が上がった。
 「こ、ぉざっ、」
 
 
 
 
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