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 ヤバイ、と。アラートサインが鳴り捲ってた、のだけれども。
 数字や羊や係数を数えることなんざしなくても、取り込まれかける熱さに負けない、って自負はありすぎるほどあったンだけど。
 あっさり、ヤラレタ。
 目を見つめ、アイスブルーが溶け、涙の膜で薄く揺らぐ様を見つめていれば。
 苦しげに、それでもイヤになるくらい艶めいた表情が端整な造作をすう、と覆い。
 見惚れかけていたなら、――――声。
 
 そうじゃなくてもおれは。セトの話し声だって相当好きなんだ、バカ話でげらげらわらってた時から。
 湧き上がる感情をすべて塗りこめたようなソレ。
 戸惑い、熱、多分痛み、そして身体のコントロールをなくして躊躇ったような。追い上げられたソレ。
 短く零されたモノ。
 耳にした瞬間、ヤラレタ、と思った。
 セト、あンた。だから――――――
 反則だろ、母音一つ。
 本能と衝動と愛情と欲情、一まとめにして持って行った、あンた。
 
 薄く汗の浮いた肌を確かめていた指先が埋まって。膝裏ごと引き上げてた。身体を拓かせて気付いたなら、熱の最中にいた。
 小さく上がる声が。
 一瞬ぶっ飛んだ理性を引き戻す。
 こら、待ておれ。誰を抱いてると思ってンだよ、と。アタマのなかで自分を呪う。こういう声を、ダイジナアイテニ上げさせんな。
 
 セト、と名を呼び。
 震える身体を慰撫した。
 強張った身体に心臓が痛くなる。
 なのに取り込まれた熱に渇く。
 ったくどうしようもねェよ。あンたが好きでアタマがバカになってンのかもしれねェわ、おれ。
 
 言葉に乗せる、問う。
 ダイジョウブか、なんて口が裂けても言えねェよ。だから、名を呼ぶ。
 そして、身体が柔らかさを僅かづつ取り戻すまで、火照ったままの肌に唇で触れ。
 掌の熱を移しこみ、呼びかける。
 浅く息を繰り返す、きつく目を閉じられた目元にまた口付け。
 揺らぐ蒼に捕えられるのを間近で待ち受ける。
 
 震える睫が長い影を落としていた。
 場違いに見惚れる。けれど、柔らかく締め付けてくる内側、熱に僅かに息を呑んだ。
 耳もと、声を落とす。
 目を閉じていると、褒め言葉には違いない―――セトは陶器でできた人形めいている。
 視界が捕えるのは、関節が白く浮き立つほど握り締められたピローと、引き攣れたリネン。
 
 ―――――フン。
 セート、わらってもいいよ?
 本音をばらす。あンたが縋ってるそいつらに、おれは妬いてンだけど。
 
 腕がまわされ。しっとりとした重みを預けられ。
 嬉しくなって口付ける、つもりが。
 熱に渇いた唇が、なのに赤くなって血の色がのってえらく美味そうだったから。
 舐め上げる。
 笑みの欠片が、無理矢理にセトの表情に乗せられて。
 愛情が溢れる。
 あぁ、もう。だから。
 セト、あンたね、おれを気遣ったりなんざしなくていいんだよ。
 抱きしめる。
 腕にこうしていてくれているだけで、充分なんだって。
 
 ―――あと、もう少ししたら不毛でそれでも快楽だけは保証つき、そんな真剣なゲームしよう。
 きっとおれはあンたに負けると思うけどね?
 ああ、違うか。
 愛情の絶対量なら、同じか?それでも。きっと。
 あンたの向けてくる表情、指の動き一つだって心底ほれ込んじまってるわけだから。
 おれはやっぱ負けを認めた方がイイのかね?セト。
 
 「セト、」と。
 呼びかけだけを声に乗せる。
 緩く、浅く。絡みつくような熱を押し拓き、息が詰まりかける。
 短い声が上がり。
 それは僅かに熱を佩び。
 そして、トドメ。
 スキダ、と。切れ切れにセトの声が綴る。
 あ、と思った。
 泣くか?と。
 それほど、それは揺れてひどく幼い声で。
 
 身体を重ね、眦に唇を押し当てる。
 離れる身体がイヤで、引き上げさせる。
 見つけてあった奥、抉るように穿ち。低く漏らされるくぐもった声に体温がまた上がる。
 取り込まれそうだ、あンたに。
 あまったるい幻覚。
 
 肩口に顔を埋める。
 浅く歯を立て、セトのなかを深く探れば。
 「こぉ、ざ」
 舌足らずな発音が耳を擽る。心臓を射抜く。
 熱い腕がしがみ付き。
 たすけろ、と。聞こえた。
 
 ―――――セト。おれの方が助けてほしいよ?
 思わず笑いと、まったく正反対の劣情と。とんでもなく深い愛情に違いないもの、それが混ぜ合わされて息が零れる。
 あンたの耳にはもしかしたら。笑い声、に聞こえたかもしれないけれど。
 「ク、ラクラ、する」
 揺れるセトの声。
 あれだけ気丈な平素を知っていればこそ、泣き声じみたソレに喉が鳴る。
 
 「セト、」
 腰を掴む手指が必要以上に強いかもしれない。
 「あつ、ぃ、」
 うわ言めいて漏らされる囁き。吐息が熱く重くなり。
 「セト、目。開けろ…?」
 耳が捕えるのは。同じくらいかすれた自分の声だ。
 
 縋りつく腕の力は強まるばかりで、押し出される荒い呼吸がどうしようもなく感情を波立たせる。
 「セト、」
 緩く穿ち。
 上向く首筋の線を舌で押し上げる。
 「っ、く、」
 喘ぎ。
 どこまでおれはあンたに際限なく飢えて渇いていくんだろう?
 
 「セト、」
 蒼がおれを捕えるのを待つ。
 あンたの目、それに浮かぶ色は、おれにくだされる審判なのかもしれないな。
 願わくば、それが。
 許諾だとウレシイね。
 
 ゆらり、と。
 蒼が揺れた。目を閉じそうになる衝動を押さえ込む。
 セト、あンたを泣かせちまいたい、って。おれは思ってるよ、悦楽の中に放り込んじまって。一緒に。
 
 
 
 
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