声が聴こえた。
目を開けろ、と言っていた。
しがみ付く、揺らすな、祈るように吐息を零し。
血が生きたままの身体の中で逆流していくみたいだ。
沸騰して蒸発していくみたいだ。
熱、沸き起こる。
奥深く、とても想像も付かない場所で。
それでも。
少し泣きそうな声だったから。
耳に届いた声が、同じ様に少し泣きそうだったから。
息を吐いて、眩暈をやり過ごして。
少しだけ身体を離して、瞼を持ち上げた。
潤んだ向こう側、甘いオレンジの光の中。
見下ろすキャッツアイ、なんで痛そうなのオマエ?
「コォ、ザ…?」
見上げる。
見詰める。
ゆらり、と光が揺れる。
なんで泣きそうなの、オマエ。
頬に手を添えて、笑ってみた。
「セト、」
「ん…っ?」
瞬きを一つ。
眉のところ、口付けられてまた笑った。
「ど、した…?」
「あぁ、あのな―――?」
柔らかい掠れた声。
甘い、甘いトーン、揺れる。
す、と身体を僅かに引かれた。
寒気と熱が同時に生まれる。
ぶる、と震えた。
それでも見詰め続けるキャッツアイが、狂おし気な色を纏っていた。
ぐ、と熱を押し込まれて、うめいた。
身体を走り回る電流。
低く喘いだ。
両腕に頭を抱きこまれた。じいっと視線は合わさったまま。
瞬き。
「一生、あンた以外のもの。見たくねェよ」
真摯で、けれど少し底が冴えている声。
紛れも無く本音、だね。
嵐のように愛情が湧きあがる。
ふい、と自嘲気味に刻まれた笑みに。
「こぉざ、」
するり、と砂色の髪に指を差し入れた。
「コォ、ザ」
オトコの一部分を咥え込んだ場所、ゆっくりと撫でられて、ぞくぞくと電流が背骨を駆け上った。
「あ、あっ、」
快楽、だコレは。
深すぎて、わからなかったよ?
するん、と片腕が降りていった、コーザの。
落とされる囁き。
「泣かせちまいたい、あンたのこと」
「ふっ、」
きゅう、と拓かれたトコロを、指の腹で押された。
熱を持ってきちきちに張ったソコ。
さらり、とした皮膚の感触に、産毛が逆立ちしていくみたいだ。
「コー、ザ」
泣かせたい?
「おれだけで、溢れさせちまいたい。あンたの吐息からもおれが零れるくらい」
コトバの意味を理解した。
"アイシテル、アイシテル、アイシテル。"
一つ、深い息。
「鳴いておれに狂っちまうあンたが見たいな、」
核の部分で、なんてオマエは激しい愛の持ち主なんだろうね。
目を閉じて、笑った。
「おれはどうせ溺れ切るだろうけどさ、」
そっと告げられて、ああ、泣きたいぞ、と思った。
ああ、クソ、明日のレッスンは、半分以下だな。
首を引き寄せて、ねっとりと唇に舌を這わせた。
ああ、もう。
オマエの願い、叶えないワケにはいかないだろうが。
「コーザ、」
ぐ、と腰を進められて、途端、身体の奥深くに甘い鋭利な痛みが走った。
ポイント、抉られて、びくりと揺れるモノ。
ひでえ、オマエ。オレに応えさせないつもりか?
ぎゅう、と締め付けた。
ゆっくりと目の前で、笑みを刻む端整な顔。
「愛してる、」
セト?と訊いてきた甘い声に応える。
「もっと、来い、」
You're gonna take me high above, aren't you?(上、高いとこ、連れてってくれンだろ?)
「オマエが、ほしい、」
I want you above all else, now.(いまは、なによりもオマエが欲しい)
「ぜんぶ、やるから、」
I'll give you my all.(オレの全部を、オマエにやるから)
体内で、育ち。
びくり、と跳ねたものに、眉を寄せながら笑った。
「な…?」
目を閉じて、齎された言葉を味わった。視界に、セトを捕えその表情を焼き付けてから。
自分のなかに在った飢えが、充たされまたすぐに渇いていった。
渇いた砂地に零される愛情、そういったイメージ。けれど、目にうつり悦ぶのはその蒼に浮かんだ純粋に狂おしいまでのヒカリ。
同じだけの、飢え。同じだけの渇き、そして――――
喉奥から押しだされるかすかに抑えられた声に意識が舞い戻る。
繋がったまま、昂らめ手指を伝う熱く濡れた感触に神経が悦ぶ。
先に一度掌に零れた蜜を味わった名残りが、知らずに渇いた唇を舌先で潤せば感じられて薄く笑う。
限度が無い、あンたに。
きつく締め付けられ、求められるままに抉る。
「んんあ、」
何度も、掠め。押しあげ、引き戻し。
「クルシイ?」
あぁ、わかってるけど。ワザと聞く。
セトの声にうっすらと艶がおびていきていること。おれが気付かないハズない。
「け、ど、」
息を呑む音が、濡れた音に混ざる。
「イィから、」
舌ったらずな、あまい声。
ぎゅう、と抱きつかれて。また熱に包み込まれる。
ちょい、モタナイかもな。
いいかげん、限界って。
ク、とセトの昂ぶりを抑えつける。
「ん、ぁ、」
「セト、」
「な、?」
引き戻し、すがり付いてくるウチに息を詰め。拓かせたぎりぎりまで熱を愉しみ。
最奥まで押し戻す、鼓動より早いリズム。
跳ね上がる身体がイトオシイ。
抑える事を忘れた声が高く、上がり。
艶を佩びたそれに、温まった空気が重く溶けていく。
肌に突き立てられる短い爪にさえ煽られる。
「っ、」
「コ、ォザ、」
笑いかけた声が詰まる。
「だ、め、…だ、」
セトのあまい声。喉奥から圧しだされる唸り声にも似たソレ、応えたのは自分の声だ。
「とけ、る、」
悦楽に蕩け落ちそうな音が零れる。
「とけ、ちまえよ?」
クッチマイテエシ、告げる。
奥にまで突き立て。セトの零す声に限界を知って。けれどなにより引き絞られて。
引き出そうか、一瞬掠め。けれど。
「あ、あ、ァ、クぅ――――ーッ」
すべてを委ねられ、あまつさえ。
与えられているのだ、と。思い返す。
「セト、」
「は、あ、あンぅ、」
あンたのなかに。注ぎ込んじまいてぇから。
潤んだ目が、挑んでくる。
あぁ、あんた。やっぱりサイコウだよ?
ギヴ・アンド・テイク?悦楽の共謀者?
くう、と勝手に余裕も無いのに口端が吊り上がる。
一際、絡みつく壁を抉りながら。
揺れる腰を半身で押さえ味わい、反らされた背に腕を差し入れ。
ああ、何一つ。あンたがおれに寄越してくれるものは逃がしたくないんだよ。
奥に、注ぎ込んだ。
「あ、あッ、んぅッ、」
びくり、と痙攣するように脚がリネンを跳ね上げ。
身体の間で弾ける熱が肌を濡らして零れていく。
何度も締め付けられて、すべて注ぎ込み。
受け止めるたびに、声が漏れていた。
くううっと張っていた身体の線が和らぎ。
腕にしっとりとした重みが預けられる。
浅い、早まった喘ぎを漏らし、空気を求めて反らされた首筋の描く線も、なにもかもが。
「恐ろしく、キレイな、セト」
収まりかける息が言葉を途切れさせる。
額、目元、頬、唇、顔のパーツにそうっと唇で触れていく。
閉ざされたままの瞼に、さいごに触れ。
こめかみにもどる。浮いた汗にほわりと甘い味が乗る、そんなことを口付けながら思い。
ゆっくりと抱き上げていた背を、リネンに戻す。
上下する胸元に、そっと身体をずらせて口付ける。
早いリズムを刻む心臓の上に。
まだ埋めたままだった、悪い。
きゅう、と寄せられた眉根にちょっとばかりわらった。
あーあ、かわいいって、セト。
なぁ、戻ってコイヨ、セート。
もっと、気持ち良いゲームしようぜ、な?
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