眩暈が、した。
走ってる心臓の鼓動、熱くなりすぎた身体。
奥に熱を注ぎ込まれたと理解したのは、幾度も脳裏を走った閃光が消えいき、穏やかな眩暈が頭を訪れてから、だった。
腰の裏側が重たかった。
熱が沈殿して、僅かに痺れているように快楽が蹲っていた。
く、と僅かに動かれて、沈殿していた快楽の名残が掻き混ぜられた。
眉を寄せた。
そこに落とされた柔らかな口付け。
薄っすらと目を開けた。気分は丁度、ステージを終えてバックで倒れこんでる時のよう。
拓かれた場所が、麻痺しているみたいに感じた。
存在感は、尚もそこに留まっていた。
渇いた唇を僅かに舐めた。
走り回っていた快楽に翻弄されていた頭が、漸く回り出したみたいだ。
コーザが身体を起こし、とん、っと唇にかるく掠めて口付けてきた。
苦笑じみた笑みが勝手に零れ落ちた。
オマエにいいように鳴かされちったみたいだな、オレ。
後悔は、微塵も無い。
成るべくように成った、と。
オマエを受け入れて、愛されてみたいと願ったそのままに。
愛された。
「セト、」
「…ぁん?」
「キモチガイイ、」
声がまともに出ないけれど。
すう、と目元でコーザが笑い。
くすくす、とどこか甘ったるい笑いが喉から零れ始めた。
「コーザ、」
あーあ、くそ。本音バラしちまおうか。
「すごすぎて、まだ快楽を実感できねェわ、オレは」
耳元、唇で辿られた。
甘い柔らかな感触が、キモチイイ。
つる、と耳朶を舐められた。
くたり、とリネンにヘタったまま、目を閉じる。
口に含まれて、やさしく愛撫されてる、耳朶を。
熱すぎた熱が、漸く少し引いて。
快楽に翻弄されまくった身体を認識した。
「コーザ、」
溜め息混じりの声で、名前を呼ぶ。
熱い掌が、さらさらと身体の線を確かめるように辿っていくのを、感じ取る。
ちくん、と耳朶をピアスされて走った痛みに、くっと息を呑んだ。
それから、ん?と声が落ちてくる。
まだ余裕を残したソレ。
「今度は、ゆっくりとできるか?」
くう、と下肢に力を入れた。
「ロデオ・ライドかローラ・コースタみたいで、ちょっとキツかった、」
少し笑う。
「んんん?」
にぃ、と笑みを刻んで、コーザが目を覗きこんできた。
「Love me tender、(やさしく愛してくれ、)」
笑って告げる。
「そいつは恐らく、」
笑いの混ざった声で応えが返される。
「セトのゆーしゅーなアドレナリンの所為半分じゃねぇ?おれ、結構大人しくしてたし」
……ん?
「ロデオ?とぉんでもない。」
「―――――オマエ、いつもアレより激しいのか?」
目を細めてみた。
すう、と柔らかくウエストを抑えられた。
「さあ…?」
「―――――悪ガキ、」
キラキラと光を湛えた目を、軽く睨みつける。
「吃驚して、きっと。ブレインケミカルですぎたんじゃねぇの?」
にかあ、と笑ったオトコに手を伸ばし、頭を軽く掻き混ぜた。
「まあ、それはあると思うけどナ」
じいっと見詰めてきていた眼が、くぅっと細まった。
「けどさ、コーザ?」
少し口の端を吊り上げる。
「ココで味わう快楽ってヤツの質……、」
なに、とやさしく言ったオトコが身体を少し引いて、息を呑んだ。
「……じっくり味わいたいじゃねぇの、」
…あーあ。
甘い何かが、中を駆け抜けていった。
ゾクゾク、ってヤツが継続していく中、ゆっくりと引き出されていくモノを。
ダイレクトに、そしてとてつもなくリアルに感じた。
アドレナリンの保護ナシ。
「いいよ、」
少し声が低いオトコが、
「最初からそのつもりだし、」
そう続けて言った。
見詰められて、睨み付けた。
ああ、なんてこった、"最初からそのツモリ"?
クソ、悪ガキだなオマエ。
脳内でいつものクセ、悪態を吐こうとして。
次の言葉に、思いっきり愛ってヤツを感じちまった。
「だってさ?あンたに充たされたと思ったらすぐ渇くんだ」
にぃっこり、と。まあ嬉しそうだなァ。
「……あーあ、」
思わず笑い出す。
「でも、セート。怒った顔も、すげえソソル」
喉奥でコーザが笑って。
うれしい、と告げる目が、合わされる。
あーあ、クソ。かわいいぞ、オマエ。
ぺろっと腹の辺りを舐められ、きゅう、と吸い上げられた。
「んぅ、」
チリ、っと痛みが一瞬走って、痕が残されたのだと知る。
するり、と掌が肌の表面を撫でていく。
とろりとしたものが、押し遣られていく感触に、薄く笑った。
跡を舌で舐めとっていくオトコの舌が立てる音に、熱い息を吐き出す。
「コーザ、」
「ん?」
あーあ、どうしようかねえ、ホントに。
「愛してるよ、」
笑う。
く、と柔らかく、未だ柔らかさを保ったものを掌に包み込まれた。
殆んど出掛かっていたモノをぎゅう、と締め上げてから。
クン、と腰を動かして全部抜かせた。
「んあっ、」
ぴり、っと痛みが一瞬走った。
軽いフラッシュ、一つ息を吐く。
「……は、」
「いい声、」
嬉しそうなコーザの声に笑う。
「オマエが出させる、」
少し身体をずらしたオトコが、ゆっくりと上体を下ろし。
手の中に捕らえていたモノに、つ、と舌を辿らせた。
熱い舌と、空気に乾く唾液の冷たさ。
そのコントラストにぞくぞくと身体が震える。
こくん、と息を呑んだ。
「もっと、聞かせてもらえそうだね、」
甘い声に笑う。
「オマエが歌わせてくれるンだろ?」
挑むように、掠れ声。
けれど、とてつもなく甘い。声も、心も。
そして落とされた、まだショウネンのようなコトバ。
「まだぜーんぜん、おれ。セト不足」
穏かな面に拡がっていく水紋、そんなイメージだった。くすん、と。小さな笑声が間にあった僅かな空気を揺らしていった。
ただ、そんな穏かなイメージは実は正反対、だったけれど。
浮かされたような熱、表層だけもぐりこんだ振りをした快意の欠片、そういったモノが同じだけ存在している。
肌の、すぐ下に。
「セト、」
自分の声に内心でわらう。
「なぁん…?」
返されるソレとおなじほどアマイ。
空いた手で、リネンに伸ばされた腕を辿る。
ふふ、と。ちいさな笑い声がまた微かに空気に溶け出していった。
まだ火照ったままの滑らかな身体の表面をなぞる。
盲人が掌でヒトの表情を読むのを真似るように。言葉と同じほど、多くを語るしなやかな身体、内から溢れる熱をそのままに
告げてくる。
けれど眼差しは蒼に魅入られたままだ。表現者であるおれの大事なモノは。
目でヒトを殺すのが得意だ。
おれたちとは別の意味で。
キモチイイ、ウレシイ、ダイスキダヨ、と。
何も介さずに直接に語りかけられたかと思う。
「セト、」
「Yes my darling sweet?(なぁん?)」
酷くかすれて、それでも言葉はきちりと模られて呼びかけられた。
アイスブルー、って呼び名が齟齬をきたしてる。あンたの目、柔らかいし甘いし、溶けるみたいに暖かいし。
それ、おれだけが知っているものだと、いい。
「You're the only one I adore,」
本音。
"あンた以外、どうでもいい。"
あー、ダメだ。すげえ、キスしてえかも。
跳ね上げた眼差しのさき、セトがやわらかく笑みを浮かべていた。
模る線のなにもかもが柔らかにあまい。
腕が伸ばされ、頬に触れられる。指先までほんのりと熱い。
掌の中で滑らせ、熱い指先に唇でそうっと触れる。
言葉にせずに伝わる。溶け出すほどに柔らかな笑みだけで。
「セト、」
「…なぁん?」
余計な言葉がなくなる。
「愛してるんだよ、あンたのこと」
手首に口付けてから、血の流れを辿る。
「…キスして、もう一回」
肘、上腕、肩の丸み。とくり、と脈の跳ね上がった首元。
吐息に混ぜられた言葉を追いかけ、唇に。
自分の唇を押しあてる。
ふにゃり、と笑みがいっそう蕩け。
「セト、」
「Yes,」
唇を柔らかに食む。
背中に腕の滑る感触、そして引き寄せられる。あぁ、おーじ様はせっかちだったんだよな。
足を少しばかり開かせて絡め。やはりどこかでわらった。
「Seth, call my name, I love the way you do it」
本音、その2。
セト。あンたがおれの名前呼んでくれるの、すごく好きなんだよ、ウン。
つるり、と舌を薄くひらいた唇にもぐりこませて、合間にばらす。
「Coza, darling, you're the only man I'll ever love(コーザ、オマエが、オレが唯一愛するオトコだよ)」
頬に手を沿え、口付けを深くする。
耳の底に、どこか穏かなあまくやさし気な音節と、けれど底にあるのはまぎれもない本気。そんな声が残った。
頭を抱きこむようにすれば、一層引き寄せられ。
足まで複雑に動いた。はは、流石プロ。
溶けあっちまえればいのにな、このまま。けれど、一瞬の思い付きをすぐに否定する。
そういえばまだ全然、喰い足りねぇし。溶かしてイイ、とさっき許可まで取り付けたんだった。
ヤサシク、ヤサシク。溶かして熱を撓めて。慣れない快楽とやらを、覚えこんでいただきますか。
あぁ、ウン。
まだ、溶け合ってる場合じゃねぇな。
音を立てて深まるばかりだった口付けを解き。濡れて光る唇を舌先で押し撫でれば。
す、と背中から腕が降ろされ。セトを欲しいと主張していたモノをやんわりと握られた。息を呑む。
「I thirst for you too, my beloved(オレもオマエに渇くんだよ)」
僅かな笑いに彩られた囁きが零される。
「だからオレにコレ、寄越せ」
背中を何かが辿り落ちていった、多分…いまのところイチバンあまいセトの声と一緒に。
「セト、」
眦に唇をおしあてる。
な、くれ?と。表情が伝える。
あンた、すげえかわいいって、自覚あるのかね?
疑問だ、実に。
するり、と足で足を撫で上げられる。お猫サマの尾。く、とバカげた連想に唇が吊り上がる。
「オーケイ、王子様」
けどな、と額をあわせる。きらきらと蒼がヒカリを弾いて、宝石どころじゃない。
にひゃあ、と。極上のどこかネコじみた笑みをセトが浮かべていた。
「セート、溶けて鳴いてくンねェ?オレのために。」
おれも笑い返した。
ネコ顔じゃねえけどな。
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