音が聴こえなかった。
オーケストラの音、観客の拍手。
ステージに着地する時の音すら聴こえなかった。
…あれ?
ううん?ここはどこだ…?
どうっと疲労が津波のようにやってきた。
次いで、熱。
呼吸をするよう要求する肺。
血の流れに乗る快楽物質。
「…っ」
びくん、と腰が揺れた。
自覚する、熱くなって汗と体液に濡れた身体。
柔らかく熱い舌に次いで、ちゅる、と吸い上げる音。
唇の感触。
腹…から胸にかけて。
ゆっくりと辿り上がってくる…コーザ。
「…ォザ、」
あ、声出ないし。
「っ、」
震えが全身を通り抜けていった。
ちゅ、と音を立てて胸に口付けられて、びくん、と身体が勝手に跳ねた。
僅かな感触に、えらい反応するカラダ。
…過敏症?
「はー…ッ、」
深く息を意識して吐き出す。
身体重たくて、それ以上は今はムリだった。
こら、コーザ。
ニーサンはそろそろ辛いぞー…?
「コ…ザ?」
きゅ、と舌先で胸の飾りを押し潰された。
「んー?」
間延びした返事。
…オマエ、わっかいねえ…!
場違いに湧いた感想。
「もうだめ、とかいわないよねェ?」
「ちょ、きゅーけー…、」
だめ、とは言わねーけど。
Gimme a break a while, darlin'(ちょっと休憩させてくれよ)。
「ん、なにする?」
「…さ、き、…ハグ、」
柔らかい声に笑う。
Come hug me, sweet(ほら、抱きしめろよ)。
すい、と身体を起こしたオトコに、きゅう、と抱き込まれた。
熱い体温に、安堵する。
「抱きごこちイイ、」
キモチヨサソウな声だね、オマエ。
「オ、レは…キモチイー…」
目を閉じて、深い息を一つ。
そっか、と嬉しそうに優しい声が間近で響いた。
さらさらと背中や腰を撫でられる。
…うーん、ニーサン体力落ちたかねぇ?
体重、預けっぱなしで笑う。
「キモチもイイ、」
「んー、」
そかそか。キモチいいのか、オマエも。
あー腕上がンね。から頭で"Hugs & kisses"。
ハグとキスをイッパイ。
くう、と抱きしめられて、また笑った。
中に埋められたままのモノ、感じちまった、存在を。
す、す、と顔イッパイにキスが落とされていくのを、なんとなく照れくさい思いで受け止めた。
「コーザ?」
薄っすらと目を開けたら。
あらら、なんでそんなボヤケテルかな、視界?
濡れて重くなった髪、梳かれた。
額にも落とされる口付け。
「ハイ?」
優等生のような返事。
……いや、やっぱり。どっか得意げなドギーのような。
「あー…たのんで、いい?」
「なにを?」
「果汁、100%の、…柑橘系の…ドリンク、」
にっこお、と笑ったオトコ。
口開いて、舌ぺろん、と出しながら。尻尾、ばたばた、か?
「えええ。抜くの、」
今のは、さしずめ、「きゅーん、きゅーん、」というところだな。
かわいいっての。
「ちぇー、」
「抱えて…っても、いーけど、」
…あーあーあー、甘いねー、オレ。
すい、と身体が浮いていった。
「んぅっ、」
ずるぅり、とわざとゆっくりと抜かれて、思わず背中反らせちまった。
きゅぽんっ、と小気味良い音をさせそうなくらいに、粘着力アリ。
抜けていった後、直ぐにとろりと溢れ出そうになったものに、慌てて筋肉に力を入れる。
浮いた胸に、きゅうう、と吸い付くオトコが。
多分また新たな痕を付けていった。
…しばらくは、Tシャツ脱げないなぁ、人前じゃあ。
さらり、とオトコの気配が遠のく。
ごめんな、コーザ。のんどかないと、多分筋肉が酷く不平を言いそうなんだよ。
ヒリヒリ、と擦られて熱を持った襞の入り口辺りが疼く。
すい、とオトコが脱ぎっぱなしだったズボンをひっかけたのが見えた。
ドアを開けっ放しで、リヴィングの方へ抜けていく後姿。
「…オトコだねえ、」
吐息混じりに、いまさらな感想、か?
多少がっしり目に付けられた筋肉が、きれいに動いてた。
…うん、いいね。
……職業病か、オレ?
音もさせずに、オトコが戻ってきた。
手にはオレンジがいくつかと、クロスとナイフ。
冷蔵庫にあるジュースでよかったのにな?
くすん、と笑う。
すたすた、とハナウタ混じりの気楽さで戻ってきて。
カーペットに痕を付ける音を立てながら、ライティング・テーブルのイスを引きずってきた。
でかいベッドの横にそれを設置して、さらん、と腰をかけ。
小ぶりのオレンジを、さくん、と半分に切り、すい、と差し出された。
口許近くに置かれて、
「ハイ、口あけて」
にっこり、と笑う猟犬。
…なに、オマエ、手絞りで飲ませてくれンの?
思わず笑って、口を開いた。
あーん、と。
ぎゅう、と絞られる音と共に、口の中にたぱたぱたぱ、と果汁が落とされた。
僅かに飛沫が飛んでくる前に、目を閉じて。
零さないように、とやけに真剣な表情を浮かべていたオトコを、残像で見続けた。
口を開けたまま、ごくり、と飲み干す。
甘酸っぱい果汁、濃厚で少し酸味がキツい。
笑う。
「…ウマイ、」
目を開けると、掌が見えた。
でっかい手…ああ、そっか。飛沫が飛ばないよう、覆っててくれたのか。
すい、とそれが退き、ちゅ、と落とされた口付け。
残り半分を手に取ると、また同じ様にして飲ませてくれた。
「んぅ、」
「まだ、いる?」
飲み干してから、唇を舐めた。
「…んん、大丈夫、」
…ああ、でも。
にこ、っと笑った男に、ゆっくりと手を伸ばした。
…お、少し回復、か?
すい、とオレンジを握っていた手を捕まえた。
ゆっくりと引き下ろして、顔の目の前に持って行く。
「ン?」
「んー、」
ぱくん、と含んで、くちゅ、と音をさせた。
「渋いよ。皮の味するぜ」
「…ニガ、」
笑ったオトコに、笑い返す。
「ほおらな、」
でもしょーがないじゃね?
「うまそーだったし、」
ぺろり、と舌なめずりしてみたり。
「セート、」
「んー?」
なに、と問い掛けてみる。
「まだ抱いてイイ?」
にか、っと笑ったオトコに、うー、と唸る。
「キツカッタラ明日の朝の楽しみにとっておくし」
明日の朝?…オマエ、オレに自主トレさせねーツモリか?
くうう、と笑みを刻んだオトコの指に、かじっと歯を立ててみた。
「んん?」
「…染みそうだから、手、洗ってからな、今日、」
目がキラキラしていた。
ご褒美はチョウダイ、ってか?
くすっと笑う。
「オーケイ」
…へ?
「うわ、」
すい、と抱き上げられて、思わず首にしがみ付いた。
「どこい…うわ、」
重力の関係か?とろ、と零れ落ちそうな感覚に、思わず筋肉を締める。
「ジャグジーで抱いたら一石二鳥。きれいにしてからまた溢れさせてな?」
「……うーわ、」
すっげえことさらって言ったな、オマエ。
くすん、と笑って、肩口にすりすり、と頬を寄せた。
すいすい、と連れて行かれる先。
もういい加減、湯が冷めてるだろう、なジャグジー。
ケド。
「…手際いいね、オマエ」
ドア、開ける直前から聴こえてきた水音に苦笑する。
もう溜めてる途中ですか、ニィサン。
「有能なヤツはスキだよ、」
「オーガナイズド・クライム、っていうくらいですから。なにしろ本業はね、」
に、と笑ったオトコの肩口に、かぷ、と歯を立てる。
「手際がイノチ」
「頑張って精進してくれ、」
くくっと笑ったオトコの頬に手を添えて、口付ける。
「長生きしねェと、だもんな?」
「おーう、セトの開発?」
「Oh come on,(おいおい、)」
くくっと笑ったオトコに、丁寧に湯の中に下ろされた。
「I'll be a master of that(極めちゃうけどね)」
笑ってるオトコに、くす、っと笑いかけた。
「It's all in your hands, darling(全部、オマエ次第だなぁ)」
さら、と下を脱いで、水音を立ててコーザが入ってきた。
「ハイ、」
両腕拡げられて、笑って方向転換。
大きいジャグージの中を少し泳ぐようにして、オトコの首に両腕をかける。
身体は、僅かに蝦反り。
「Then, try this one, darling(じゃあまずはこれをお試しあれ)」
トン、と口付けられて、笑った。
手が背骨をするする、と伝い落ちていく。
「…っ、」
柔らかい掌の心地良い感触と、水が肌の上を滑る心地良さに、思わずほわ、っと笑みを零す。
そのままヒップをする、と辿り、閉じきっていない奥の入り口に触れられて、
「ぁっ、」
ぎり、と背中に爪を立てた。
つぷ、と静かに差し入れられる指先に、ひくん、と身体が僅かに跳ねる。
撫でるように拡げられ、ゆっくりとまた引き出される。
「…っ、ぅ」
…あー…あちゃあ……。
「セト、」
やさしく呼ばれて、肩口に顔を埋める。
緩んだ隙を狙って、どんどんと奥に入り込んでは掻き出していく指先に、熱を帯びていく吐息を水面に落とした。
「あー……、」
溜め息混じり、吐息混じり。
声が震える。
くる、と奥の一点を指の腹で押し撫でられて、びりっと電流が身体を走った。
「んぅっ、」
ヤ、コラ、マテ、ん?んん?
―――――所謂前立腺、ってヤツですかい?
く、く、と押される度に走る電流に、身体が跳ねる。
僅かに弾くようにされて、びくっと仰け反った瞬間、ざぱっと水が揺れた。
「コ、ォ、ザ、」
「なに、」
こら、ちょっと待て。こら、ン、あぁ、
つぷ、ともう1本潜りこんで来て、思わずぎゅう、と締め付けた。
オトコの甘い声、…ああ、ナンデダヨ、なにされてもいい気になっちまうじゃねーかよ。
ぎゅう、と指を中で折られ、くるっと襞を中から押される感触に、思わずネコみたいな声を上げちまった。
んぁああぅ、と。
「――――イイこえ、」
「ハ、…ッ」
イイ声はオマエだ、嬉しそうだねえマッタク。
かぷん、とオトコの肩に噛み付いて、思わず笑った。
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