濡れて重くなった髪に、頬で触れた。腕の中に、くたりと熱く弛緩した身体を収めて、抱きしめる力をゆっくりと緩めていった。
柔らかく瞬いて、すとん、と意識を落としていた。滑らかに上下する背中に手をかけたまま、静かに長く息を吐いた。
それには。狂おしいばかりの愛情、であるとか。充たされたと思う先から渇いていく感情であるとか。そういったものが
織り交ざっていたに違いない、そう思った。

緩やかな吐息が零されて。エネルギィが完全に尽きたらしいセトをカオを傾けて見下ろす。
整い過ぎた造作がやはりどこか作り物めいていたけれども、うっすらと疲れの浮いた目元が艶めいていて、勝手に
ニガワライした。
目元に唇で触れてから、身体を引き起こす。
ううん……、抑えたツモリだったけど、けっこう痕、残しちまったな。
さらり、と肩を撫でた。

「ン、」
小さな声に。唇をそっと押し当て、ねてろ、と言葉に落とす。
すう、とまた眠りに引き込まれていったのを確かめてから、やたらと名残り惜しかったけれどバスルームまで行き。
タバコを一本吸う間、水がたまっていくのを見ていた。あえて、アタマを空にして。
窓の外は、―――――――うわ。
あったぁー、と気の抜けた声が勝手に出てきた。
ぼう、と。
白みかけた灰色が、混ざっていた。
ヘタしてたら、日が昇っちまうネ、あーあ。こりゃ参った。

アシュトレイにタバコを押し付け。ベッドルームへ戻る前にバーカウンタから水のボトル、軟水だね、それを一旦
バスタブの側に置いてから「眠れるおーじ様」のところへ戻った。
「セト、」
眠るままのセトにそっとよびかける。眠っているときだって、おれはあンたの中にいたいんだよ、バカみたいだろ?
「………ん…、」
あぁ、起きなくていいから。
額に口付け、抱き上げた。

眠っているせいで、僅かに重く感じる身体を抱いて、バスタブの中に半身を伸ばし。
さらさらと水の中で手を滑らせる。
「寝とけよ?寧ろ」
ふわり、と寝顔が温かななかで僅かに綻び。勝手にまた愛情が引き起こされる。だーから、かわいいっての。
髪にまた口付けを落とし。手早く濡れた身体をバスタオルで包み込み。ふ、と背中に視線が落ちた。
――――あ。
さっき、けっこう無茶したか…?

肌に浮き上がった痕、項。
赤くなっちまってるね、悪い。
そう、っと唇で触れ。
ぴく、と指先が僅かに跳ねる。
あー、そういえば。イタイって言ってた、よな…?うわ、ゴメン。
ぺろ、と肌を舌先で掬う。
「……ぅ、」
「セト、愛してるよ」

ちゅ、とも一度唇を押しあてた。
眠りがまたセトを捕まえたのを確かめてから、抱きあげて。
リヴィングのソファへ寝かせている間に、ベッドリネンを引っぺがし。
替えのリネンをクロゼットから取り出しはしたけど、あー、ベッド。でかいっての。
めんどう。
むしろメイド呼びたくなっちまう。

思い切り腕を伸ばして投げ上げて布を拡げ、そのままマットレスに被せる
オーケイ、終わり。
クロゼットからもう一回、予備のコンフォータを引っ張り出し。
先にあったのはフロアに落とした。
これでよし、と。
あー、すげえ労働した。

セトの側へ戻り、寝顔に思わず訴える。
「セート、後で褒めろ」
頬に口付けてから、腕を首にまわさせて抱き上げて。
いっそここで寝ちまうか?と誘惑にかられても、どうにかやり過ごし。
ベッドへ出来るだけ静かに眠ったままの身体を横たえさせてから、隣りにもぐりこんだ。
「…ん、」
リネンごとブランケットだかコンフォータだかを引きあげ、包まる。

「寝てナ?」
なのに。
ぱかり、と音がしそうな風情で目が開き。半分以上眠ったままのような眼差しがあわせられる。
「セティ?」
ふざけて柔らかに音に乗せ。
ほにゃり、と僅かに口の端を持ち上げていたセトがまた目を閉じるのを見届け。
腕を伸ばしてアタマごと、身体を引き寄せた。
僅かな隙間が体温で温まり。うーん、いい気分だって。
に、と笑みを刻む。

多分、あと2−30分で日が昇る。
今日イチニチで。ミューズの次の次、くらいの位置におれはあンたのなかで、成れたかねェ?セト……?
オハヨウ、オヤスミ。アイシテルヨ。
抱きしめた。
ひどく幸福な眠りの就き方、ってヤツだね。




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