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 沸点の一歩手前、悲鳴めいた嬌声が零されて。息を呑んだ。
 温度の上がりすぎた血液が流れる音が、ウルサイ。
 
 びく、と反り返る半身の、冗談のみたいに精密機械のキレイさでうっすらと身体を覆う、汗で光る、筋肉であるとか、
 遠慮なく陽射しに晒されて陰影が淡く浮き上がって。
 それだけでも参るのに、泪に濡れたカオ、乱れて落ちかかる日に透けそうな淡い金色も、なにもかも。
 底が見えないほど、欲情する。呆れ返る、ジブンでも。
 
 やさしくしてやりたい、けれど同時に。クッチッマイテェ。
 煽られて、握りこんだ掌に歯を立てちまった。
 熱を零し、セトの身体ぜんぶが引き絞られて。
 意識を飛ばしたんだ、とくたりと預けられる身体を受け止め気付いたのは、滾るような熱さを感じる、身体のその奥に
 ジブンを吐き出した後で。
 
 背に回した腕の下で、ひく、と身体が幾度も短く震えていた。
 開かせた掌には、くっきりと痕が浮かび上がって。火照ったまま、あつい肌の表面にも、いくつもの鬱血の痕が浮かび上
 がっていた。
 セト、と意識の戻っていない耳元、声におとし。
 ハナサキを少しばかり髪に潜り込ませる。項のそば、肌に唇で触れてどこかあまいような匂いに勝手に神経が悦びやがった。
 唇で薄い皮フをやんわり食む。
 
 ゆるく、埋めたままでいたなら引かない熱が締め付けてき、
 「セェト、」
 薄く肌を穿った。
 重ねた身体の間に零された蜜を拭って、すこしばかりわらった。
 「かるく喰う、どころじゃスマナイネ」
 ウン、過去形じゃないんだよねェ。独り言に本音が紛れたか。
 
 寝ている隙に?
 背に回していた腕にちょいと力を戻して。
 身体を起こしながら、セトの背中をまたリネンに預けさせた。
 髪があまい白に散って、相当キレイで。
 頬に幾筋も残る泣いた痕が、愛情をまた揺さぶる。
 
 「あの」王子様が、漏らした言葉の幾つもがあれだけ熱病めいて浮かされた脳に、それでも鮮明すぎるほど残されている。
 泪の痕に口付けた。
 あンたから、それだけ想われる価値があるとはいくらおれが暢気ダカラっておいそれとは信じられねェんだけど。
 それを言ったら、きっとひどく怒り出すだろうし。
 怒り心頭の大猫がおっかねぇのはしたくもない経験上、実は知ってるし。
 
 ただ、いまは。
 アイジンからコイビトに昇格済みだから、ただ燐光がぎらついて相当「そりゃ危ねェって」な眼差しだけじゃなくて
 あぁ、蹴りもか、―――ってそうじゃなくて。
 
 もう一度、眦に唇で触れる。
 「きっと、泣くよな…?」
 それは、なにがあってもみたくねぇし。
 喜怒哀楽の烈しいセトだから。
 真ん中の二つで泣かせたくだけは、絶対にしたくないな、と。それが正直な所で。
 「――――自惚れてみるかねェ?おれ」
 なぁ、セト。どう思うよ?と。
 唇を啄ばんでみた。
 
 かるく触れ合わせるようにしてみても、睫がすこし揺れただけだ。
 なぁー、セト?
 まだ濡れててあっついハズのあンたのなか。
 このまま放っておくのって、世界に対する冒涜だと思わねえ?
 おれにしかこの特権がないならさ?ますます。
 
 「怒るなよぉ?」
 勝手に声が笑いを含む。
 実際、おれは相当な「エピキュリアン」だってことは、まぁ自覚してるし。悪く言えば刹那的、だったわけだけど。
 いまじゃ、世を儚んで一時の快楽を追いかける、なんて野暮なことだぁれにも言わせないから。
 
 ――――いっか?
 ウン、よしとしよう。
 とん、と頬骨に口付けて。
 浮きあがった痕のよこにそっと口付けていって。
 また微妙に増えたかな。
 深い呼吸を繰り返す胸元に散った名残りが、すこしばかり舌先に香るのを感じながら痕を残した。
 
 あーと、一応。
 まだ、残っていたオイルを中心から零し。ヒトの身体がキレイに成れる限界を少しばかり感嘆しちまった。
 ちゅ、と腰から腰骨、下腹へと繋がる出来上がりすぎたラインを唇と指先でたどってから。
 片足を引き上げさせた。
 
 ――――ん、まだ起きないね?
 半身を滑らせて。肩口に唇を落として。
 濡れて綻んだままの場所を確かめる。
 とろり、と零れたもので濡れていた。一瞬迷って。実に真剣に迷ってから、セトの瞼を閉じたカオをみつめながら。
 身体を内から拓かせて行く。
 
 ひくり、と足がわずかに揺れていた。
 急く気持ちを抑えて、宥めすかして。
 ゆっくりと拓かれ馴染もうとするのを待ちながら、深くまで繋いだ。
 「セト、」
 そっと呼びかけ。
 リネンにゆるく押さえつけるようにしていた手首が揺れて。ぴく、と指先が跳ねていた。
 「セーティ…?」
 
 ぎゅう、と眉根が寄るさまを、眺めて。
 笑い声混じりに眉間に口付ける。
 「セェト。」
 浮いた背中の下に腕をまわし。上体をあわせれば、呼吸が一拍ばかり跳ね上がって。あーあ、かぁわいいってのに。
 跳ねた吐息にあわせるように、緩やかに呼吸にあわせていだ内が締め付けてきて、わらうどこの場合じゃなくなる。
 
 じわり、と腰を揺らし。
 滑らかな包み込まれる感触に鼓動が競りあがった。
 「んっ、」
 あ、王子の御目覚めか?
 く、と腰を引き上げさせた。
 「起きた……?」
 「あ、んっ、」
 
 とろん、とした蒼を覗き込む。
 濡れた熱をすべての角度で味わう。
 「…こ、ぉ…?」
 びくん、とまた腰が跳ねていた。それを両手で捕まえる。そっと、でもきっちり、と。
 蕩け出しそうな声だ、と。キャラメルファッジ並み。
 思った。
 「なぁん?」
 お返しに、好きだよ、と表情で戻す。
 「た、りな、か、た…?」
 
 うかせていた上体を戻し。
 カオを近づける。
 「イエス。おれはね?」
 する、とダンサァの優雅さでしかありえない、そんな動きで。頬を撫でられた。
 わらう。
 「おれは、さ。慢性、セト不足」
 ダーリン、ベイビイ。なんてこった。
 
 
 
 
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