ちゃぽ、と水音が耳元から聞こえてきた。
そして、僅かな浮遊感…肉体の。
体の内にあったどろどろに蕩けたものは無くなっていて。
受け入れていた名残だけが、奇妙に際立って残っていた。
「…ん、」
息を吐いてから目を開けた。
明るい人工の色、ここは……ああ、ホテルのバス…。
ツキン、と掌が痛んだ。
「…っ、」
僅かに息を呑む。
それを無視して、すい、と視線をずらした。
オレを支える熱、オレを見詰める瞳。
「…−ザ、」
ああ、掠れた声だなあ、オレ…。
微妙に水面あたりにある肩を、やさしくコーザに撫でられた。
「…オマエ、噛みグセ悪すぎ……、」
笑いながら音にする言葉。
「ン?」
目がきらん、としていた、コーザの。
ちゃぷ、と音を立てて、片手を水から上げた。
掌、赤い痕。
ゆっくりとそれに舌を這わせてから口付けた。
「…すげえ、くっきり、な」
するり、と濡れた腕を掌で味わうように滑らされて微笑む。
「衝動、だってさ、セト」
「…んー…?」
「あンた、とんでもねぇゴチソウ、」
する、と目元で笑ったオトコに、にぃ、と口端を吊り上げてみせた。
「でも、痛かったね?悪い、」
タブの向こう側から身を乗り出したオトコが、髪に口付けてきた。
赤い痕が残る手を、そのままオトコの頬に滑らせる。
「……それだけ夢中だった、ってコトだろ、」
「あァ、そう」
甘い声に、さらに笑う。
「なら、いいさ、」
ゆっくりと上体を水の中で起こした。
すい、と腕を前に差し出された。
「いいよ、」
甘い声が言葉を紡ぐ。
「噛み返してみる?」
すう、と笑ったオトコに肩頬を吊り上げる。
「…じゃ、エンリョなく、」
すい、と片手でその腕を押さえ。
手首の腱の上、血管が浮いたその場所を、軽く歯で挟み、それからそのままそれに舌を這わせた。
ちゅる、と吸い上げる、痕を残すこともなく。
じい、と目線は琥珀に合わせたまま。
蕩けた眼差しが、あいしているよ、と言っていた。
狂おしい光、雄弁に感情を告げてくる。
笑って、眼を閉じて。
青く浮き上がったラインの上を下唇で辿った。
ゆるゆると掌の方に戻りながら啄み、手首の付け根をそっと吸い上げた。
それから、腕から顔を遠ざけ、ゆっくりと掌をオトコの頬に近づけ、捉え。
身を乗り出して、口付ける。
唇、柔らかく啄んで。
アイシテルヨ、と吐息だけで告げた。
する、と耳の後ろに指を滑らせ。
もっと端整な顔を引き寄せる。
「セト、」
囁き声、返ってくる。
唇、啄み返されて笑った。
「愛してくれて、アリガトウ、」
本気で、湧き上がる狂気も、隠しすぎることのないままに。
オマエがオレの守護犬だってンなら…多少の噛みクセはしょうがない、か?
「許してくれて、ウレシイ」
言葉が囁かれるのと同時に、目がすう、と細められているのが見えた。
「…のぼせそうだ、」
見詰めたまま、笑うと。
「齧っちまったの、ハジメテだけどね、」
チョットした告白、といった具合に囁きが落とされて。
ちゅ、と頬に口付けられた。
そしてすい、と抱き上げられ、タブの中に立たせられる。
「…ふぁ、」
深い息を吐いて、アタマをクリアにした。
すい、とバスタオルで包まれる感触。
そのまま、オトコの腕の中へ。
「逆上せた…?」
「ン…ちっとな、」
やさしい低い声に、笑う。
「けど、お湯よりも、オマエの愛情に、」
間近でウィンクを一つ。
「そりゃ、光栄」
「ふふ、」
小さく笑うと。
「ちょっと捉ってて、」
落とされた囁き。
素直に首に腕を回して捉っていると。
片手、後ろの方に伸ばして、なにかごそごそとしていた。
かつ、と金属が大理石のカウンタートップにあたる音が湯気でくぐもった空間に僅かに響き。
すい、と抱き上げられて、バスタブの外へと下ろされた。
「あ、片足。オレに掛けられる?」
訊かれて、どういう風にかけるんだ、と問い直した。
「やれといわれれば、オマエの肩に足首預けられるぞ?」
に、と笑う。
「うわお。あー、けど……あンた辛いかもよ?」
「そうか?」
楽しそうな声が、明らかにそうしろ、と言っていた。
「ジョウダンだよ、ダーリン」
笑いながら、すい、と折った足を、オトコの腰の後ろに回した。
「ちぇー」
笑って、コーザが肩口に唇を落としてきた。
片手を、すう、と背中側に差し入れてきた。
「…んん?」
さらに笑ったまま、オトコの肩口に口付けた。
熱った奥、オトコを受け入れていた場所を。
なにかに潤った指先が、さら、と撫でていった。
つ、と襞に乗せて、ゆっくりと塗り拡げられていく。ゆっくりと。
「あ、ァ…、」
吐息混じりの声。
びくびく、と腰が揺れる。
く、と肩口を吸い上げられて、ぐ、とオトコの後ろに回した足で、オトコの腰を引き寄せた。
一旦手が引いていって。
また指先が何かを掬って戻ってきていた。
「…ん、ン」
襞にゆっくりと塗拡げられていく。
そしてくう、と指先が潜ってきた。
「…ああああ、」
熱い息を、オトコの肌に零す。
掠れた、嬌声紛いの吐息。
薄い内と外の境界を丸く辿り、それからまた指先が潜り込んできた。
意図せず、く、と締め付けて、また息が少し上がった。
耳元、口付けられる。
内側、そろりとなぞって。
「まだ、アツイね、」
耳に直に声を落とされた。
「…オ、マエが、あ、つく、した…、」
笑って吐息に乗せる。
くう、と収縮するのを楽しんでいるみたいに、指が引き出されていって、ぞくぞくぞく、と快楽が背中を上っていく感覚に
目を閉じた。
またクリームらしきものを掬い取った指先が、今度は少しだけ深く戻ってきて、回した腕に力をこめて抱きついた。
「あ………、」
満遍なく塗り込まれていく。
とろりと緩くなったクリームが内に溶け込んで馴染んでいく感触に、小刻みに身体が揺れた。
時々押し広げてくる度に、ぎゅう、と締め付けて悪戯を諌めたけれど…。
体力、ないけれど。
もっと、と言ってしまいそうだ……。
「セェト、」
「は…、」
とろとろに甘い声が耳元で囁いていた。
耳朶をくちゅ、と含まれて、また震えた。
「………コ、ォザ、」
く、と奥の点を指の腹で触れられて、腰が揺れた。
じわ、と緩く押し撫でられて、唇をキツク噛んだ。
「…ん、ふ、」
それでも漏れる声。
耳朶から唇がずれてきて、唇、舌先で触れられた。
「んん、」
その舌先を掬い挙げ、吸い上げた。
とろりと混ぜて、舌を絡ませる。
指先を、思い切り締め付けて。
「んー…、」
絡む舌を吸い上げ、背中に爪を立てた。
く、く、と蠢く指に、吸い上げている舌に歯を立てた。
ぐらぐら、と片足で立っているだけに、強い快楽はすこし辛くて。
片腕で強く抱きしめられて、吐息。
ちゅ、と少し乱暴に口付けを解いて、目を開けた。
「コォ…ザ、もぅ、」
指先でポイントを弾くようにして、ゆっくりと引き出されていった。
その感触に、体が跳ねる。
身体、強く抱きとめられて、足を下ろした。
ぎゅう、と抱きついたまま、再燃した熱が落ち着くのを待つ。
「アフターケア、オシマイ」
声に、笑って肩口に噛み付いた。
それをそっと浮かせると、顔中にキスが降らされて、また少し笑った。
「…オ、マエ、煽る、の上手すぎ…」
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