気持の何処かが繋がって溶け合ったようなまま、シエスタ、ずいぶん遅めだけどね、それを決め込んだ。
柔らかな熱が、身体の間の僅かな隙間を埋めていき、目を閉じて思った。
幸せダ、と。
眠りに落ちる直前にセトが漏らしていた言葉、それがそのままに代弁する。
緩やかに上下する背に、緩く預けた腕をすこしばかり引き寄せた。
穏かな、静かな。繰り返される呼吸に意識が緩んでくる。

目閉じようとした直前、回されていた腕が僅かにおれを抱いてくる力を増してきた。
うすくわらって、目を閉じる。
良い意味でポジションの取り合いをしなくなったらなら、コイビトじゃなくなるんだってさ?セト。
以前、どこかで聞いたことを思い出す。

「ずっとコイビトなんだろうな…?」
く、と髪にハナサキを埋めて、言葉に乗せた。
聴こえていないだろうに、セトが自分の足をおれの足に絡ませてきて、またちいさく笑った。
「セエト、」
囁き声。
ぴくん、と。指先がかすかに跳ねたみたいだ。聴こえてるみたいだね、あンたの夢の中でもさ?

両腕に、眠ったせいでくたりと重みを増した身体を抱き寄せて。
響いてくる心音に意識を添わせる。
あぁ、そうか、と。
眠り込む直前に意識が一瞬、クリアになった。

セト…?
あンたと眠るたびに、目が覚めたら生まれ変わってるわけだ、おれは。
あーあ、そうしたなら。
そう遠くない先に、ありえないくらい幸せそうな面したハンザイシャが出来上がっちまうよ…?
マイッタね。



する、と眠気が遠のいた。
ふ、と意識が浮いて、目を開いた。
腕の重みに意識がいく前に、視界に飛び込んできたものに思わず笑みを浮べた。
ダイスキなコーザの、ショウネンのような寝顔。

ああ、オマエ、満ち足りてくれてるんだ。
底無しに湧き上がる愛情。
安心、してくれてるんだ。
額や瞼に口付けたい衝動を抑える。

すっきりと整った顔貌。
すい、と引かれた眉に走る、一本の疵痕。
長い砂色の睫毛は、閉じていると安心しきったコドモみたいで。
いとしくなる。

す、と通った鼻筋は真っ直ぐで。
閉じられた唇は、僅かに笑みを湛えているみたいで。
いつもはすっきりと上げられている砂色の髪が、はらりと垂れて額を隠していて。
コーザと、今まで何度か一緒に眠ってきたけれど。
無防備どころか、寝ているコーザの顔を、こんなにじっくりと見るのはハジメテで。

額にキスしたい。
唇に齧り付きたい。
鼻先をぺろんと舐めたい。
瞼に唇を滑らせたい。
疵痕に、口付けを落としたい。
ヨクジョウというよりは、湧き上がるアイジョウ。
手を伸ばして愛しみたいのを、辛うじて抑える。

静かに聴こえてくる寝息は、ほとんど聞き取れないくらいで。
普段は、このオトコの生業について考えることはないけれど。
野生動物に近かった弟の寝姿を思い出して、このオトコもそういった面があるのだと、改めて思い至った。

信頼してくれていいよ、コーザ。
視線が邪魔にならないように、目を閉じる。
オマエを裏切らないから、オレは。
心の中で語りかける。
オマエのくれたアイジョウは、みんなキレイなモノに変えて、舞台から宙へと還してやるから。
思い切り、愛してくれよ。
オマエがなんであろうと、何を抱えていようと。
オレはオマエを愛するし、オマエに愛されること、躊躇しないから。

くう、とくっ付いてきた身体に、そうっと腕を回す。
額に唇を押し当てて、身体をリラックスさせる。
穏やかな愛情、激しい欲情。
寄せられる想いの深さに、シアワセになった。

ふ、と長い息を吐いていた。
ああ、ここでオマエの髪、梳いてたら目覚めちまうよな、オマエ。
弟が飼っていた犬を思い出した。
エマ、あのコも、サンジが抱きしめて寝ていると、こんな風に全部預けきって眠っていたっけ。
ええと、サンジはどうしてたっけな?
ああ、そうか…。

「…あいしてるよ、コーザ」
そうっと吐息に囁きを混ぜて、本当に触れているのがオレだということを知らせながら、そうっと髪に手を伸ばした。
さら、と梳いてみる。
……お。起きねェな、よしよし。

触れる度に思う、質の良い髪だね、オマエ。
柔らかい手触り、心地良い触り心地。
血統書付き、オマエ?

ふにゃ、と寝たまま笑ったのが、気配でわかった。
額に唇を押し当てたまま、髪を梳く。
さらり、さらり。
腕の中に眠る、オレの最愛の人。
オトコだろうがマフィアだろうが。
それがどうした、オレはオマエに夢中なんだ。

こぽこぽと甘い感情ばかりが湧きあがって、自分でも笑える。
ああ、ホントに。振ったシャンペンどころのハナシじゃねーぞ、コーザ?
砂糖水の温泉ってのがあったら、ソレだね。
や、でも砂糖水ってカンジじゃないんだよなあ。甘いこた甘いんだけどなぁ。
もっと、軽く甘いモノ。
―――――例えば、甘い花の蜜のような。

さらさら、と髪が滑り落ちていく感触に、うっとりとなってるのが自分でも解る。
甘い優しい気分、嵐のようじゃなく、じわ、と染み出すみたいに湧き上がる、どこまでも終わることなく。
ひどく小さい声が、溶けそうに幸せそうな声で呟いた。
「―――せと、」
Yes, my darling,
ふわふわと湧き上がるアイジョウ、形にできるならピンクの花弁にして降らせてみたいような。

「Darling, Coza, you're my love for life,」
コーザ、オマエがオレの最愛だ、一生。
「I love you, sweet,」
オマエを愛してるよ。

ああ、悪い。
オマエを起こすと思う。
堪らなくなって、口付けを落とす。
前髪が散った額。
眉の上、疵痕、ちょっぴり舌を這わせて。
瞼の上、ゆっくりと唇を押し当てて、目尻、ちゅ、と音を立ててみた。

ぴく、と瞼が動いた。
ああ、起きちまう、オマエ?
頬骨の上に唇を滑らせて。
まだ眠りにいるのが見て取れた。

頬の上、いくつも口付けて辿って。
鼻先、ちゅ、と少しだけ吸い上げて。
反対側、頬をするすると唇で滑り降りて。
唇の端、ゆっくりと唇を押し当てた。

相当深く眠っていたのか、まだ目覚める気配はなくて。
「Darling, I think I'm just all crazy for you」
オレ、オマエに心底惚れまくってるみたいだ、
髪に手を滑らせ、唇に触れ合わせながらコトバを落とす。

もしかしたら。
ティーンエイジャの頃よりも純粋なキモチで、オマエに恋しているのかもしれない。
欲情をありのまま理解し、感情の質とか揺れとか、そういうことを全部解った上で。
それでも、ここまで深くオマエを愛してるってことは。

「You're the one, baby」
オマエ、なんだな、コーザ。
運命だろうがなんだろうが、そんなものはどうでもイイ。
オマエが、オレの、なんだな、コーザ。

口許がわずかに、ぴく、としていた。
宥めるようにゆっくりと口付けて。
そうっと囁く。
「アリガトウな、コーザ」
オレを見つけてくれて。
オレを愛してくれて。
オレを目覚めさせてくれて。
オレに愛させてくれて。
「心の底から、愛しているよ」




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