眠りのなかで、夢とは違ってそれでも何かを感じていた。
ぼんやりと表層に浮き上がりかける意識が弛緩しきって、体温と同じだけの水に浸かっているかと思う。
このまま起きたくねぇなぁ、と思う、ってことは。そろそろこの気分の良いアタマの緩み具合もオシマイ。
なにかが触れている、伝わる。
空気を揺らして、穏かな熱を溶かし込んでひどくあたたかく、気持良いもの。
言葉よりさきにそれの持つ意味が、すう、と溶け込んでいく。
タオヤカな手、触れる唇の僅かな熱と。
何かと重なる、一瞬。なくしたものと、一度は手に入れたかと思ったもの。けれど、すぐにまたそれは溶けていった。
―――――セト、
意識が模られる。
理解しないいまま、音を捉えてひどく充たされたような気がした。
望むままにすぐ側にある穏かな温もりに腕をまわす。
長く、息が零れていった。齎される温かな音の連なりが何かを解かしていき、ふ、と。身体が内側から軽くなったかと思う。
触れてくる、滑らかなままに落とされる―――あぁ、わかった。これは、セトだ。
目元に柔らかな唇がそうっと触れてきたときに半ば眠り込んでいた意識がゆっくりと冴えていった。
これだけのアイジョウを寄越してくれるのは一人だけだ、イトオシイモノ。
いくら愛しても、足りやしない。
「――――セト…?」
「起きちゃった?」
目を閉じたまま、ふわり、と空気に溶け入る声を味わった。
あぁ、それ。つかまえて喰っちまえたならどれくらい甘いんだろう?
考えに、勝手に笑いカオになりかける。
一瞬、瞼に力を入れてから目を開けた。
「気持がよかった、」
「ウン、」
ふわり、と砂糖菓子めいたあまさの笑みが間近にあり、見惚れていたなら、目元に口付けられた。
「…せと、」
「…んー?」
あーあ、声がまだ寝惚けてンな、おれ。
あんまり気持が良すぎて、頭も緩んでるぞ。
笑ったまま、セトがハナサキにも唇を落としていった。んー、なんか愉しそうだね?あンた。
とんとん、と。額、眉の上、また目尻にも軽く音をたてるみたいにしてキスされた。
んんんん……?
ばらけて落ちかかる前髪の間から、とろとろに蕩けた薄いアイスブルーを見つめる。
「セェト…?」
「んー?」
きらきらと、瞳が。アイシテル、カワイイ、ダイスキ、を繰り返し繰り返し言葉にすることなく告げていて。
真ん中のはイタダケナイヨ、と。ちらりと性懲りもなくまた思ったけれど。セトが途方もなく嬉しそうにしていて、だから黙り込む。
すう、と目を細めて、笑って返して。
頬に落ちてきた唇を享受した。
溜め息が出るくらい、気分がイイな。……参るよ。
セトの指が不意に視界に入り込んできて、さらさらと前髪を掻き上げていった。
お、視界が。やっとこれでクリア。
「――――――起きたよ、」
笑いかけてみる。
「起こしちゃった?」
ちゅ、とわらいだしたいくらいコドモめいた口付けを唇にされて、また再確認する。
愛している、の最上級は。おれのコイビトの名前に違いない。
「セト、」
「ン?」
「あまやかしてくれ、」
ふわふわと、羽根がちるほどにあまいセトの声に。返した。
おれはね、セト?
あンたがおれのどういう表情(カオ)がスキか、結構知ってると思うぜ?
あーあ。
オマエ、そのうち押し倒されても知らねェぞ?
甘えた仔犬みたいな顔をしたオトコの額に、額を押し当てる。
ああ、いっそ。いまやっちまうか。
体重をかけて、ソファに押し倒した。
見下ろして、笑う。
「愛してるよ、コーザ」
髪を再度掻き上げて、額に口付け。
「ん、」
のんびりと応えたコーザが、にこお、と笑った。
ああ、クッチマイテェ。
ぱくん、と全部。
全部食って、腹ン中で抱えてみてぇ。
ああ、ケドそれじゃハハオヤになっちまうか?
眉を途切れさせる疵痕にゆっくりと触れる。
ぺろり、と舐めてから、目尻に口付けた。
ハナサキで頬を愛撫して、僅かにくすぐったそうな顔をしたオトコを愛しむ。
そうっと耳まで唇を滑らせて。
「あんなにオマエを喰ったのに、もっと欲しい、」
耳に囁きを落とし込む。
「オマエのこと、クイツクシチマイテェ」
ぺろり、と耳朶に舌を躍らせた。
腕、伸ばされて。シャツを着た肩を撫でられた。
「なぁ、一生満たして、オレのコト、」
耳たぶに歯を立てる。
「誓ってもいいよ…?」
少し笑いを乗せた声に笑う。
「誓え、」
オレもオマエに誓うから。
きゅ、と耳朶を吸い上げてから、上体を起こした。
真上から、見下ろす。
アイジョウと狂おしさを綯い交ぜにした色を浮べたキャッツアイを。
狂おしい、イトオシイ、欲情する、欲情以上に愛する。
「誓うよ、」
じい、と熱情を底に湛えた目が見つめてきて、コトバを音にしていった。
すい、と指先に口付け、その指でオレの唇を滑るように撫でた。
Christ, you make me fall madly in love with you.
あークソ、オマエはオレに狂ったみたいに恋をさせる。
「セト、あンたを充たして、愛して。生きることを誰よりも、セト。あンたに誓う、」
あー…、
告げられた言葉に、目を一瞬閉じる。
反芻する間もなく感じたことを、そのままコトバにする。
「今、頭上でファンファーレ聴こえた、」
感動?感動してる?
「すげえ、いま震えた、」
魂が揺さぶられたみたいだ。
あーあ、クソ。
泣けてきた。
悪い、泣くぞ、オレは。
「Are we in a ninth heaven, darling?」
おれたち、いま至福ってヤツ?
すう、と笑ったオトコの頬に、とつ、と涙を落とした。
「Don't know, but we're so damn happy,」
わかんねーけど。シンジランナイくらい、シアワセだな、オレたち。
すい、と片方の頬、掌で包まれた。
大きな手、暖かい熱、優しい手触り、オマエの…。
「こぉざ、」
ああ、なんだろうね、涙止まんねェや。
「なに、」
優しい声に微笑みかける。
「I'm just so happy, I think I can't stop cryin'」
幸せすぎて、泣き止めない。
指が、次から次から零れ落ちていく涙を拭っていく。
踊ってたって、こんな至福、味わえたことはない。
く、と頭ごと引き寄せられて、目元に口付けられた。
目を閉じて、また雫を落とす。
「これ、おれのだろ」
甘い声、愛情に溢れているとトーンだけで解るそれに、微笑んで応える。
「全部オマエのだ、」
吸い取られていく感触がくすぐったくて、笑う。
笑いながら、また泣けてくる。
涙腺、壊れたみたいに。
「海の味がしない。」
きゅうう、と背中を抱きしめられて、からかうようなトーンで囁かれた。
しょっぱくない、ってことか?
「あまい、水の味がする」
「That's because that is what I'm filled with now,」
それはオレが、いまそれで満たされているからだよ。
すう、と頬に滑らされる唇の感覚を、目を閉じて追いながら囁き返す。
「And it's all for you、」
全部、オマエの。
オマエがオレの中に満たしたもの、満たさせたもの。
甘く優しい感情、砂糖水より軽く、やさしく甘い。
花の蜜、もしくは果汁。
楽屋で、オマエに言った言葉。
奇跡の果物、何度でもオマエの唇を濡らす、と。
あの時以上に本気だ。
オレから出る甘いものは、みんなオマエにやるよ、コーザ。
「I'm all for you,」
オレは全部、オマエのもの。
「I know, you only get this kind of feeling once in a lifetime, and I'm the luckiest one, I know」
そうっと告げられるコトバ。
しってるよ、そんなキモチになるのは人生に一度あるかないかだって。おれはすごく運がイイってこともね。
「You're the love of my life, Coza」
オマエを一生愛するよ、コーザ。
目を見詰めて、一語一語、思いを込めて告げる。
「I've never felt this sure in my life,」
こんなに確かに感じたことはいままでにない。
「And I thank you, for letting me realize that」
自覚させてくれたオマエに、オレは感謝するよ。
「I'll love you for life,」
一生、愛するよ。
「Take me as you wish, 'cause I'm all yours」
おれはぜんぶあンたのだから。あンたのすきにしていいよ。
そう告げられて、頬に口付けられた。
上体を下ろして、コーザの首筋に顔を埋めた。
頭を掻き抱いて、愛しむ。
「I will」
オマエのぜんぶ、オレは貰う。
「I will, darling」
大切にするよ、オマエを。
「I pledge to live for you. and to love you」
あンたを愛したいから、あンたのために生きるって誓うよ。
そうっと返された言葉に顔を上げて、目を見詰めて。
そうっと唇に口付けた。
キラキラと煌く目、見詰めたまま唇を合わせる。
「溺れそうだネ、」
くう、と目を細めて言ったコーザに笑いかける。
「もう溺れてる、」
そうっと唇を啄んで、目を閉じた。
力強く背中を抱かれて、また笑った。
コトバもないくらいに、オマエにオレの愛を。
コーザが笑って囁いてきた。
「海賊で、王子で、おれのガーディアンアンジェルが溺れちまうの?いいね、それ」
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