キーン、と鳴り響いていた耳鳴りが遠のき。
荒く息を繰り返していることに気付いた。
心臓が激しく鼓動を刻み、沸点に到達したようだった身体から、ゆっくりと熱が引き始める。
柔らかく項に唇を押し当てられ、残っていた快楽が僅かに揺れた。
「ふ、ぅ…、」
いくつもの閃光に目くらましを食らっていたようだった思考も、漸く正常に戻り始める。
もう一度、項に柔らかな熱の感触。
ゆっくりと引き出されていく未だ硬さが失われていないソレに、快楽の名残が僅かに煽られる。
「…んンっ、」
ぶる、と身体が勝手に震えた。
濡れた音に、苦笑を刻む。
すう、と脇腹を撫でられた。
背中の真ん中に、ちゅ、と音を立てて口付けられた。
「は、」
笑う。
あー…オレってば素質あったンだねえ?
自分のものを握っていたコーザが、手をゆっくりと放していった。
背後で、ぺちゃり、と濡れた音。
「ハハ、」
笑う、あー…下にローブ敷いておいてよかったなァ?
濡れたローブの隣にゆっくりと身体を倒した。
横向きになって、目を閉じる。
「キモチヨカッター、」
すう、と引いていく快楽と同時に息も落ち着いて。
囁くように言葉を音にすると、コーザが笑う声が聴こえた。
目をうっすらと開けて、目線だけをオトコに合わせる。
「ソイツはナニヨリ、」
すい、とコーザの唇がクローズアップになり、トン、と額にキスを落とされた。
「なぁんか、蕩けた、」
笑って感想を述べる。
ウン、確かに熱でドロドロに溶けた気がする。
「ウマカッタヨ」
美味かった?上手かった?甘かった?巧かった?
や、最後のはありえねーだろ、いくらなんでも。
笑いかける。
さらさら、と髪を撫でられて、その心地良さにうっとりと目を細める。
「セト、」
ドロドロの肉体、汗が引いて、ゆっくりとその容を思い出す。
優しい声だね、オマエ。
とろん、と嬉しくなる。
「な、に?」
「バス連れて行こうか、」
さら、と髪から耳元まで指先が触れていった。
くすぐったさに、僅かに身を捩る。
「ンン、まだもーちょっと、このままでいたい…、」
甘さが沈殿して、身体にしっかりと力が戻るまではさ?
さらさら、とコーザの指が頬を撫でていき。
「そ?」
そう言葉を紡いだ。
「ん、」
小さく頷いて、目を閉じる。
快楽で蜂蜜壷に変身していた体は、まだまだ安定が必要みたいだヨ。
ちゅ、と目元に口付けられて、ふふ、と吐息だけで笑った。
あー、愛されてるんだねえ、オレ。
甘い自覚、もう何度目かの。
つ、と背中を、まだ熱い掌が辿っていく感触。
さらさら、と気持ちがイイなあ。
オマエの手の感触、スキだよオレは。
「外でディナーでも食おう、」
頬に柔らかく口付けられる感触。
ああ、そっか。
オレはともかく、オマエはもっとしっかり食わないとナ?
「…先、お風呂入って?」
オレはもーちょっと、余韻に浸るからサ。
コーザがゆっくりと身体を起こし。
ヒタヒタ、とカーペットを歩いていく音。
ん、方向はベッドルーム?
帰ってきて、はさん、とブランケットをかけられた。
んん、やさしーね、オマエ。
目を閉じたまま、くう、と口端を吊り上げ、感謝の気持ち。
ああ、オレはいいオトコを手に入れたんだなあ、とまた嬉しくなる。
「イイコデナ」
「ぷっ、」
イイコでなあ、ってな、オマエ。
オマエより、5つもオニーサンなんだぞ、オレは。
それでも甘い声に、愛しさだけが募る。
く、と喉奥で笑ったコーザが、すい、と遠のく気配。
ん、先にバスルームに行ったのかな?
静かな部屋、フロアに伸びてブランケットに包まっていると。
すい、と意識が薄まり始めた。
まるで、舞台最終日みたいに。
んん…あー…ちっと寝たい…。
「あ、喉渇いた、」
バスタオルを頭から被って、ふい、と思い出した。
リヴィングからは、まだなんの音も聞こえてきていなかった。あぁ、まだ寝てるのかな、もしかすると。
確かに、こっちへ来る前にはセトは半ば眠り込みかけていた。
くったりと弛緩した身体がそれでもキレイだったけれど。
バスルームを抜けて、まだ静かな気配のリヴィングを抜けずに。そのまま廊下を通ってキッチン側に出た。
無駄に広い作りで、意味がわかりかねるな、と思っていたけれど。
なぁるほどね、変なところが便利だ。一々メインの部屋を抜ける必要が無い。
バーカウンターの下、備え付けのフリッジを開けた。中には、あぁ、フルーツと水と…ン?
「ハハ!カルーさんの御使いじゃねぇの」
思わず軽口が出る。
セトが作っていたんだろうな、と。ガラスのピッチャーを取り出した。
多分、レモンとハチミツと―――水、だよなあ?
少しばかり、グラスに注いで味見した。
ふうん、シンプルで美味いね。あー、けど。
おれにはちょっとだけ健康的過ぎ。アルコール入れたいかもな、やっぱり。
とりあえず、それをもってリヴィングに戻った。
目が覚めたならなにはともあれヴィタミン補給しそうなおーじさまがいらっしゃるんで。
すい、とキッチンからリヴィングを覗いてみても。
ロウテーブルより上に覗いている姿はなし。
あぁ、じゃあまだ。横になったままか?
腕の中で、柔らかく溶けていっていた。
全身を委ねられて。ウン、キモチヨカッタヨネ。
足音をことさら消さなくても、音は吸い込まれていくけれどもまあこれも習性なのでしょうがない。
ゆっくりとリヴィングに戻った。
あー、いた。
フロアに長く身体を伸ばして、うつ伏せに。
脚先と、背中から上がブランケットからすんなりと伸びていた。
僅かに離れたロウテーブルにピッチャーとグラスを置いた。
腕に顔を埋めてたから、身体を折って後ろ頭に指先で触れた。
「…ねてる?」
「…起きてる、」
ん?
寝惚けてないみたいだね。
くしゃり、とまた髪を指で乱せば。すい、と顔を上げていた。齎されるのはふにゃり、とどこかあまい笑顔。
「あンたが作り置きしてたの、持ってきたよ」
「あ、うれしぃ、」
さらさら、とそのまま髪をまた撫でた。
「起きれる?」
「うん、」
グラスに注いで、渡す。
「ドオゾ、」
「ん、」
そのまま、ソファに座って。ゆっくりとグラスを飲み干していくセトを眺めていた。
ぺたり、とフロアに座り込んでまるっきり……あぁ、コドモみたいな?
そんなことを、上下する喉元をなんとはなしに眺めて思った。
すう、と最後の雫がつるりと消えていき。セトがすい、と見遣ってきた。んん?
おーい、セト。おれは標本かよ?なぁんだその顔。
口を開きかけたなら、セトが飲み干したグラスをフロアに置いて、すいと小首を傾けていた。
にこお、上機嫌な笑みが乗せられているけれども。
膝をついたままで、手までフロアに落としていた。んんんん?
四足ですか?なーかなか、どころか。
とてつもなく色っぽいけど?
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