思わず、セトの喉元に掌で触れた。
「んー?」
「ンー???」
「いま、ごろごろ、って言わなかった?あンた」
くすくすと小さな笑いを零しているセトに言った。
「ええええ?聴こえちった?」
なーんてな、とけろ、っと言ってのけたビジンに返した。
「あー、ヤッパリ?」
「うーわ!!オッマエなあ!!」

ケラケラと本格的に笑い出したセトを見つめた。
きらきらと上機嫌でキレイナ色の空気を纏ってる。
「濃い緑のなかのあンたはキレイだろうね、」
ふい、と勝手に思っていたことが言葉になった。
「ンー?」
甘い声だ。
それが返される。

「スコールで湿った空気のなかで、濡れた草の上を裸足で歩いて。きっとキレイだネ」
ふわり、と柔らかな笑みを浮かべたままでセトが目をあわせていた。
「オマエと一緒なら、きっとずっと笑ってるよオレは」
「偶には雨の音でも聞きながら、東屋(サーラ)で抱き合ってよう」
「それ、イイな」
見惚れるほどの笑みに、うっすらと艶めいた表情がゆっくりと被さっていく。
キモチイイだろうなあ、と。

「あぁ。だけどさ、」
「ンー?」
ゆっくりと目元を覗き込んだ。
「窓のしたから聞こえる潮騒、ってのも。なかなかイイぜ?」
「……まずはそれから、だな?」
「First thing first?」
「Yep, first thing first」
まずは出来ることから、セトの得意なセリフを返して。
だな、やることからやンねーとな。
――――相変らずの、庶民派王子さまの口調にわらった。
あーあ、せぇと。
そのギャップはまったく―――――すげぇスキだよ?
柔らかな笑み、それから戸惑うほどに柔らかい、軽い口付けを送って寄越すかね?そのセリフのアトデさ?

「せぇと、」
く、と両腕に抱きしめた。
同じほどの力で返され。耳もと、ぺろ、と濡れた温かさが触れてくる。
「あンたのカオ見ちまうとね、」
「…ん?」
2ヶ月がたった2日だった気もしてくるよ、と。
会えない日のことをバラシタ。

「……いっぱい、埋めあおうな………?」
ふわり、と。あまく掠れた声が届く。
もちろん、おれに異存があるはずないよ?
「なあ、そろそろ。風も冷えてきたし。家もどろう……?」



「だな。あっつくなるのは、ちとココは風当たりキツイかな?」
笑って口付けてから、するりと膝から降りる。
「シャワー、いっしょに浴びるかー?」
にっこりと笑ったコーザが、す、と立ち上がった。
手を差し出す。
「繋ぐか?」
ガキみたいに夢中になってるレンアイ。
楽しいでないの。

にひゃ、と笑うと、コーザもはは、っと小さく笑っていた。
「思い出すなぁ、」
「I wanna hold Coza's hand、」
目がきらきらと輝いているコーザに、わざと子供じみた口調で告げる。
ボクはコーザの手を握りたいの、と。

ちょいちょい、と手招きされた。
なぁんだよ、おーてーてーつーないでー、じゃ足ンねーか?
招かれるままに近づく。
小首を傾げて覗き込む。
笑顔、始終、途切れる事無く。

ぱ、と手を握られ。そのまま横抱きみたいにされて、あっという間に砂浜に半分寝そべる。繋いだままの手を、埋められる。
「こうやって、波待ちしてた、」
にこお、とガキみたいにコーザが笑って、音を立ててキス。
「おーや、スリル万点で心臓ばくばくイッチャイソウだねぇ?」
ユングだっけか、フロイトだっけか?吊橋のセオリィ。

コーザがくくっと笑って、もう一度キスをされる。
「でも今なら別の波の方がいいね?」
「勿論、伊達にオトナじゃねえし?」
「ふっくくっ、」
ソウダネ、もうオトナなんだよねえ?
「じゃあオトナの遊びを、いっぱいしよう、」
すい、と起き上がり、軽々とオレを抱き起こし。パタパタと砂を払ってくるオトコに笑いかける。

「本気で、遊び」
「Of course, dead serious! That's why we end up in paradise, huh?」
もっちろん、死ぬほどシンケン。だからオレタチ、天国までイッちまうンだろ?
「Yes, ever and ever and ever,」
そう、いつだって、ずっと、いつまでも。
返された言葉。ああ、そうだね。ずっと、何度も、繰り返し。
「I could tell the whole world I'm in love with you, darling Coza」
オレはオマエを愛してるって、世界に触れて回れちまうよ。
笑って手を引いた。
せっかちなおーじさま?ふふン、もう充分知ってるクセに。

「なーなー、ダーリン?」
嬉しそうに笑っているコーザを見上げながら、砂浜を歩き出す。
海も、砂も、もうオナカイッパイ。
あとはこのオトコを、満杯まで喰うダケ。
「なん?」
「クリスマス、オマエ、何時頃来れそう?イヴの前には来てる?」
柔らかい声に、同じくらいに柔らかい声で訊く。
「初日はいつ、」
「22」
3日間だけの公演。

「最終日は?」
「イヴで最終。全部同じ演目だよ。クリスマス・ガーラ」
「カンパニのパーティはあるんだ?」
「残念ながら。でも1時間以内に消えよう?」
笑いかける。
「じゃあ、今年サイショでサイゴ。初日から行くよ」
「オーライ、それでこそ、マイ・ダーリンだ!」
にっこりと笑ったオトコの腕をトン、っと肩で触れる。

「せいぜいセトの着せ替え人形になってやろうか?」
からかうオトコに、ケラケラと笑う。
「今年はソロで踊るから。オレがオマエの着せ替え人形かもよ?」
3日間、全部。フルで踊れる。
「パーフェクト」
「ワンダフル、これ以上にないくらいにナ」

崖、上りきって。
でかい屋敷を目指して歩き出す。
木立の間から見えていた全面ガラス張りのモダンな屋敷が、沈みかかっている夕陽の明かりを受けて、
赤く染まっているように見えた。

「先が楽しみだな、コーザ」
「それはきっと、」
「…きっと?」
「セトの在る所為だよ、ありがとう」
優しい低い声が、静かなトーンで告げてきた。
真剣な声、真剣な眼差し。
How wonderful the life is, when I'm with you.
オマエといる時、人生ってヤツはなんてステキなんだろうね。

「Darling,」
呼びかける。
エントランスの前、足を止めて。
「You took my hand, you pushed me up, you done me good, darlin'」
オレの手を取って、舞い上がらせて、生きてこう、って気にさせてくれてるよ、セト。
そう言ったコーザの頬に、すい、と手を当てる。
「Darling, you're more than I ever wanted,」
オマエ以上を、オレは知らない。オマエが最高だよ、ダーリン。
「Come, worm me up, melt me down, let's make love and have a whole lot of fun」
さあ、中に入ろう。オレを暖めて、オレを溶かして。イッパイ愛し合って、一緒に楽しもう?

すう、とコーザが腕を伸ばしてきた。
抱き上げれて、笑いかける。
「基本中の基本。ドアは抱き上げて通るんだよな?」
「そーだね、ダーリン。新婚だもんナ?」
「うーわ、」

笑ってぎゅ、と抱きついた。
ケラケラとコーザも笑っている。
「Darling?」
「yeah?」
ドアが開けられた。内側から。
誰かいるけれど、オレの目の中には、オレを抱くオトコ独り。

「I love you」






FINIITO?



Epilogue
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