9月に入って、大学が再開した。
ゾロと出会って2回目の夏休みは、あっという間に過ぎ去って、いまはコロラド、フォート・コリンズの家に独り。
手許にはレポートの課題と資料本が山積み。
もう4年生だから、仕方のないことだけれど。
ふ、と気付くと、メーラに新着メールが1通あった。
開けてみる。
差出人はセト。
アドレスは、セトのロンドン郊外にある自宅のPCからだった。
目を走らせる。
* ***
日付:September **
件名:Surprise!!
ベイビィ?ニーチャンだよ、元気に勉学に励んでるかい?
実はビッグ…ニュースがあるんだ。ニーチャン、コイビトができた。ハハ、びっくりした?
今度はジョークじゃないよ。契約アイジンのハナシも終了、オレたちの間ではね?
頭の良いベイビィのことだから、相手解るかな。そう、コーザ。オマエのダーリンのキョウダイだ。
ずっとダチでパトロンでアイジンだったけど、今度からはダチでパトロンでコイビト。
レンアイってたのしーな、久し振りにそう思うよ。
くったくたになるまで愛し合ったりなんかして、なぁんかガキみたいに恋してるよ。
運命の網の片端を寄越してくれたオマエとオトウトに大感謝。
おかげでニーチャン幸せダヨ。
オマエ、いま大学だっけ?次にオトウトに会ったらオレの分、ハグ1個、しといてな?
Many thanks with love, Seth
****
「………ええええええ!?」
慌てて頭からメールを読み返す。
去年のクリスマスちょっと前くらいに、セトから『オレ、契約アイジンになりました『ってメール送られてきて。
それには、ものすっごいびっくりしたんだけど。
去年貰ったメールをメーラのフォルダから拾い出す。
* ***
日付:December **
件名:Guess what?
ベイビィ、セトだよ。元気?
オレ、オマエのダーリンのキョウダイとすンげえ仲良いトモダチになったの知ってるよな?
実はな、オレ、契約アイジンになったんだ、アイツの。あっはっは!
アイジンのお仕事って、結構楽しいヨ?そーだ、こないだ一緒に写真撮ったンだ。アイツの部下の一人がさ。
アンドリューほどじゃないケド、結構いい腕前。シュミだったンかなぁ?
まあいーや、出来がいいから送っておく。オマエのダーリンと一緒に見てナ?
With love, Seth
* ***
添付された写真を見る。
白黒の、ちょっと古い映画のポスタァみたいな写真。
それと一緒に、楽屋裏で撮ったのだろう、顔くっつけて笑ってるセトとコーザの、デジタルカメラで撮影された写真。
手書きで書かれているコトバ、"アイジンとオレ"。
うううううんんんんん。
ゾロは。"あれのやりそうなタチの悪いジョークだ"、とかこの時言ってたけど。
そもそも契約アイジンって、アイジンと何が違うんだろう?
アイジンと恋人の違いって…なに?
ああ、でも。
メール、読んでるだけでウキウキしてくる。
うん、よくわかんないけど、セトに恋人が出来たのは嬉しい!
あの気丈な兄貴が、…ああ、もう…4年前だよ、彼女さんと別れたの、そんでもって、すっごい…見るからに
辛そうになってて。
"もう、いい、"って言ってたの…。
"レンアイは、もーしばらくいいや。いつも同じトコでひっかかるしな"って。
その後で、ぽつりと寂しそうな声で、
"プロなんだから…バレエ第一に考えるのがアタリマエってこと、なんで解らねーかね。そんなにオレ、
無理言ってると思うか…?"
ってオレに訊いてきたの…。
コーザって…どんなヒトなんだろう?
そういえば、誰にもマジメに訊いたことないや。
写真、見る限り……楽しい時には楽しいって顔が出来るヒト、ってことしかわからないや。
そんでもって、セトと一緒にいるのを、とても楽しんでるコトってことと。
…………うん。
それが、重要だよね?
二人が一緒にいて、それで楽しくて、嬉しくて、幸せなの。
彼が、セトにとって特別なヒトで。
セトが彼にとって特別なヒトなのであれば。
うん。
幸せって、セト言ってるし。
セトが幸せなら、オレも幸せ。
よし!リプライを書こう!
そのまえに、もう一回読み直して……。
* ***
日付:September **
件名:Wow!! That's Wonderful!!!
セート!!!おめでとう!!!うーわ、セト!!なんか言葉が告げないよ!!
でも兄貴、幸せいっぱいなのよく解る!オレも嬉しいよぅ!
セト、恋人、コーザなんだよね?
兄貴の今までの恋人、オレが知ってるヒトはみんな"グラマラス"なオンナノヒトだったから、ホントにコーザ、特別なんだね!
ステキなヒトに出会えてよかった。兄貴が恋してて幸せなの、オレも嬉しい。
ゾロには今週末会うよ!休みとれたって、昨日電話で言ってた。
金土日とアスペンに行く予定。ハグ、しとくね。追加でキスは?
またメールする、セト、ほんとにオメデトウ!!
Love & happiness, Sanji
* ***
リプライメールを送信して、10分後。
資料の本やノートに埋もれていた携帯電話が、ピルピルピル、と音を立てていた。
番号、…ゾロだ!
「ゾロ!」
返ってくる声、少し遠い。
『―――――挨拶は?』
ああ、そっか!!ごめん、嬉しくて、つい忘れちゃった!
「こんばんは、ゾロ!!」
『フン。上出来』
「電話、嬉しい!!ゾロ、元気?」
『至って普通。オマエはちゃんとしてるかよ、ヒトらしく。』
からかうような、ゾロの口調。
うーわ、オレってばそんなにヒトらしくない?
「モチロン!家でおとなしくしてるよ!さっきまでレポート書いてたんだけど、実はセトからメールが来て!!」
あああ、ゾロ。すっごいニュースなんだよ?
「セトにね、恋人が出来たんだって!しかもね、その相手っていうのが!」
ああ、シンジラレナイよ、コレ。
なんていったって、その相手っていうのが。
『は?』
とても驚いている声のゾロに、自分でも高くなっているというトーンで名前を告げる。
「コーザ、なんだって!!!」
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