ふ、と。身体から力が抜けていく。
さら、と熱を持って自己主張をしていた場所に触れられて、触れてきているのがコーザなのだと。現実なのだ、と理解する。
泣きたくて、悔しくて、寂しくて。
そんな感情でいっぱいいっぱいだった頭の隙間を縫って、ふ、といつものトワレのニオイに気付いた。
少しばかり辛い煙草と、甘い汗のニオイにも。
頬を大きな掌にそうっと包まれて、目を開いた。
に、と。恋人が笑った――――切羽詰っていても、酷く嬉しそうなカオだった。
はむ、と唇を啄ばまれて、背中にしがみ付いていた手を漸く緩める。
「コーザ、」
瞬いてから、琥珀色のキャッツアイを見詰める。
眉のところにある傷跡、細く高い鼻梁、柔らかな砂色の髪。
焦がれていた存在が側に在ることに、漸くアタマが納得する。
さら、と掌が肌を辿っていった。
やさしく啄ばまれ、「ん?」と問い返される。する、と片手を引き下ろされ、捕まえられ。
掌にそうっと歯を立てられて、くすんと笑った。
ぺろー、っと指先のほうまで舐められて、さらに口端を引き上げる。
「I missed you,」
指先で唇をなぞり、小さく告白する。
――――寂しかったヨ。
きら、と。キャッツアイが煌めいていた。それを見詰め、指先で唇を押し撫でる。
「ミューズに勝っちまったかな、」
そう恋人が呟き。かぷ、と爪のところに歯を立てられた。
「ウン―――――ずっと、オマエのことしか考えられなかった」
酷くゆっくりとTシャツを引き上げられている間に呟く。
風呂に入った後に長くストレッチをして。
軽くシャワーを浴びた後に、遅めのサパーをどうにか口にして。
それからまた、汗をかかない程度にストレッチをしてコーザを待っていたから、着ていた服は部屋着以外の何物でもなかったけれども。
酷く大事にアンラップされていくのは、妙にくすぐったくて嬉しくなる。
する、と肩に口付けられた。
「セトの匂いだ、」
ちゅ、と音をさせてまた唇を押し当てられる。
それから長い指先が伸びて。乱れた髪を直していった。
「……また乱れるのに」
「それもまた楽しい」
くすんと笑って、コーザの頬にそうっと触れる。
きゅ、ときつく鎖骨を吸い上げられて。ふ、と息を吐いた。
甘い声で名前を呼ばれ。
焦らしているのか、優しくされているのか、ワカラナイほどゆっくりとドローストリングのボトムを引き落とされた。
「んん、」
素肌が温まったリネンに触れて、小さく震える。
目の前で、影が動き。見事な体躯が目の前に現れる。
とさ、と恋人が脱ぎ去ったシャツが、フロアに落とされる音がやけに大きく響いて、小さく笑った。
大きな掌が、する、と項に垂れていた髪を梳き上げていき。
く、と首筋を曝せば。小さく笑ったようだった恋人が、く、と牙を埋めてきて呻いた。
「んぁ、」
つきん、とした強い痛みに、身体がびくりと跳ね上がる。
口を開いたまま喘いで、痛みを逃す。
腰骨のところから、力強いタッチで大きな掌が滑っていき。きゅ、と穿たれたところをきつく吸い上げられて、強い眩暈に目を閉じた。
それでも片手は恋人の背中に回し、滑らかな肌の熱さを愛しむ。
く、と片足を引き上げさせられ、熱く火照っている肌をいとおしむように触れられ、ゆっくりと目を開けて見上げる。
「おれの方こそ、」
低くて甘い声が響く。
「セトの夢もみないように努力したぜ……?」
く、と口端で恋人が笑い。とん、と唇が触れ合わされた。
うっとりと笑えば、そうっと中心部に触れられ。その瞬間、一気に身体が熱くなって、軽く背中を浮かせた。
「な、んで、夢、ダメ……?」
こく、と息を呑んで瞬き、軽いバードキスの合間に尋ねてみる。
ふ、と。酷く“魅力的”なカオを恋人がした。
「好き勝手しちまいそうだから」
下唇を齧られ、もう僅かに唇を開く。
く、と熱に軽く爪で線を引かれ。びくりと腰が揺れる。
「……んぁ、」
く、と眉根を寄せる――――たったそれだけの刺激なのに、与えられる快楽は酷く深い。
する、と先端まで指が辿っていき。押し撫でるようにされて身体を震わせた。
く、と恋人の広い背中に指を埋める。
「していいのに、」
ぽつりと呟く間に、くう、と濡れた熱が滑り込んできて。受け入れて、擦り合わせて、口付けを深める。
片方の手で、まだボトムを穿いたままの恋人の腰を辿った。
絡み合わせた舌先を引き込んで啜り上げて。
深い口付けを味わう。
く、と喉奥で笑った恋人が、手指にわざと零した蜜を刷り込むようにしていた。
「んん、」
甘えた声が勝手に鼻先から抜ける――――構わないけど。
アングルを変えて、また深く舌を絡み合わせれば。く、と甘く舌に歯を立てられて笑った。
ほぼパニックに陥っていたらしいアタマが、羽が地面に落ちるように落ち着いていくのが解る。
くちゅ、と音を立てて手を動かされて。ぴん、と快楽だけが張り詰めていくのが解る。
舌先に残るタバコの苦味を全部拭い去り、甘さだけが感じ取れるようになって。
快楽以外に残っている感情は、果てしない愛情だけなんだと知る。
さらさらとやさしく身体の表面を愛撫されながら、手で丁寧に快楽を引き上げられていくのが解る。
そうっと背中に線を引いた――――どうしてこんなに気持ちがいいんだろう?
く、とコーザの口端が引きあがっていくのを感じ取り。ゆっくりと絡めていた舌を解いて、笑った。
とん、と目元に口付けられて、嬉しくなる。
「セト、」
やさしい声に呼ばれて、眩むのを承知でキャッツアイを見上げてみる。
「なァ?」
そう言って、琥珀色が微笑みを浮かべた。
「おれの顔みたまま、イってみて?」
ふは、と笑いが零れ出た。
「ガンバル、」
囁いて、ゆっくりと瞬く。
目を閉じてしまいたいほどに、齎されていく快楽は強いものだけれども。
ゆっくりと何度も瞬き、きらきらと煌めくキャッツアイに視線の先をロックさせておく。
きゅ、きゅ、と濡れた音と共に高められていく快楽に、何度もアタマの中で発光するけれど――――愛しい、とコトバにはせずに告げてくる恋人を見詰めているのは、嬉しいから。
「ぁ、は、」
ふる、と震え、背中に線を引き。
時折、耳朶や首筋などを齧られる合間に、一瞬だけ瞬く。
かあ、と身体の奥から熱が湧き上がっていく感覚に、溜まらずに熱い吐息を零す。
「……こ、ざ、」
眉根を寄せて、快楽に身体がどんどん重くなるのを耐える。
する、と返事代わりなのか口付けられ、荒い息を零す。
す、と間近で煌めくキャッツアイが視線を合わせてきて。
掠れ気味な甘い声が、なに、と聞き返してくるのに、ゆっくりと瞬く。
きゅ、と胸の飾りを押しつぶされ、びくりと腰を揺らした。
くう、と腰を引き上げられ、眩暈を覚えて恋人の背中に爪を立て。
かり、と顎を齧られ、濡れた音を断続的に響かされて、身体の奥深くから震えた。
「…イク、から」
は、と熱い息を零して。
勝手に潤む目で恋人のキャッツアイを見詰める。
「セト、」
甘い、僅かに甘えたような声に、こくん、と息を呑む。
「見て、ろ」
閉じてしまいたいのを堪えて、キャッツアイを見詰める。
「ふ、ぁ……ッ」
く、と強い眼差しが見詰め返してくるのに、なぜだか泣きたくなりながら。
ぶる、と腰を震わせて、眉根をキツく寄せた。
「ん、あ…ッ」
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