パッキングと身支度が出来たセト氏とアシスタントくんがそれぞれの荷物を持ってエントランスに下りてきたのは、ブレックファーストが終わってから一時間半後だった。なんでもセト氏が軽くストレッチをこなしてから着替えたからだそうで、その辺りはさすが本職がバレエダンサだけある、と思った。最もセト氏に言わせればちっとも足りておらず、アントワン氏との会食が終わったら、すぐさまロンドンに戻って本格的にレッスンをするつもりらしい。来週には次の演目の練習に入るらしいから、身体をメンテナンスし始めなきゃいけない頃なのだそうだ。
ちなみに、最初に二人が下りてきた時、その場にいたアンドリュウとジェンさん以外の全員が見事に固まった。人は服とメイクによって相当変わるものだと職業柄知っているにも関わらず、見慣れた二人があまりにも違って見えたからだ。
そういう意味では、セト氏のチェンジは納得のいく範疇だったけれども、なんとまあアシスタントくんがねえ……”甘いだけじゃない”って意味の半分はコレだったのか、と。愛想のいい笑顔の裏から見え隠れしていたシャープさに納得がいった。
着替えて準備万端のセト氏は、クリーム色のモヘアのタートルニットの長い衿を半分に折って着ており、その上から黒いスゥエードの細いラインのジャケットを、同じく細いラインの黒いズボンと靴に合わせていた。黒髪は前髪が多少サイドに流して落とされたまま緩くムースで後ろに撫で固められ、黒い睫の間から覗くアイスブルゥアイズが見据える先を邪魔しないようになっていた。上に着る予定のものはウールのロングコート。衿が毛足の長いフォックスで、シンプルでシャープ、ストイックながらエレガント、カジュアルな服装なのに総じて艶やかで、どことなく黒薔薇のようだ。
対してアシスタントくんは、これぞクラシコ・イタリア!なラインの深い茶色のスーツ、それをあっさりと着熟していた。髪はぴしりと撫で上げられ、今朝までは前髪の間から見え隠れしていた眉の上の傷が、更にシャープな印象を深めている。いままでお茶目なニーサンだったのに、今受ける印象は……抜け目のないビジネスマン。明らかに年若いのに、敏腕そうで容赦がなさそうだ。携帯電話片手に多分迎えの人と連絡を取っている姿は、並の若造には持ち得ない貫禄が備わっていて、どこか声がかけ辛い。
「アンドリュウ」
セト氏がにやにやと笑っていたカメラマンに盛大なハグをしていた。
「また連絡する」
「ああ。写真が出来上がったらコールするよ、セト。チェックしたいだろう?」
「もちろん。ああだけど、すっげぇ楽しかったヨ。オマエに撮られる時はいつもだけど」
ぽんぽん、と互いの背中に手を弾ませてから笑顔で離れていた。
す、とセト氏の双眸が僕を捕らえ。つかつかとやってきたセト氏の腕の中にぎゅむっと抱き留められた。
「すごい楽しかったよ、ムッシュ・ミクーリャ。アナタの服が着れて光栄でした」
頬に柔らかく口づけられる。
「あの、セト氏」
「ハイ?」
「−−−また遊びましょう」
色々考えた後にそう言えば、にっこりと笑った。貰った応えは”是非”、うん、嬉しいね。
セト氏が次にジャンに綺麗にメイクされ、ハリウッド・スター並に美貌に磨きがかかったジェンさんに近づき、柔らかく頬にキスして言葉を交わしていた。次のスケジュールの確認らしい。
背後ではアシスタントくんがアンドリュウに挨拶しているのが聞こえた。
「アーンドリュ、どう?おれ合格?あんたのアシスタント」
セトの時専属、と付け足したアシスタントくんに、おうまた来やがれ、とカメラマンは豪快に笑って。握手の後、力強いハグを交わしていた。むしろアンドリュウが問答無用に引っ張ったに近いわけなんだけども、アシスタントくんも嫌がるでなくハグしていた。まあいってみれば、”よくやった!”の意思表示なわけなんだけども。
「ロスでも遊びに行くのでよろしく」
と、にぃっと笑った彼には、先にコールくれたらセト抜きでも付き合うぜ、が返事だった。アシスタントくんの風情が多少違う所は、ちっとも気にならないらしい。……まあでもヤツの友人の女好きイタリア人も、年下でシャープでアングラなニオイさせてたからな。案外”男友達”ってもんはそういうもんなのかもしれない。チーム・ワイルドドッグス、なんつって。
ふわりと僅かに表情を和らげてアンドリュウから離れ、にか、とピーターくんにも挨拶していたアシスタントくんが、次には僕に近づいてきた。つかつかと歩く姿は、もはや懐っこい狩猟犬というよりはハンターだ。なんだかかっこいいね。刑事モノのドラマにでも出てきそうだ。
すい、と大振りなゴツいリングの嵌った右手が差し出され、
「ムッシュ・ミクリヤ、」
と声をかけられる。すう、と頬には余裕たっぷり自信満々、けれどシャープでどこか冷めたような大人の笑みが浮かんでいる。
まだどこか戸惑っていた僕の手をく、と握って、ほんの少しだけ首傾げて、
「改めまして、コーザ・L・ヴァリアルドです。ご覧の通り、本業は”投資家”ですが」
そう言って片眉を引き上げ、目元でちらっと微笑んだ。キャッツアイがきらっと煌めいて、なんか、うん、心臓がどきっとした。きっとオンナノコなら恋だと勘違いできそうな感じ。だから、今頃自己紹介かよ、とか、投資家なのかよ、とかツッコミを入れるチャンスを逃しちまった。
「あなたをからかっていたわけでは無くて、一応採用試験も兼ねてたんですよ、アンドリュー師匠のアシスタント、ってやつの。勿論、被写体がセトの時だけね」
あの愛想のいい尻尾ぶんぶん甘々笑顔はどこへやら、シャープでひやっとするような笑みを、自称投資家くんが浮かべる。
「”こういうヤツ”がいてもあまり盛り上がらないし、おれも素の方が楽しいですし。ムッシュ・トキ・ミクリヤ、おれの愛する人を美しくしてくれてありがとう、とても楽しかった」
と、ツッコミ所満載すぎて一言も言えなかった僕をひょいっとさっきアンドリュウがやってたみたいに引き寄せた。うーん、やっぱしワークアウトはみっちりデスカ?力強いアシスタントくん基コーザくん(と呼ぶにはなんだか憚られる、フツウに呼ぶケド)の腕の中は、なんだかとてもいいニオイがした。でもドキドキしすぎて、とてもじゃないけどうっとりはできない。つーか、や、ま、うん、セト氏といかに素敵な恋愛を育んできたかを、デロ甘笑顔で語ってくれて、しかもあっちのほうが本性だっていうのなら、きっと怖がる必要はどこにもないんだろうけど。
「お知り合いになれて、光栄です」
そう言って離れたコーザくんが、す、と僕の手の中に名刺を差し入れてくれた。ひょい、と反応して見下ろせば、前にくれると言っていたプライベート・ナンヴァが書いてあった。……もしやナンパ成功???
「せんせ、おれとも遊んでくれないと拗ねますヨ」
と僕を覗き込んで、にかっと笑った。そして僕が返事をする前に、きらきらのキャッツアイが胸ポケットに入っていたサングラスの向こうに隠されていった。うわ、なんだか……映画スタァみたいだぞ。
「あの、コーザくん」
呼び掛ければ、すい、とサングラスの中の双眸が合わされた。
「また遊ぼう、こういうのでなくても。もちろんお披露目には絶対来てな。なんだったら変装してきてもいいからさ」
そう言えばコーザくんは、なんだか少しだけ嬉しそうに笑った。
セト氏がピーターくんや僕のスタッフたちとハグとキスの挨拶が終わり。
コーザくんもマリエンヌとクローディアとジャンにハグとキスの挨拶を終え、ステファンとは親しげに握手を笑みと言葉で交わし、ジェンさんとは優しいキスとハグで挨拶を締め括った頃。
「セト、来た」
そうコーザくんがす、とセト氏に近づき、耳元で囁いていた。ふわ、とセト氏がコーザくんを見遣り、口端を緩めて頷いた。うわー、シャープに色っぽい〜!
セト氏がコートを羽織り、コーザくんも濃いスティールグレイのポニースキンのロングコートをさっと着込んでいる間に、アンドリュウとピーターくんが二人の荷物を外に出してあげていた。
なんだかハリウッド映画に出て来る登場人物みたいだね。蠱惑的なセト氏と、シャープなコーザくん。黒髪のセト氏は容赦無く美人で、付き添うコーザくんは洗練されたハンサムだ。恋人同士だということに違和感なく、存在の大きさが釣り合っている。良いパートナー。−−−いつもの金髪のセト氏と並んだら、少しはシャープさが薄れるのだろうか。
外に出れば、黒いリンカーンが長い私道をゆっくりと走ってくるところだった。それを見て、セト氏が小さく笑う。それから、ダックスフンドだ、と呟くように言っていた。−−−ダックスフンド、ねえ?まあ見えなくはないけどさ。セト氏って案外笑い上戸なのかな?
エントランスの前で、件の長い車体が停まった。見るからにセレブレティ乗せてますってな車だよな。中が広いのが嬉しいっちゃ嬉しいか?
す、と助手席のドアが開き。ダークスーツをぴしっと隙なく着こなし、ボディガード以外の何者にも見えない男性が降り立った。ボディガードじゃなければマフィアだな。てかセト氏の周りは美形で固まってるのか?(仮)ボディガードくんまで映画に出てきてたっておかしくないようなクールなハンサムだよ。モロにドーベルマンって感じの。
そんな彼が、黒髪になったセト氏にほんの僅かだけ微笑みを向け、す、と目礼だけしてた。それから僕たち一同にも。うーん、クールだ。あんなに印象の変わったセト氏を見ても驚きもしない。むー、つまらんなー。
コーザくんが、ひらっと軽く彼に向かって手を振って、
「よ、サンキュ。連中は?」
なんて確認していた。ふぅん、セト氏の関係者じゃなくてコーザくんのなんだな。ってことは、僕より随分と年下な割にはかなりの重要人物なんだろうか?何者であっても、あの甘々笑顔アンド容赦の無い惚気を振り撒く姿が本物だって解ってるから、ファサードがどうだって、別に怯まないけど。
声までハンサムなボディガードくんは、
「恙無く過ごされたでしょう?アナタは」
なんて聞き返していた。うーん、大物には違いないんだけどな、ボディガードくんの方がなんだか実権握ってそう。そして僕等に一言、
「ごきげんよう、」
と、極めてクールな笑みで挨拶をくれてから、さっとコーザくんの分の荷物をエントランスの方から持っていった。
……二日間の撮影のための荷物にしては……ああ、結構マメに着替えてたもんな。着道楽なのかな?何着てもかっこいいから、さぞ着替えがいがあるってもんなんだろうけど。つうか服を作っているサイドにとっては嬉しい事だけどね。
で、セト氏の荷物はどうしたかっていうと、恋人であるコーザくんが持ってあげていた。うーん、エスコート慣れしてるなぁ。
「アリガト」
ふわ、とコーザくんに笑い掛けたセト氏は、エスコートされ慣れているけれども育ちがしっかりしているんだろうな、常に感謝を忘れない礼儀正しい人だ。最初に会ったホテルのスタッフにもそうだったけど、コーザくんに対する眼差しは優しさや嬉しさや感謝やらが取り混ぜられていて、なんだかとっても温かい。
セト氏が最後にジェンさんに、なにかあったら直ぐ電話するんだよ、と言って頬にキスしていた。ジェンさんからもキスが返される。
すい、とセト氏の眼差しが全員を捕らえ。
「また会いましょう、」
そう言って軽く手を振ってから、開け放たれていたリンカーンの後部座席に優雅に滑り込んでいった。
その際、
「ますます凛々しくなられて。ぜひとも”こちら”の再教育もお願いしたいところです、プリンシパル」
なんてボディガードくんがにぃこりと笑ってセト氏に言っていた。コーザくんの反応は、「言ってろ、」
と、しれっとした一言。セト氏は乗り込みながら、
「オレには充分凛々しいんだけどな」
なんて笑って返していたけど。つうかボディガードくんにも惚気ますか、セト氏?
笑みで手を振ってコーザくんも、どこかピンとした気配のままセト氏の後に続き。ボディガードくんがドアを閉めてからこちらに目礼し、それからまた助手席に戻っていった。
ゆっくりと車が滑り出し、黒い後部硝子が光りを弾く。
よく磨かれた車は段々と遠退いていき、ひとつ息を吐いてからシャトーに足を向ける。
する、とアンドリュウの腕が肩に回され、横を見上げる。
「淋しそうな顔してンな、トキ」
「なんかさ、二人揃って全然違う世界の人みたいだった」
ぼそりと言えば、現実にそうなんだからしかたがないだろ、と返された。
「どういう意味?」
「オマエはファッション業界の人間、セトはバレエダンサ、コーザは経済界だ。遠いっちゃ遠いだろ?」
「…うー、やっぱり」
「はン?」
ひょい、とドでかわんこが顔を覗き込んでくる。
「やっぱり、ちゃんと友達になってください、って二人に言えばよかったかな?」
くす、と笑ったアンドリュウが、がしがしと僕の頭を撫でた。
「次遊ぶ約束したら、もう友達だろ」
「そう?」
「少なくとも、連中は”唯の知人”相手に惚気倒したりはしないさ。あんな風に人前で遠慮なくじゃれあいながらは絶対に」
にっこりと言い切ったアンドリュウの目は真摯だ。
横からすい、とジェンさんも顔を覗かせた。
「アタシが保証するのもなんですけど、セトもコーザもすっごくアットホームでしたよ。セトは本当は警戒心が強い方ですから、余程の信頼がない限り、ああやって何度も艶っぽい表情はしません。コーザもああいう風にセトが他意なく甘える姿をそうそう他人に見せ付けることはしませんし」
自宅やプライベート空間ならもっと遠慮ないですけど、他人の目があるところであそこまで自然にじゃれあうことはあまりありません、そう続けられた。
「あれ以上に甘くなるの?」
聞けば、恋人同士ですから、とあっさりと肯定された。うーむ…。きっとどんな風なのかは聞くべきじゃないんだろうな。
「ま、ひとまずはお疲れさん。山は一つ越えたな」
アンドリュウの言葉に頷く。
「あとは写真が上がったらチェックして。セト氏とオマエに1ページずつ書いて貰ったら、製本に回して。会場借りて、ディスプレイして、第一部と第二部の場を完成させたらお披露目」
「間にコレクション発表もあるし、当分は忙しいな」
アンドリュウの言葉に頷く。
「楽しみがいっぱい」
「その心意気なら問題なさそうだな」
ぽん、と肩を叩かれ、アンドリュウが離れていった。
仕度が調ったなら送っていくよ、とジェンさんに申し出ていたアンドリュウから離れ、シャトーの中に戻る。
階段からはまだ優雅にセト氏がアシスタント…じゃないや、コーザくんにエスコートされながら現れるような気がして。あの上品で優しい人の存在感を思った。
全員が片付けるために散っていった中、一人佇む。高い天井を見上げて、ひとつ深い息をする−−−さあ、歩き出そう。
階段のところ、大きな色硝子の窓のところで渦巻く光りの中にイメージを見た。光りの天使、柔らかな白いシルクのドレス、ハイウェストでネグリジェのように薄いシルクシフォン、ベイビドールと古代ギリシャの間のような。髪はアップにして、メイクはシャープに。黒いリボンでウェスト締めたら、下は厚底のゴツいブーツなんかいいかな。ジャケットはフェイクファーの黒いハーフ丈より短いヤツで。ああいっそ、ベリーショートな髪形のモデルに着せるのもいい。銀のクロスを黒いチョーカーから下げて、ついでにドッグタグがあってもかわいいかも。指と腕にはなにもなく、大きく広げた胸の上には、髑髏か薔薇の入れ墨があれば
「トキ、廊下で魂を彼岸まで飛ばすな」
ウルサイ邪魔するな今イメージが
「どうせ聖ペドロには入口で追い返されるんだ、諦めて陸路をひた走るぞ」
ずるずるとデカい腕に引きずられる。僕のことは放っておけって。
「アンドリュウ、勝手に連れ出して怒られないか?」
ふ、と声に意識を戻せば。レザーのハーフコートに甘いベージュのマフラーを巻いたかっこいいジェンさんがいた。うわ、それにグッチのサングラス?かっこよすぎるよ、男前だよジェンさん!
「ここで脳内トリップしてても刺激が足りないだろ。だからせめて郊外のウマイ空気と田舎の風景を見せてやらんとな。現実に戻るにゃそれなりの手順踏ませてやらにゃ」
僕を引きずったまま、アンドリュウがジェンさんのスーツケースを拾い上げた。
「行こうか、ジェン」
「どうなっても知りませんよ?」
「平気だって。どうせ城にいてもすることは無いんだしな?」
わぁるかったな!どうせ僕は自分の荷物さえ満足にパッキングできないような不器用モノですよーだ。
ひょい、と足元をみれば、ジェンさんは黒いデニムの下にトレッキング・ブーツのようにゴツい黒革のショートブーツを履いていた。ますますカッコイイ。
いいな、戦闘的な天使ってのも。ジェンさんは肌がきっちり日焼けしてるけど、セト氏のように焼けてなくてもイイ。黒髪にアイスブルゥアイズ、男性の天使ならなにを着せようかな…?
考え込んでいる間に、僕はいつの間にかアンドリュウがレンタルしたヴァンの後部座席に座っていた。ジェンさんは助手席で、アンドリュウは運転席。ぱ、と軽くクラクションが鳴らされ、動き出した車のサイドウィンドウからは手を振っているステファンとピーターくんの姿が見えた。−−−いつの間に?
ジェンさんがステレオに手を伸ばした。きっとアンドリュウの趣味なのだろう、流れ出した軽快な太鼓のリズムの後にギター、それからクセのあるボーカルの声、いくら世間に疎い僕でもコレは聞いたことがある−−−ガンズの”シンパシィ・フォー・ザ・デビル”。
くっと映画に出て来る工作員のようなジェンさんが笑った。周りには長閑なフランスの田舎風景が広がる。ミスマッチ、けれどなんだってどこかで繋がることができる。
「アンドリュウ、」
「なんだよ」
「ありがと」
ミラー越しに、サングラスをかけてもはや特殊部隊の一員みたいな、どう見ても軍人にしか見えないプロカメラマンが笑った。
「No problem(どういたしまして)」
−−−うん、遠いったって、そんなに遠くなんかないよな。
「ジェンさん、お願いがあるんだけど」
ハイ?と振り向いたセト氏のかっこいいマネージャさんににっこりと笑ってみる。
「アルプスで写真撮ったら、今度会った時見せてもらえないかな?」
ふわ、とジェンさんが笑った。
「惚気付きでもいいのなら」
「−−−アイツらに感化されてるぞ、ジェン」
横から言ったアンドリュウに、ジェンさんがくすくすと笑った−−−光栄です、だって。
「おい、トキ。オレたちも負けていらんねーぞ」
笑ったアンドリュウに小さく笑いを返す。
「だねぇ」
「一丁気合い入れるか」
「ん。そうだな」
妙に息投合した僕たちに、ジェンさんがまた軽やかに笑った。
「急いてはし損じますよ」
「失敗は成功の元、なんとかなる」
「傷ついても頑張ってください」
「おーよ、メゲナイぜ」
かっかと笑うカメラマンから目を反らして、窓の外を眺める。セト氏とコーザくんは今頃どこ辺りを走っているのかな。
同じ空を見上げているのなら−−−やっぱりそんなに遠くはないよね。
FIN
Epilogue
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