不意に扉が開いて。
「オッケイだよ、着替えに入って」
はいどうぞ、とジャンの後に入って来たのは、ばっちりと”雪の女王”にメイクされたセト氏だ。冷たい感じに仕上げられた美人が、けれどふにゃりと猫みたいに笑う。うう、インパクト!
「よろしくお願いします」
「あ、はい」
三人でばたばたとセト氏に近づく。モードメイクのセト氏も、近くで見てもすんげえ綺麗だ。ビスクドールだって足元に及ばないよ。
眉のラインはいつもよりシャープに。シルバーのアイシャドウを大きめに塗って。淡いメタリックパープルを瞼の上で合わせて、濃いシルバーを下睫の下に乗せる。黒いマスカラと黒の付け睫を付けた上から、ラメの入ったクリアマスカラを重ね付けし。目尻には小さなスワロフスキィのクリスタルを張り付けてある。口紅はマスカラと同じ、淡いメタリックパープルだ。ほとんど白に近い。
指先も長い白の付け爪にジェムを先端に並べた物を付けてドレスアップしている。
「雪の女王ってどうかと思ったけど、これならいいかなと思いなおしたよ」
セト氏がにっこりと笑った。冷たい印象に造った顔が、一気に優しさを増す。
さすがトキ・ミクーリャ先生だね、との嬉しい言葉に、思わず破顔しちゃったよ。でも貴方だからここまで出来るんだって僕は思ってデザインしたんだよ?
「じゃあ残りの変身もお願いします」
「よろしくお願いします」
…セト氏はすっごく、気の回る人なんだろうな。だっていつでもセト氏は僕を気分良くしてくれる。−−−セト氏は恋人の前だと、どんな人なんだろ。ランチの時の会話を思い出して、俄然気になる。直ぐに意識から追い払うけど。

セト氏にガウンを脱いでもらって、カシミヤのトップスを着てもらう。メイクが移らないように薄いヴェールを先に被って貰って、実は背中の真ん中から首までUの字に切れ込みが入ったトップを着てもらう。両サイドに付いたフックに白いサテンの細いリボンを通して、首元まで結い上げる。曝された背中からうなじにかけて斜めにかかるリボンがとてつもなくセクシィだ。筋肉が細かくて、芸術品、だよなあ!
次いでたっぷりとドレープをとったアシンメトリのスカートを履いて貰う。剥き出しの右脚に対して、左脚は完全に隠れ、セト氏が女性だったら間違いなくガーターベルトをしてもらってるところだ。セト氏がいくら美人でも骨格が成年男性だからね、さすがにその気には僕もならない。(このことについては、アンドリュウとセト氏の両方から、”君の感性はノーマルなんだね”とのコメントを貰った。……僕って一体何だと思われていたんだろう。)
身体に沿って柔らかく垂れるたっぷりとしたドレープの位置を軽く直す。仕上げにベルトを左腰上で緩く巻いて、垂らして。
「ブーツとコートは後半の撮影からだから。先にアクセサリを付けちゃおうね」
どこかもういつもとは印象の違うセト氏に語りかける。目礼するような小さな頷きが返事だった。

一式が専用のケースに入ったジュエリをステファンから受け取る。そのまま彼には、アンドリュウに後10分程で支度が調うことを伝えに行ってもらった。
ジュエリケースを開ける。……何度見てもすごいなぁ。
「うーわ、エカテリィナとかマリィ・アントワネットの世界だね」
初めて完成品を見るセト氏が驚いた風に言った。試着の時はまだ全部が揃ってなかったから。
「社長が安くしてくれたんだ、広告費になるからって」
セト氏からの了解を得て風変わりで有名なイギリス人の社長に話しに行ったら、絶対に失敗はないだろうから安くする、と言ってくれた。言わば第二のスポンサに名乗り出てくれたようなものだ。”セト・ブロゥ”の交友関係とネームバリューはすごいよ、うん。きっと普通のモデルだったらこうはいってないよな。
「ああ、じゃあ侯もお披露目には呼ばれるんだ。楽しみだね」
ふわりとセト氏が穏やかに笑う。んん、クールなメイクなのに、ほんわりと温かいのはやっぱり人柄だよなぁ、うん。

重みのある豪奢な九連のダイヤのチョーカをセト氏の首に回す。最高の人工ダイヤモンドだからこそできる、絶妙なグラデーションも想像通りだ。濃いイエローとクリアのダイヤモンドを使った大きな十字架が、カシミヤの温かみのある白い布地の上に落ち着く。
「爪に引っ掛からないかな?」
「そこはグリフィス兄弟になんとかしてもらったから大丈夫だと思う」
する、とセト氏の長い指先がクロスをなぞっていった。
「カクテルドレスでも綺麗だろうね」
「セト氏のように綺麗な女性がいたら、そうしようかな」
「オレが基準なんだ?」
くすっとセト氏が笑った。
「これはセト氏のイメージでデザインしたからね」
ふにゃりとセト氏が笑った。甘い声が、アリガト、と言葉を綴る。
「僕のモデルになってくれたんだ、それだけで嬉しくて、天にも上る気持ちだったよ」
セト氏の両耳に、長く垂れ下がるダイヤのイヤリングをクリップでそうっと留める。透明度の高い二種類のダイヤ(内側がイエローダイヤモンドで、上が淡く下に行けばいくほど濃くなるグラデーションになってる。外側はクリアのダイヤモンドだ。しかもかなりのカラットがある)が、エレガントにセト氏に添う。
「次はアンクレットだね。足台があるからそれに使おう」
ステファンが出していってくれた足台に足を乗せてもらって。ひざまずいてアンクレットを付ける。ぴったりと裸足の足首に添うのは五連のグラデーション・ダイヤのチェーンだ。このジュエルを留めるのには全部プラチナを使ったので、クールでクリアな印象は断トツだ。
一歩下がって、セト氏を見遣る。傍に控えていたジャンが素早く近寄り、メイクを直して、髪をセットし直す。前髪は緩く横に垂れるようにし、横と後ろはワックスを付けて、くしゃりと一度潰してから緩く解す。
ふわふわと雪のような柔らかさのある髪とシャープなメイクが、エレガントでゴージャスな服とジュエリのバランスを取る。うん、絶妙!

「どうかな?」
セト氏が僅かに首を傾ける。
「ゴージャス!!」
ステファン、マリエンヌ、クローディア、そしてジャンと声が重なる。
「オレも見たい」
「もちろん」
フィッティング・ルームにあるキャスタ付きの鏡を移動させる。
「ムッシュ、やっぱりなんだかウェディング・ドレスみたいだね?」
左側のサテンを摘んで、くるりと身軽に一周した。剥き出しの足に添うチョーカが光を弾く。
「やっぱり雪の女王ですよ」
うん、セト氏に品があるもんな。

こん、とまた控え目なノックが響き。すう、とドアが開いて、やんちゃな青年が現れた。足元のジュエルを見ていたセト氏がゆっくりと彼を見上げ。アイスブルゥとキャッツアイが見合う。ふわ、とセト氏が柔らかな笑みを浮かべて。きっと彼もばっちり見惚れてたんだろうな、ぱちくりと瞬き。す、とセト氏に近寄って、
「毎秒事に、美しいですね」
そう囁くように言った。にかあ、とまたなつっこい笑顔になり、す、と腕を差し出す。布を踏まないようにちゃんとセト氏の右側に立つのが、エスコート慣れしていることを示す。
くう、とセト氏が、それはそれは艶やかな笑みを浮かべ。す、と手を差し延べられた腕に添え、ムートンのスリッパに足を通してから小さく頷いた。歩き出したセト氏の左手は小さく布地を摘んでいて、その姿はやはり凜とした女王そのものだ。
部屋を出ていく二人は随分としっくりきていて。やっぱり男性服も手掛けようかな、なんて思う。だってさ、ちゃんとした服を着せれば。彼に横に立って貰って、写真撮っても素敵じゃん?

一階の大広間、白い大理石の床に白い壁、ギリシャ風の柱にゴールドフレームの大きな鏡、金とバカラの特大シャンデリアに、火が入った大きなマントルピースが印象的な部屋。
そこに深碧のシルクサテンを吊して白い壁を覆い。淡い色合いのゴートやシープのラグを敷き。オークと深い赤のビロードを基調としたアンティークの長椅子と、ペイント等で凍ったように見える花や枝をベニチア硝子の花瓶に挿して部屋を飾り付け。深紅や深緑のシルクのクッションを配置し、アンティークデザインのバカラ等の透明硝子の花瓶や置物等を置いて、”雪の女王”に相応しい寒さを演出した。
映画だったら、もっと氷っぽいセットにしたんだろうけど、服をちゃんと見せないと僕たちには意味がないしね。コートとブーツを着用したら、外での撮影もあるし。
カーテンを閉めて暗くし、暖炉の火とシャンデリア、アンティークスタンドに乗せた蝋燭で明かりをとった大広間では、ライトの位置が決められ、撮影が始められる所だった。アンドリュウが振り向き、僕がいることを確認し、フォトセッションがスタートする。
最初は深碧のサテンに囲まれた一角からスタート。足元に淡い白と薄い茶の交じったゴートのラグが置かれ、回りに黒いスタンドを配置し。その上に赤や緑の花瓶に凍った花を活け。同じく黒の高いスタンドに金の装飾が施された白い蝋燭を燈して。

「背中のショットからな−−−左側からこっち振り向け。視線は落とし気味から…そう。全部拒絶してる顔でな」
アンドリュウの声に続いたフラッシュと共に振り向いたのは、心まで凍った”雪の女王”。清廉だが母性的な温かみがなく、無慈悲で断絶的だが気品溢れる美しい人ならざる者。
思わず背筋が伸びたくらいに厳しい顔をしていた。”冬の到来”。
「そのまま回って…ストップ。誰かを手招け。お前は雪なんだから、最初は冷たく」
凍った表情のまま、女王が手を伸ばし。ジェムに縁取られた長い白い爪がゆうるりと動き、”招かれた”。視線の先がアンドリュウの持ったカメラでなければ、間違いなく一歩を踏み出していただろう。ふとした瞬間、嵐の雪山に一歩踏み入れたくなるような、そんな瞬間じみていて。背筋にひやりと何かが触れた気がした。
「ゆっくり歩け。ピーター、ライトの向きに注意しろ。…シャンパン開けてる間にフルート渡せ」
凍った花や枝で飾り付けられた柱に女王が近づき。静かにシャンパンが開けられる音が響く。ピーターくんはライトの位置を直した後、金で縁取られた繊細なガラスのフルートグラスを白い手袋をはめた手で、どこか恭しく差し出していた。
繊細な動きで慣れた手が細い首を摘み。ピーターくんが下がったところで、す、と黒に近い深緑のボトルの口が差し出された。アンドリュウが寄り、鮮やかな黄金の液体が新アシスタントくんによって注がれる。
「飲まなくていい、唇当てて…注いだ者に興味を抱け。氷で閉ざされたお前のウチにやってきた酔狂な馬鹿だ…そう」
ちらり、とアンドリュウの横にいた新アシスタントくんに視線が当たる。拒絶していたアイスブルゥに、僅かに柔らかさが宿る。まるで狩るための獲物を見付けたような眼差し。
新アシスタントくんは、けれどどこか苦笑するように僅かに口端を引き上げただけで、すぅ、と存在感を消していった。すげえっ……動じないって、何者?

「グラスはもういい。長椅子に座ってくれ。威厳を持ったまま…そうだ、お前の家だ、リラックスして…」

新アシスタントくんがグラスを引き取り。まるで踊ってでもいるような優雅さで長椅子に近寄った女王が、す、とそれに腰を降ろした。腕を手摺りに預け、重心を僅かにずらし。裸足をラグのたっぷりとしたファーに埋め、長い右脚を軽く組む。きらきらとダイヤのアンクレットが光を弾き。透き通る肌が、白い布と赤いビロードに映える。
目を離しがたい程に官能的な仕種なのに、一歩も動けない程、そこには冷たい目をした女王がいた。剥き出しの肌の艶めかしさに女王が持つ威厳と気品は損なわれず、煌めくダイヤモンドが氷の結晶かと思われる程に”生”の熱さが感じられない。
「雪ってもんは冷たいが、固めちまえば内側は暖かいよな−−−雪の女王も同じだろ」
お前の内側にたどり着いたコイツをどうする?と、アンドリュウが新アシスタントくんの背中を叩いた。
女王は、く、と芸術的な優雅さで以て片眉を吊り上げ。組んだ脚を解いて、すう、と指先で彼を呼んだ。うっすらと口元に刻まれた笑みが、拒絶することを許さない。もちろん、呼ばれた彼のキャッツアイは女王にひたりと合わされたままだ。ただし完全に魅入られたわけでないらしい、どことなく優しい顔をしているように思えた。まるで愛しんででもいるような。

「雪に閉じ込められちまえば、暫くは暖かいが時間が過ぎちまえば遭難するだろ。だからコイツは迷う、直ぐにはお前に靡かない。さあどうする?本気でかかってこいよ」
アンドリュウが新アシスタントくんに小さく”呑まれ”んなよ、と言っているのが聞こえた。返答は少しシャープな声で”まさか、”と、視線は女王から外されないままで齎される。”負けてちゃ獲物失格でしょ、”と少し軽い口調で続けられていたけれども。
女王は構わずに真っ直ぐに彼等をその蒼氷色の目で捕らえたまま、ゆっくりと身体を長椅子に横たえた。上体は深緑のクッションと肘掛けに預け、右脚は下、布に覆われた左脚は上、けれどそれは僅かな衣擦れの音を立てながら、少しずつ引き上げられていく。驚くほどに白い脚と、煌めくダイヤのアンクレットが現れ、息を呑む。たったそれだけの仕種で、かっと体中が熱くなったような錯覚を覚える。
不意に。とろり、と視線が熱を帯びた。飾られた指先がまた近寄ることを許すかのように動いて。淡いパールパープルの唇が、ゆっくりと言葉を綴る−−−Viens−y、”来い”。
心臓が勝手に跳ねた音が酷く大きく聞こえた。足が踏み出そうとするのを懸命に堪える。ここはセットの中で、あれはセト氏なのだと頭の中で繰り返す−−−そうしなければなにもかもが揺らいで、呑まれてしまうだろうから。
僅かに開いたままの唇が、ゆうるりとその形を笑みに変える。アイスブルゥに熱が宿っている。欲している、目。視線の強さに、頭が催眠術にかかったかのように、現実と仮想現実の間で揺れ動く。
ひとつ息を呑んだ。その音が、色合いで創った寒さ等無いも同然にまで高められていた熱を冷ます。
淡々と深い男の声が妙にくっきりと響く。

「お前の腕の中に獲物は落ちた。雪の女王、好きな方を選べ。獲物を受け入れずに冷たい飾り物にしちまうか、その熱に溶かされて消えちまうか」
す、と蒼氷色が統べての熱を一度納め。それからクッションに背中を預けて身体を倒した。長く白い脚があらわになる。
く、と苦しそうに女王が眉根を寄せ、ゆっくりと熱い吐息を漏らした−−−密やかに、喘ぐように。
指先がそっと背中を辿るように、煌めくダイヤの十字架をなぞる。深い恍惚に浸っているかのよう肌が熱を帯び。光りを弾く長い睫の間から覗くアイスブルゥが潤んでいた、とろりと蕩けて。
ゆっくりとそれが、パールホワイトと淡いメタリックパープルの向こうに消える。す、と表情が消えて。
そこから凍っていくように、統べての熱が収束していく。指が十字架の上で休み、片腕はだらりと垂れ下がり床の上のファーを掠め、左脚は軽く立てられたまま−−−女王はひとつの美しい氷の彫像になった。

夢を見ているかのような時間が、カメラマンの不粋なまでに動じていない声に遮られる。
「オーライ、復活して今度は背中のショットな」
ぐら、と立ちくらみがする。っぶね〜!
「今度は赤い方のクッション抱えて俯せな。ピーター!…ちっ、使えねぇな。さっさと放って寄越せ馬鹿野郎っ」
ぼぅっとしていたピーターくんが、一喝されてあたふたと動き出す。
その間にジェンさんはささっと動いて、ストローを挿した水のペットボトルから飲むように差し出していた。うわ、さすがマネージャだ。彼女も動じてないよ〜!新アシスタントくんは、”セェト、スリッパいる?”と無邪気な忠犬のように近寄っていた。小さく首を振って断ったセト氏に、自分の頬を指先でなぞりながら”ちょっと赤い?”とにぃっと笑みを浮かべながらきいていた。セト氏の答えはくすくす笑いに紛れていたけれども、多分”まさか、”だろうと思う。…すっごい平常心の持ち主ばっかだよぅ。
僕のスタッフは、といえば。ジャンが慌てて道具を持ってライトの中に飛び込んでいったのが流石プロ、といえるだけで。マリエンヌもクローディアもぽかんと口を開けて見惚れていた。ステファンに到っては、真顔で凍り付いている。

ジャンがメイクと髪を直して、ばたばたと帰ってきた。頬が紅潮している。
何か言いたそうなのを指で合図して止め、視線をセト氏に戻す。今度は長椅子の反対側に身体を倒し、腕は顔の下、深紅のシルク・クッションの上で組み。白いスカートのドレープを長椅子から芸術的に垂らし、脚は幼い子供のように軽く立てて組んでいた。
「セート、女王はどこ行った」
笑うようにアンドリュウが言う。余程のプロなのか、親友として免疫があるのか、はたまたどこかオカシイのか、動じてないカメラマンはやっぱり偉大、なのかもしれない。
「ちょー待て、さっき一回途切れたから」
「イッたの間違いじゃねーのか?」
アンドリュウの明け透けな言動に、けれどセト氏は怒るでもなく。優雅に左中指を追っ立てて、にやりと凶悪に口端を引き上げ。
「Fuck you、ass−hole(クソッタレ)」
そう囁くようにオッシャッタ。−−−う??エフ・ワードっすか?
くっくとアンドリュウが笑い、獲物の味は?とか聞いていた。…なんだかなぁ(溜息)。
セト氏はけれど、蕩けたようにふにゃりと笑い。ウマイケドちぃっとも足りない、とかどこか甘えたように答えていた。うわあん、心臓に悪いようっ。
そうしたらあっけらかんと、新アシスタントくんが通り過ぎがてらに言った。
「センセー、おれ獲物担当がいいですー」
ううん、奴は大物確定だな!

セト氏が組んだままの脚を倒し、アンドリュウが裾の位置を直す。あ、雪の結晶のレースがきれいに出るようにしてくれたんだ。セト氏が足首で組んだのも、アンクレットが生きるように、だ。
二人のプロ根性に感心している間に、ピーターくんにライトの位置を移動させた後、撮影は再開していた。
ふ、と視線を感じて首を動かせば。優しい光りを乗せたキャッツアイと出合った。すぐに何かをしに踵を返していたけど……んー、なんだろうね?

「次の獲物、狙ってみな」
アンドリュウのその言葉に小さく口端に笑みを浮かばせた女王が、目線だけで獲物を呼ぶ。きらきらと煌めくアイスブルゥは、まるでそこに魔法があるかのように見る者を吸い寄せる。
組んだ手に頬を預け、長いイヤリングを垂らし。それからそっと目を閉じた−−−ひらひらと舞い落ちる降り始めの柔らかい雪のように、ちょっぴり甘く、そして優しく呼び寄せるような、そんな横顔。
雪っていったって色々あるよな、と今になって思い至る。さすがは”天性の表現者”だね、と思わず感心する。なにもアンデルセンの提示したイメージに固執することもないよな、と思い到って。
そうすると、外での撮影はどうなるんだろう。無限の可能性にドキドキしてきたぞ。





next
back