柔らかな金色、水に濡れても艶やかな色味を肩に小さい頭を預けさせたまま乾かして。眠りこんだセトを腕に抱いて、少しの間眠り。
明け方前に自然と目が覚めた。以前、セトと冗談めかして笑いあったままのベッド、ソレは結局マスターベッドルームじゃなくて別の部屋に置いたけれども、そっちの部屋に移って眠ってみた。
理由は、実は簡単で。
おれがベッドメイクが下手クソだってことのほかに、その部屋だとちょうど窓越しにセトの眠るところにゆっくりと日差しがあたって、実際、目覚めが気分がいいわけだ、キラキラしたものがきらきらした光のなかにいて、視界のなかが柔らかな金色のものだけになる。
いつもなら、ローブを羽織らせて寝かせるけれど。
信じがたいほど魅力的な肩の作る線が、それだと薄手の生地一枚で隔てられるから、今回は無し。
毎回、見惚れる。
そして、実際。感動したりもする。このヒトを司るもの全てのバランスの奇跡じみた配合に。
眠りが浅くなっていき、瞼を通して感じる明るさに眉根がほんの少し寄せられるサマであるとか。
寝起きにすぐ、オハヨウと声を掛ける前に見せてくれる、まだ半ば眠ったままのようなすこしだけ柔らかに緩んだ笑みであるとか。そういったものを、人生の恩恵として受け取らせて貰う訳なんだが。
早くに目が覚めた、今日は。
まだ夜明けにもなっていないかもしれない、−−−あぁ。ちがうな。部屋の暗さから時間を割り出してみた。
肩口に、額を預けられてる。軽く。
片腕を伸ばして、肩の線を静かに掌で辿る、起こさないように。静かに、背中をリネンにつけさせて、額に唇で触れる。
「おはよう、けどまだ朝じゃないから。もう少し寝てなね、」
眠る恋人に言い聞かせるような口調に勝手に自分がなっているのを、どこかクスグッタク意識した。
なにか、ちいさく。セトが言葉にしきれずに言っていたのを聞き、声にしないでわらう。
そして、唇で口元を擽ってから、起きだした。
まだ朝は早すぎて、住み込みで働いてもらっているミナサンは起きる時刻じゃない。屋敷の気配は、誰もまだ活
動してはいないソレで。カンタンに服を引っ掛けて下に向かう。
ミセス・フィッツジェラルドの少し厳しい顔が浮かんだが。
「ノーマ、後で怒られるからサ」
独り言をいいながら、キッチンに向かった。
多少の我侭は大目に見て欲しい、なにしろ、いまから一ヶ月おれは恋人の顔を拝むどころか、下手をしなくても話さえするのも難しい事態、ってヤツに手を掛けるわけなンだから。
「クソロミオめ。まァだおれに手間かけさせやがって」
軽く東の従兄に向かって悪態をヒトツ。
ぴし、と整頓されて何もかもがぴかぴかと光っていそうなキッチンを見遣り、まずは珈琲でも飲むかな、と思い。
見当をつけた棚をとにかく開けて周って、やっとカップを見つけ。豆は?と最大の難関だった。
やべェ、わかんねぇぞ。あーあ、と笑いながら代わりに出てきた紅茶で妥協して。
奇妙な気まぐれには違いないけれども、朝からセトを笑わせるには十分かなと思いついたプランの実行にかかった。ノーマが起きてくるころには、曲りなりにも上出来に仕上がってはいたはずだが、なぜか、お小言の代わりに最大級のハグをイキナリされた。
「キッチンの惨状は大目にみさせていただきます……!」
ふン?惨状か?そこそこ片付けたけどナ、一応。ダンサァなセトが取るアサゴハンは基本的にライトなモノの典型めいているわけだし。そうそうひでぇことには・・・・・あー?成ってるか?
「ノーマ、そンなに酷いかな?」
「普段なさらない男の方にしては、中の下です」
うわお。言うねえ、ノーマ、。
ノーマの後からキッチンに支度にでてきたサラがそれを聞いて目を見開いていた。
「んー、アリガト。じゃ、冷える前に持ってくからサ」
とん、と頬にキスを落として、カトラリーと皿をトレイに載せて。おっと、とそのバランスに笑った。ポットが滑りかけた。
彼女たちは実はなんでもない風にみえて、結構なスキルの持ち主なわけだな。

「キッチンは中の下でも、出来上がったものは上の上」
じゃあな、また後で、とキッチンを後にして。温野菜のサラダにハムとサニーサイドアップ、ヨーグルトにフレッシュフルーツ、って具合のアサゴハンメニュー完成版を運び。ベッドルームを覗く。
ハハ、ビンゴ。キラキラしてら。
サイドテーブルに朝ゴハンをさっさと置いて。ベッドの傍らに戻る。半ば以上、座り。
静かな寝息を零している恋人を覗き込む。日差し、金色、うっすらと色づいた頬、艶やかな線。眠りのさなかにいてさえ、セトはそれ以外の存在を霞めさせる。
そう、と。額に唇で触れる。
「オハヨウ、」
甘やかしてるだけのツモリだったけど、多少は、つうか可也疲れさせちまってはいるんだけど。起きれない、ってほどじゃないだろ?
とろん、と柔らかく焦点が何処か曖昧な蒼が現れて、微笑み。
すう、と髪に手を差し入れる。さらさらと指の間を滑る絹の感触に少しばかり感情が擽られる。
「起きれた?」
もう一度目元に唇で触れる。
ふわ、とセトが笑顔を零し。
「まだ夢のなかみたいだ、」
そう、あまい声が綴る。
「そ?」
ウレシイね、と。唇を啄ばむ。
「じゃあ、もうひとつ」
するり、と額をあわせ。間近で告げて見る。
する、とたおやかな腕が伸びてきて、おれの服の端を捕まえてくるのにわらう。
参った、なんでこんなにおれのセトはカワイイんだ???神様、助けてくれ。
これだけ愛しい存在を一ヶ月も腕に抱けない、側に居てやれない、なんてこった。
はたはた、と。まだ半ば夢のなかにいるように、セトが酷くゆっくりと瞬きするのを間近で一秒一秒、捕らえながら告げる。
「ベッド用じゃないから、起きてもらわないとナ?」
服を捕まえた手指に自分の掌を重ねる。やんわりと握り、引き上げさせて口付ける。
「アサゴハン。作ってみました。召し上がれ、王子」
ん、とどこか甘いままの声で応えたセトがゆっくりと起き上がって。口付けてくるしなやかな存在を片腕に抱いて告げる。
「あー、王子ってよりはやっぱり大猫サマかね?あンたは」
く、とわらって。そのまま抱き上げるようにベッドから降ろした。
「オハヨウ、愛してるよ」





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